嵐前の夢
色とりどりの光で彩られた鮮やかな港町。
ようこそ、この世界で最大の港湾都市ドーミアスへ。
街の入り口にそう掲げられた看板には、緑と赤のモールと白と青のイルミネーションが飾られており、実に賑やかな装いだった。
ここに一歩踏み入れば、前後左右上下どこを見渡しても視界をごちゃごちゃと騒がせるものが目に入る。
例えば目の前には動くデコレーション松の木が、
「お前も待ち合わせの目印にならないか?」
後ろには赤髭を生やした真っ白な服のおじさんが、
「おい!!!!!! プレゼント置いてけ」
左右には角と鼻以外の全身に何かの返り血を浴びた怪人二人組が、
「こんにちは〜」
「ようこそ! ここは港町ドーミアスだよ!」
上にはハロウィンにいそうなクソデカ蝙蝠が、
「えなにこれ何の集まり??」
下には地面から顔を出すことを覚えた茶色の幽霊が、
「オイオイオイ白パンミニスカ黒ニーハイハケハケハケ」
といったように。
「目印になりたければ、まず頭に星を掲げます。ペカーーーーキュインキュインキュイン!!!!」
「プレゼント何?ねえプレゼントは??ねえねえねえお前プレゼント何持ってきた??????」
「この辺じゃ見ない顔ですね。この街は初めてですか?」
「じゃあ歓迎しないとね! はい! これは歓迎の挨拶の、大鉈だよ!」
「えっヤバここやべーやつしかいねーじゃん草」
「レースガーターローファー太ももベルト」
訂正。
視界だけではなく聴覚的にも騒がしかった。
とりあえず右トナカイから
「それではごきげんよう!」
振り下ろされてきた大鉈を避けて
「ギャアアアアアア目が目が目がァァァァァァ!!!」
何かに刺さったまま抜けなくなった大鉈を踏み台に上へジャンプ。
蝙蝠の足を掴んで
「えっ何やめて!?」
左トナカイに向けて
「やあ」
勢いよくぶん投げ
「ほへっぶぎゃあっ!!!」
その反動で擬似二段ジャンプをし、動く松の木を踏み付けて
「キュイン!?」
さらに大ジャンプ。
ひとまずこれであの包囲網を突破でき
「たと思ったか?????」
「うおぁっ!?」
ビュンッと顔のすぐ横を何かが通り過ぎていった。ベチャッとしたものが頬につく。驚いて空中で姿勢を崩したが、でも着地には成功。
松の木が大鉈トナカイに向けてぶっ倒れていくのを横目に、何かを投げつけてきた者の姿を探した。モグラ幽霊が目を押さえて悶え、蝙蝠がトナカイに釘バットで吹っ飛ばされている姿も見受けられるが、今探しているのはそれではない。
頬を拭うと、手には白いクリームのようなものが付着した。……クリーム?
「!!」
嫌な予感がして、その場を横に飛び退いた。その時、先ほどまでいた場所を、白い円盤が垂直にすっ飛んでいった。
「おいプレゼントだぞ受け取れよ」
白い円盤が飛んできた方を見れば、そこには真っ白なサンタが、紙皿にスプレー缶でクリームを盛り付けている光景が。
なるほど。古の遊戯か。ぐるぐるとソフトクリームを少し潰したような……おいそれう◯ちの形だろやめろ!!
「ファンからのプレゼントが受け取れねえってのか?」
「は?」
ファンとは何のことだ、と一瞬固まった隙に、釘バットトナカイが釘バットを振りかぶって急接近してきた。
「おとぎの国におかえりなさああああい⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎」
「んなっ!?」
ブゥンッ、ドガァンッ!!
間一髪、鼻先を掠めるように振り下ろされた釘バットを避けると、すぐ下の地面がクッキーでも砕いたかのようにバキバキに割れた。釘バットが出していい威力じゃない。
というか、おとぎの国って、まさか……
「おい乙さん狩り邪魔すんなテメエ! 顔面にパイぶっ飛ばすぞ!!」
「嫌ですよ、せっかくカルユニにいる乙木颯を特定できたのに」
「!?」
乙木颯。
それはとある動画配信サービスでの、僕の活動名だ。
乙木颯とは、お伽話の中の王子であり、現実世界のとある本に描かれた挿絵の肖像画からこちらの世界を覗いている、という設定のなりきり型ゲーム配信者である。
金髪の爽やか系貴族な見た目をしたアバターを使いながらも、プレイするゲームはそのどれもがゲテモノであるという、一癖も二癖もあるキャラクターだ。
そんな彼には少なからずファンがおり、彼らもやはり風変わりなものが多い。彼らが乙木颯に勧めてくるゲームはどれもゲテモノであり、しかしマルチプレイゲームではこれ以上なく丁寧に乙木颯をもてなしてくれる。
乙木颯にとってはとても愉快な仲間であり、同時に永遠の敵とも言えよう。
そんな彼には、実況配信をしていないゲーム、つまりプライベートでのみ遊んでいるゲームも、もちろん存在する。
毎日ログインしなければならないようなソーシャルゲームや、休止していたが時々懐かしくなって戻ることがあるオンラインゲーム、特に実況するほどでもないくらいゆるい放置型ゲーム、そしてゲテモノじゃないゲームなどがそれに該当する。
そして、今プレイしているこのゲーム『 - Cultivation Universe - 』、通称カルユニも、そのうちの一つだ。
「……まさか、君たち……」
プライベートでゲームを楽しんでいた僕に接触してくるということは。
「どもっす。『Buddy of Baddy』の伝道師こと、狂力心頭マジキラーです」
「あけましておめでとうございます、勉鬼と申します。おすすめゲームは『Ready Study?』です」
「戦犯1号とべんき先輩!? マジかよ!?」
ゲテモノ好きだってことだ。
「おい戦犯って何だ戦犯って! 酷い言われようじゃねえか!」
「いや君『Buddy of Baddy』じゃその名前で遊んでるでしょ!?」
「あれから入試対策は進んでいますか? 志望校の過去問はこの時点ですでに10周は終わらせていますよね?」
「いやもうやんないからね!? あれマジでクリアするのキツかったんだぞ!? あのゲーム誰が作ったんだよ本当に!」
ここで説明しておくと、『Buddy of Baddy』とはゲテモノ対人ゲームであり、『Ready Study?』はゲテモノ勉強ゲームである。
『Buddy of Baddy』は、ありとあらゆる手段を使って、陰に日向に存在する人物を片っ端から殺していくことを目的としたゲームである。描写は割とデフォルメされているが、プレイヤーたちがとる行動そのものがえげつないのでR-18に指定されている。
『Ready Study?』は、小学校・中学校・高校・大学の定期試験及び入学受験の対策をすることを目的としたゲームである。性悪学歴厨が作ったのかと言わんばかりの引っかけ問題、難問が登場するため、まず普通にクリアするのが難しいゲームだ。
「戦犯1号は何度か粘着してくるし……」
「配信してたから居場所まるわかりだったんだもん」
「べんき先輩は煽りながら解説してくるし……」
「でもありがたかったでしょう?」
「そうだけど! だから余計に腹立つんだよ!」
どちらのゲームも乙木颯は配信でプレイしており、乙木颯自身かなりハマってしまったことを自覚している。その証拠に、ゲーム中に人を見かけたらまずどう殺すかを考えるようになってしまったり、謎解きを見かけたらとりあえず紙とペンを用意するようになってしまった。
そんなゲームを紹介してくれた同士が、どうしてこの場にいるのか。なぜ自分を狙っているのか。そして、今はもう正月だというのにどうしてクリスマスの格好をしているのか。
「……色々聞きたいことがあるのは山々だけど」
だが、とりあえず。
ピロンッ
「───おとぎの国から颯爽と参上! どうも、乙木颯でーす!」
配信だ。
ピコン
スマホの画面に一つの通知が現れる。
「……?」
内容は、乙木颯というゲーム配信者が、告知していない配信を開始したということだ。
いわゆる、ゲリラ配信である。
「乙さん? 告知もなしに何やってんだ……?」
今日の日付は1/1。新年最初の日である。
告知によれば、今日は動画をアップするだけだったはずだ。こんな配信をする素振りなど、どこにもなかった。
「もしやサプライズか? 乙さんもたまには粋なことするじゃん」
ポチポチとスマホの画面を操作し、いつもの動画配信アプリを開く。登録している乙木颯のチャンネルから、現在配信しているものを選択して、配信画面を開くと……
『───特定されました!』
第一声はそれだった。
配信タイトルが特に設定されていなかったので、少し巻き戻して経緯を確認してみると、どうやらプライベートで遊んでいた『 - Cultivation Universe - 』というゲームで、偶然視聴者と遭遇したらしい。
しかも、その遭遇した視聴者というのが、(視聴者たちの間では)有名なゲテモノゲーム伝道師である、戦犯ニキとべんきニキだとのこと。二人とも、何故かサンタとトナカイの色違いコスプレをしているのだが、彼らは過去に囚われているのだろうか。
『ところで、なんで君たちサンタとトナカイの格好してるの? もう正月だよ?』
ヒュッ、バァンッ
『え、バ先のコンビニで着せられたから』
『それクリスマス当日の話だよね?』
ブォン、ドカンッ
『時給上がるんですよ、この格好してると』
『だからそれクリスマス当日の話だよね???』
なるほど、この二人がクリスマスに悲しき現実を過ごしたということは分かった。あの日、どこかのコンビニにサンタ帽子かトナカイカチューシャを付けた彼らがいたのだろう。乙です。
『ちなみにあなたはどうしてここに来たんです?』
『え僕? っと───【神鳴ル武器】』
ガガガガガッ、キィンッ
『いや、フレに「ここ来たら面白いことあるよ」って教えてもらったからさ、せっかくなら見てこようかなって思って』
『あぁ、なるほど』
ヒュヒュヒュヒュッ、ベチャチャチャチャッ
『今回のイベント結構おもろいっすよ。港の方で募集してるんで、行ってみたらどうっすか?』
『うん、だったら見逃してくれないかな?? さっきから殺意高すぎだよ君たち!』
和やかに会話しながらも、戦闘の手は止めない3人。お正月にクリスマスの格好をして戦闘をしているというのに、平然と会話している。その辺りが『Buddy of Baddy』民らしい。
あのゲーム、一回触れてみると分かるが、かなりの魔境だ。テレビ画面とコントローラーを使うようなレトロゲームと違い、没入感が半端じゃないフルダイブ型のVRゲームで、人を殺せというゲームなのだから、当然と言えば当然なのだが。
現実ではできないような凶悪な殺し方を、さも当然のように相手は仕掛けてくる。自分もそれに対応しながら、また相手を惨たらしく殺さなければならない。なんだったら、その最中に雑談に興じようとしてくる者もいる。イカれ野郎共め(褒め言葉)。
あのゲームに長時間入りびたるようになったら、頭のどこかがおかしいと言われても仕方がないほどに、残酷、かつ、難しいゲームだ。
シュババッ
『えっ乙さん「新年会」行くの?』
『この目印、役に立ちますよ! いりませんか!? いりますよねぇ!?』
『おわぁ!? 急に何!? 誰!?』
突然、大鉈を持ったトナカイとクリスマスツリーが増えた。どっから来やがったてめえら。こいつらもリスナーだろうか。
金髪の貴族青年に付き纏う、色違いサンタとトナカイ二匹、そして頭の星が虹色に輝いているクリスマスツリー。うん、なんとも愉快な光景だ。
『あけおめ〜、勉鬼のリア友こと問レです』
『新年会待ち合わせの目印担当、もちのきでーす』
『あ~~もぉ~~、まぁたキャラ濃い人たちが増えちゃったよぉ~~───【凍ツク武器】』
ヒュンッ、ドドドンッ
『横に並ばないでもらえますかトナカイ2号?』
『は??? 後輩が先輩に命令する気か???』
『おい邪魔だ栗の木! 偽雪デコレーションされてえのか!?』
『似非サンタごときが何かほざいてる~怖~い☆』
『あー収集つかなくなってきちゃったー、って危なっ!?』
トイレニキともちニキも加わり、やいのやいのと大騒ぎになってきた。皆さん大変仲がよろしいようで。
ちなみに、トイレニキは『Ready Study?』配信にて文系のべんきニキが解説できなかった理系科目を解説してくれたリスナーで、もちニキは『Buddy of Baddy』配信にてとりもちトラップを使って戦犯ニキと乙木颯を漁夫って散々煽り散らかしたリスナーである。
カカカカカッ、キィンッ
『っととと、連携は取れるのね君たち───【加速】』
ビュンビュン飛び交う白いパイ皿とクリスマスツリーの装飾を、目にも止まらぬ速さで避けながら、大鉈と釘バットの連撃を弾いている。おぉよく凌いだな、乙さん。
そのまま『タップステップ』を発動しグッと踏み込んで、問レの懐に入り込んだ。
ダンッ、シュバッ
『で? さっき言ってた「新年会」って何?』
『うお近っ!? あぁ、「新年会」は今ここでやってるイベントっすよ』
フォォン……───ズドドドドォンッ
『ここでもクリスマスの時期が過ぎたので、復活してるみたいなんですよ』
『何が?』
『ワールドボスが』
え? マジ? ワールドボス復活してんの?
あぁそうだ、ワールドボスっていうのは……
カンッ、ヒュッ、ズバババババッ
『ワールドボス? って、あのラナン様みたいな、めちゃ強レイドボス? ───【燃ユル武器】』
『そうそう。全調査船団共通の討伐クエストの対象となっている6体のボス、通称ワールドボス。それぞれに王や帝を冠する二つ名があり、各地の現地種族に残されている歴史書から、ワールドボスは「神の手足」に近い存在なのではないかと考察されているな』
……全部トイレニキが説明してくれた。ぐう有能。
ちなみに乙木颯が言った「ラナン様」っていうのは、豊王ラナン・ディーテというワールドボスのことだ。
ワールドボスの中ではかなりまともな方で、世間話にも質問にもちゃんと応えてくれるおっとりお姉様系のお方である。見た目が、中世貴族の女性っぽい衣装を身に着けた木造人間って感じなので、木婦人と揶揄されることが多い。
戦闘では、自分は主戦力として戦うことはなく、手下を召喚し、彼らに滅茶苦茶にバフを重ねがけして殴らせるような戦い方をしてきた。しかし、とあるアイテムを持っていると、その手下にだけ与えるはずのバフをプレイヤーも貰うことができるという、攻略法もある。
別に戦闘せずにお話だけすることもできるので、世界観や設定を暴くために考察厨は通い詰めてるそうな。
『丁寧な解説ありがとう、問レ先輩』
『おいトイレとか言うな! お食事中の方がいたらどうするんだ!』
『いや君のリスナーネームのせいなんだけど!?』
それはそう。よかった、さっきご飯済ませておいて。
『それで? ワールドボスが復活したのは分かったけど、それと今回のイベントに何の関係g……え、まさか』
ドゥルルルルルルルルッ、デデェンッ!
『そう!! 今回のイベントは、ワールドボスと「新年会」をするんだぜ!!』
『イェーーーイ!! ペカーーーーーーーキュインキュインキュインキュイン!!』
『FOOOOOOOOOOOOOOOOO!! ハッピーバースデートゥーユー!!』
『お祝いのクラッカー鳴らしに行かないとですねぇー!』
マジかよ! ワールドボス討伐イベだって!?
あけましておめでとうございますとか言ってる場合じゃねえ!
ワールドボス討伐、それは、このゲームきっての大型レイドバトルである。
ワールドボスは総じてとても強いため、何十人とプレイヤーを集めて準備を整え、何重にもバフとデバフを重ね掛けし、何度も死に戻りして、ようやく討伐できるものだ。その難易度ゆえ、戦闘に飢えている上級プレイヤーくらいしかこぞって参加することはしないのだが、討伐できれば莫大な報酬が得られる。もちろん、報酬は貢献度によって多少差異がある上に、戦闘で消費するアイテムや装備の方が多すぎて赤字になることもあるが。
それでも、参加するだけの価値はある。そう思えるだけの「経験」ができるのだ。
『丁度キリ良く新年になったからなぁ、色々な攻略法を試すにはいい機会だろ?』
『年明けには初詣ってね〜』
『物騒だなぁこの人達』
『クリスマスから1週間経ちましたからね。もう準備万端ですよ』
『まあ新年のご挨拶に行くだけだから大丈夫だって乙さん』
『どこが大丈夫なのか説明してほしいなぁ先輩方?』
え、やべえマジで行きてぇ。自分の部屋の片隅に置かれているフルダイブ型VRゲーム機を見やる。
カルユニ。自分もプレイしている、いわゆる隠れた神ゲー呼ばれるものだ。
Cultivation Universe、直訳すると、開拓世界。
その名の通り、世界を開拓し拠点を作っていくことが目的のゲームだ。ジャンルで言えば、領地経営やシミュレーションゲーム、サンドボックス型MMOにあたるだろうか。
基本的に、拠点を作る・維持することが主目的となるため、ストーリーのあるゲームを遊びたいと考えるプレイヤーはあまりハマらないかもしれない。
しかし、自分の思うがままに世界を作り上げたい、歩き回りたい、調べ上げたい、というプレイヤーは高確率で沼にはまる。
かくいう自分もそのうちの一人だ。
「見る感じドーミアスだよな? ちょっと首突っ込みに行くか」
丁度大学のオンライン講義も終わったことだし、いったん課題は放っておいて、あのイベントに参加しに行こう。
もしかしたら、乙木颯とも話ができたりするかもしれない。
「この前作った兵器、試せるかな~」
そうして、フルダイブ型VRゲーム機に潜り込んだ。
乙木颯たちがいる港町ドーミアス。
その北には、ドーミアスがある南の大陸と、この世界で一番大きな北の大陸の間を隔てる、大きな海が広がっている。
しかし、ドーミアスの近くには大きな湾があるため、貿易よりも漁業の方が盛んである。というより、貿易を行う船舶は、ドーミアスにはほとんど存在しない。
なぜなら、その航路上にとあるワールドボスが居座っているからだ。
スマホの画面に、消し忘れていたゲーム配信が映る。
『───なんで俺えええええええええええええええ!!!!??!?』
荒れ狂う漆黒の海の上で、空中に巻き上げられているクリスマスツリー。
『ああああああああああ!!?!? お、俺の船がああああああああああ!!!!?!?』
東洋風の龍が優雅に空を舞い、その尻尾で片手間にツリーが乗っていた粗末な船を叩き壊していく。
『NOOOOOOOO!!! 【岩弾】【雷弾】【炎d───あふんっ』
崩れ沈んでいく船から跳んで離脱しようとしていた金髪の貴族を咥え上げ、そのままバクンッとかみ砕いてしまった。
『ア゛ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
何が面白いのか、空中で錐揉み回転しているツリーを指差しながら、腹を抱えて笑い狂うサンタもいる。
『新年早々終わりだよこの世界!! ざけんなよこの空飛ぶ蛇足が!!!!』
『───あ゛? 貴様、今何と言った?』
嵐帝の双眸が、大鉈トナカイを捉えた。
『あやっべ死んだわ』
『は!!? おいふざけないでくださいこっちまで巻き添えに───』
『放物線を描いてGO☆』
『ぎゃあああああああ良い子はねんねしなああああああああああああああああ!!!!』
灰色の空に舞い上がる、船の破片とその乗客だった者たち。
それを彩るように、花火が打ち上がった。
ヒュルルルル……ドドドドーーーーンッ
『たぁーーーーーーまやぁーーーーーーー!!』
『ハッピーーーーバーーーースデーーーー!!』
『FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
『お祝いのクラッカーだぜジーク・シュトゥルムーーーーーーーーーー!!』
『貴様らァ……いい加減にしろ蛆虫共が!!!!!!』
キィィィィィィン……ドゴオオオオオオオオオ───
青黒い暴嵐が漆黒の海に浮かぶ船々を飲み込んでいく光景を最後に、画面には砂嵐以外映らなくなった。
嵐の前に、静けさなどない。