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シコウノユメ  作者: MOCU
3/8

楽団の夢




 西洋風の建物が並ぶ賑やかな街の大通り。

 その二本向こう側には寂れた治安の悪い空気が漂っている。


 煤だらけの煉瓦の壁に描かれたパンクなイラスト(落書き)、天然のゴミ捨て場と化した小さな袋小路、噴水から水を抜き取ったようなオブジェ(ガラクタ)が存在する広場。そんな場所に集まっている人間も当然、どこかイカれている奴らだ。

 唯一、街の大通りと同じものがあるとすれば、それは天から降り注ぐ陽光くらいだろう。


 ……〜♪……


 ふと、遠くから何かのワンフレーズが聞こえてきた。誰かが歌っているようだ。


 ふん。どうせまたテロ集団ストリートミュージシャンだろう。

 前回はどこぞのドルオタによる街中での集団殺戮事件(オタ芸披露宴)で、前々回は愉快なDJ集団による建造物破壊事件(フロア大沸騰)、その前はハロウィンの真夜中暗殺事件(合唱コンクール)だったか。

 おかげさまで、ハロウィンでは所持品(お菓子)を全ロスし、DJテロでは自宅が更地になり、ドルオタにはペンラで煽りキルされるという経歴ができた。少々難点なのは、街中で音楽が聞こえてくると身体が(怒りで)ガタガタ震えるようになってしまったことくらいだ。

 おのれミュージシャン許すまじ。


 しかし、この野次馬精神が折れることはない。今日も今日とて、足は勝手に音楽の鳴る方へと運ばれていく。

 さて、今回はどんな事件が起きるのか。


 〜♪〜〜♫


 音楽がはっきりと聞こえ始めた。ここからは奴らの射程内だ。気を付けろ。


 どうやら今回は何かのバンドのようだ。少なくとも子供の声や茶色い声援は聞こえない上に、低く強く響くビートの音もしない。

 こんな少し狭い路地裏にいても、マイクを通して拡散された誰かの歌声が聞こえてくる。格段に上手いわけではないが、今歌っている歌の曲名が判別できる程度には上手い。聞いてて不快にならない。声からして女性だろうか。


 この先の小さな公園でやっているようだ。少しお顔を拝見させてもらおう。


 〜〜♪♬〜〜〜♩♫


 予想通り、バンドパフォーマンスだった。

 メンバーは、拡声器型のマイクを使ってるボーカル、双子姉妹なのか武器もアバターも見た目ほぼ一緒なギターとベース、空中に浮かぶホログラムの円盤を叩いてるドラマー、大きなレコードディスクみたいな鍵盤をフラフープみたいにして弾いてるキーボード、の計五人。

 うん、若干ツッコみたいところはあるが、とりあえず全員が楽器型の武器で演奏している。

 ギターの下の方が刃になっていたり、ドラムの人がアンプを模した巨大槌に腰掛けていたり、ボーカルの持ってる拡声器の中から銃口が見えていたりして非常に危険だ。やはりテロリスト集団か。


 しかし意外にも観客は少なくない。一本大通りに近づいたせいか、少し立ち止まって曲を聴いている通りすがりのプレイヤーもいる。どうやら定期的に開かれている公演のようで、公園の入り口でペンライト持って振ってる奴もいた。


 ……うん? あいつどこかで見覚えが……


「……あっ!?」


 あの野郎、前に俺をPKしたドルオタ(クソッタレ)じゃねえか!!


「テメエ、こんなところにいやがったのか!」


 とりあえず武器は構えずに猛ダッシュで対象に接近。ライブ中観客に手を出すのは御法度だがこの極悪人だけは処理しておかなきゃならねえんだ、許せ。


「……ん? え、それワイに言うてる?」


 ストリートミュージシャンの前でペンラ四本片手に持って振ってる奴が首傾げんな。関西弁混じりで一人称ワイの美少女(ツインテロリ)とか、一言だけでも個性ありすぎて絶対間違われないだろ。


「ってか誰? ワイ、こんなオタ芸に巻き込まれて首斬り飛ばされるクソ雑魚くんみたいな奴知らへんねんけど」


 確かにあの時は一撃で首チョンパだったな……って、


「誰がクソ雑魚だ! っつか覚えてんだろ絶対!」


「いやいやホンマに知りまへんって! 見覚えあるのは首から上だけやさかい!」


「やっぱ実行犯テメエじゃねえかこのPKerがァ!!」


 何を一般人ぶっているんだこの狂人は。ペンライト型のナイフをヒラヒラと振りながら、わざとらしい口調で煽ってきやがって。こいつは今すぐ殺さなければ。


 頭上の名前が赤くないから、きっと誰かが俺の仇を一度は取ってくれたんだろうということは分かる。

 だが! それでも俺はこいつをぶん殴らないと気が済まねえ!

 何なら、このドルオタをキルした奴が結局全部掻っ攫っていったんだから、そいつも殺したいくらいだがな! 俺のレアアイテム返せ!


 だがこいつは俺を一撃で仕留められるほどの腕利きだ。俺が近接戦得意じゃないってのもあるが、迂闊に近づきすぎると死ぬな。

 さて、どうしたものか。



 チラリと目に入った 『 マイナダイツ 』 という文字列。



 あぁ、これは ()() だ。



 ───神は言っている……ここは爆破一択だ、と……!



「───ッシャオラァ!!!」


 なるほど中距離からの爆破か! それなら相手の間合いから離れつつ確実にダメージを入れられる! 何なら俺には爆発物を射出できる武(ロケラン)器がある!

 流石我が神ナイスアイデア!!


 ダッシュしながらUI表示!

 ノールックで(ダイナマイト)を取り出し!!

 コンマ一秒で滑らかな装填(RELOADING)ッ!!!


「えっ」


 驚愕した表情のドルオタ。

 今頃になって騒ぎに気付いた観客。

 何が起こるか察知した一般通過市民(勘のいいガキ共)


 この全てが滑稽に映る。



本職(ボマー)舐めんな!!! 死に晒せ下衆がァ!!!!」



 今更逃げてももう遅い!!


 さあ、Let's 発射(GO)!!!



「FOOOOOOOOOOOO───」


「ちょっおまそれやばっ───」




 あぁ、すべてが、しろくなって───






 まち が ひとつ ふきとんだ !






 ここで、豆知識を一つ。


 歌や音楽が魔術の発動条件になることは往々にして存在する。

 それは音声が届く範囲に効果を発揮し、音声が続く限り効果を継続させる。

 その性質上、歌や音楽を発動条件とする魔術の効果は、大抵が増強効果(バフ)あるいは低減効果(デバフ)である。


 例えば、特定の(爆破)アイテムの威力を高める、とか。


 例えば、特定の(爆破)攻撃の威力を高める、とか。


 例えば、特定の(爆破)耐性を下げる、とか。






 彼らの名は、『マイナダイツ』。


 後に、「バンドボム」という新たな攻撃方法を生み出す、伝説のバンドグループだ。




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