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#15 手持ち花火

ここまでのあらすじ

夏休みを迎えた帰宅同好会は、夏合宿へ行く事に。

目標は夏っぽい事全部やる事。

目標は達成できるのか?

そして主人公、安曇(あずみ)(なな)の恋心の行方は……?

 スイカ割りを終えてからしばらく海で遊んだのち、私たちはホテルにチェックインした。

 部屋は広くて綺麗な和室。

 学生だけで来るには勿体ないような場所。

 私たちは暫く他愛も無い話をして時間を潰した後、夕飯を食べ終えたところだった。


「じゃ、そろそろ出るよー」

「まだ今日なんかするの?」

「あったりまえだよ! 夏らしい事二日で全部やりたいんだから……!」


 七時頃。

 夏真っ盛りなだけあり、太陽もようやく沈もうかという時の事であった。

 私たちはまた行先も知らされないまま、悠加に突然次の行先に行くから最低限の荷物を持って外に出ろと言われた。




「悠加ぁ。今どこ向かってるの?」

「山」

「それは分かってるんだけど……」


 ホテルを出た私たちは今、少し遠くの山を目指して歩いている。


「まあ、そろそろ何するかくらい教えてもいいんじゃない?」


 枯月さんが悠加に言う。

 枯月さんは旅の予定をしっかり把握している。

 雨雅さんと私だけが次に何するかも分からず歩かされているという訳だ。


「そうだね……では! 次の予定を発表します!」


 悠加が下手なドラムロールの声真似をしてみせる。

 雨雅さんが呆れたような顔でそれを眺めている。


「花火をします!」

「いぇーい!」


 悠加の発表を枯月さんが拍手で盛り上げる。私も控えめに拍手をしてみせる。

 花火か、夏らしくて良いなぁ、なんて考えながら雨雅さんの方を見てみると、何故かこの人は焦っているように見えた。


「ちょっと待て栞。花火ってあの花火か?」

「うん。花火だよ」


 会話の内容が私には理解できなかったが、雨雅さんの様子を見るに、ただ事では無さそうだった。


「ゆかりぃ、何焦ってんの?」

「そりゃ焦るだろ! 花火だぞ花火! はぁ……でももう準備しちまってんだろうな、今更キャンセルなんざできないんだろうな……」


 この人は花火を何だと思っているのだろう。

 枯月さんは何か納得したような表情でニヤニヤ笑っているだけで、二人のやりとりには口を出さなかった。


「ゆかりぃ、花火嫌いなの?」

「嫌いじゃねえけどさ! 好きだけどさ……流石に個人で打ち上げ花火ってのは流石にさぁ……」

「「え?」」


 私と悠加の声が重なった。

 雨雅さんはキョトンとしたような顔をしており、枯月さんは必死に笑いを堪えている。


「花火ってのは……手持ち花火とか、線香花火とか、そういうのを想定してたんだけど……」

「……なるほど、な」


 ついに枯月さんが堪えきれずに笑い出した。


「そんな勘違いあるぅ?」

「去年、あたしの誕生日に栞がマジの打ち上げ花火あげたんだよ……。そのせいだ! 全部悪いのは栞だ……!」


 個人で打ち上げ花火とは、驚いたものだ。


「てか栞、お前分かってて黙ってたろ」

「いやぁ、だって面白かったんだもん……」


 枯月さんはまだ笑っている。


「そういえば、手持ち花火程度ならなんでわざわざ山の方まで?」

「山の方が星が綺麗に見えるからね。みんなで見たいんだよ、星!」


 好きな人と一緒に星を見るというのは、何ともロマンチックな事だ。

 私は期待に胸を踊らせた。




「到着〜! 早速花火花火!」

「火器の使用許可は頂いてるから、好きにして大丈夫だよ〜」


 少し開けたところに出る。小さな公園のようなところだ。

 悠加も枯月さんも用意周到である。

 悠加は持ってきた鞄からせっせと花火を取り出している。


「でも、こういう花火やるの初めてだなぁ。私」

「そりゃ、個人で打ち上げ花火できる奴がわざわざこんなショボい花火しないよな」

「私憧れだったんだよねえ、線香花火」


 枯月さんが近くの水道でバケツに水を汲みながらそんな会話をする。

 つくづく、枯月さんの育ちの良さを実感する。


「おっけー! こっち準備できたよ!」

「私も大丈夫。じゃあ……始める?」

「そうだね。それじゃあ花火大会スタート!」


 早速悠加が袋から取り出した手持ち花火にライターで火をつける。


「綺麗〜!」

「火傷には気をつけてねー」


 悠加に忠告しつつ、枯月さんも一本取って火をつける。

 私も一本花火を取り、枯月さんの背後に立ってライターを使い終わるのを待つ。


「七! 火分けたげる!」

「あ、ありがと」


 私の持った花火の先端に、悠加が自分の花火の先端をくっつける。私と悠加の肩もほとんどくっついていて、少し意識してしまう。

 火が移り、私の持った手持ち花火から綺麗な赤い火花が飛び出した。


「綺麗だねぇ」

「う、うん。綺麗」


 悠加がこちらを向いて嬉しそうにやける。

 花火の光が当たって、悠加の顔が照らされる。

 本当に、綺麗だ。


「あ、火消えちゃった……新しいの持ってくる!」


 悠加が走り出すと、私の肩に当たっていた感触は無くなる。

 肩に感じる温もりをわざわざ意識しているのは、私だけなのだろうか。そんな事を思うと寂しくなる。肩がくっ付いたくらいでわざわざ意識しないのは至極普通の事なのに。

 恋というのは酷いものだ。相手が当たり前の事をするだけでも勝手に苦しくなってしまうのだから。


「七ぁ。二刀流!」


 私が勝手に感傷に浸っていると、悠加が花火を二本持ってやって来た。

 私の気も知らず、お気楽な奴だと思ったが、私は悠加のそういう所が好きなのだ。


「てか、七の花火も消えてるじゃん。せっかくだし七も二刀流しようよぉ!」

「えっ、あ、うん」


 悠加の事ばかり見ていて、私は手元の花火が消えている事に今更気付いた。

 私も悠加に言われるがままに花火を二本持つ。


「いや、三刀流……四刀流行ってみよっか! 両手に二本ずつ!」

「それ花火の無駄遣いじゃない?」

「いやいや、そんな事無いって! やってみなよ……」


 悠加にやってみなと言われた事はだいたい断れなくなってしまう程に、私は悠加に心酔していた。


 私は素直に両手に二本の花火を持ち、火をつける。


「わっ……めっちゃ綺麗……」

「でしょ〜?」


 両手に二本の花火を持てば、単純計算で火力も二倍になる訳で、先程より勢いが強く綺麗な花火が見られた。


「私ね、もっと上が目指したいの。十刀流……いけるかな!」

「少々やりすぎな気が……」

「いいのいいの! 火ちょうだい七!」


 悠加が両手に五本ずつ花火を持って、私の隣に立つ。

 私は渋々自分の花火の火を移す。


「うわっ!! めっちゃ明るい!」

「でも綺麗だね……」


 尋常じゃない火力が出ている。


「なあ栞、あいつら何馬鹿なことやってんだ?」

「まあまあ、楽しそうだしいいじゃない」


 雨雅さんと枯月さんが一本ずつ手持ち花火を持ってそんな会話を交わしているのが聞こえる。

 ちょっと恥ずかしいかもしれない。




「あ〜……もう手持ち花火無くなっちゃったぁ……」

「普通一回であの量使ってたら無くなるだろ……馬鹿なのか?」


 結局、手持ち花火は数分で全て無くなってしまった。


「まあ、線香花火がまだ残ってるし……」


 悠加が寂しそうに線香花火の袋を開け、よっつ取って私に一つ渡す。

 私は悠加の隣にかがみ込んでそれを受け取る。


「せーので火つけて、最後まで残った人が勝ちね!」

「でもライターひとつしかないけど……」

「えっとね……蝋燭持ってきたから、これの中に同時に突っ込もう」

「用意周到すぎねぇかお前……」


 ただの思いつきのように見えて、前々からわざわざ準備している。悠加はそういう人なのだ。

 蝋燭に火をつける悠加の横顔を見る。

 いつもの悠加の横顔。


「じゃあ行くよ〜! せーの!」


 一斉に線香花火に火がつく。

 地べたに四人でかがみ込み、線香花火を眺める。


「綺麗だけど、すぐに落ちちゃうと思うと寂しいね」

「ねー」

「時間が経って物事が変わっちゃうのって、すごく怖い」


 独り言のように悠加が零した。

 ああ、またこれだ。私の知らない悠加だ。


 私も、悠加と同じことを思ってしまった。

 時間が経って――悠加が私から離れて行ったら。


 線香花火に視界を移す。

 悠加の顔を見ていられなかった。


「七は、変わらないでね」


 枯月さんと雨雅さんには聞こえないような小さな声で、悠加が私に耳打ちした。

 どういう意図なのかは分からなかった。


「悠加も、変わらないで」


 私も悠加に耳打ちする。


「ふふ、ありがとね、七……そんな事言わせちゃってごめん」


 同時に、私の火が落ちる。

 ずっと、悠加が何を言おうとしているのか上手く掴めなかった。


「あ、七負け〜!」

「あらら、残念……!」

「てかお前ら、今二人だけで何話してたんだ?」

「ゆかり、二人の関係には私たちは踏み込まないでおくのが無難だよ……」


 いつもの空気に戻る。

 いつもの悠加の笑顔。安心と疑念が私の胸を襲う。


「あっ、ゆかり落ちた!」

「栞も落ちたぞ」

「じゃあ私勝ちだ! やったー!」


 悠加が飛び跳ねて喜ぶ。


「じゃあ二回目……はできないか」


 悠加が意気揚々と二回戦を始めようとしたが、袋に残された線香花火は残り一本。五本入りであった。


「雨降ってきた!」


 水滴がぽつりぽつりと、空を見上げる私の顔に落ちてきて、頬からこぼれ落ちる。


「あぁ〜ん、星見れないじゃん!」

「佐野橋ちゃん今それどころじゃない! 急いでホテル戻ろ!」

「ほら全員傘持て……!」


 雨はすぐに強くなり、私たちに容赦なく降りかかる。

 蝋燭の火はすぐに消えてしまった。


 私たちは結局走ってホテルに戻る事になってしまった。

帰宅同好会の運動神経

元陸上部のゆかりは勿論、悠加も何故か運動神経がかなり良い。栞も体力は無尽蔵にある。

何もかも弱いのは七だけである。







更新遅くなり申し訳ありませんでした。

今後しっかり更新していきますのでどうかよろしくお願い致します。

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