ありきたりなラブストーリーの出だしから始まる新たなラブストーリー
しいな ここみ様が主催されている「リライト企画」に参加させていただきました。
しいな ここみ様の「ありきたりなラブストーリー(5217)」の二次創作です。
作者様より許可を得ています。
「お母さん、どうして起こしてくれなかったの? このままじゃ遅刻しちゃうじゃない!」
目を覚ますと8時35分。
いつもなら8時に起きてゆっくり時間をかけて綺麗なポニーテールにするのに、これじゃあ出来ない。
授業が始まるまで後15分。
いつもここから歩いて10分ぐらいだから、今すぐ出て走らなければ確実に遅刻しちゃう。
用意されたパンを口に加えて、通学用バッグを持ってから玄関を開けると、お母さんは呑気な声で言った。
「いってらっしゃい、陽菜」
遅刻にパンを加えて走る女の子。
まさに少女漫画の出だし。
このまま曲がり角でイケメンとぶつかったら本当の少女漫画だなと思いながら走っていると、本当に曲がり角で誰かにぶつかってしまった。
「大丈夫?」
ぶつかった相手は高身長で、私が思いっきりぶつかっても全くダメージがないほどの丈夫である。
そして、何よりイケメンイケボ。
めちゃくちゃカッコいい!!
ちゃんと髪もくくっていない、パンを加えているガサツな私に対してそっと手を出してくる。
「一緒についてきてくれる?」
きゃー!!
やっぱりイケメンイケボ!
何回見聞きしてもやはりそれは変わらない。
「はい! ついていきます」
私はその言葉の意味が分からないものの、勢いよく返事をしてしまった。
彼は私の手を取る。
すると、大きな風が吹いて、吹き終わる頃には見知らぬ場所に移動していた。
「ここ……どこ?」
「ここは冥界の場。もう少しで閻魔大王のお出ましだよ」
めいかい? 明快? 明解? 迷界?
エンマダイオウ?
まさか冥界で閻魔大王ってことじゃないわよね?
「君の名は。」
「いや何で映画のタイトルで聞くの? まあ良いけど。僕は死神。よろしくね」
「シニガミ? 聞いたことない名字ね。どう言う漢字を書くの? 歯似画身さんとか?」
「一体どう言う名字なの? その名字の由来、意味不明過ぎでしょう」
「やっぱり死神さん?」
「そう。僕は彷徨った人の魂を冥界にキチンと送り届けるのが仕事。今回の担当は君だったってわけ」
この展開はさすがに少女漫画ではないなとがっかりしてしまう。
わざとボケてみたけど、普通にツッコまれるし、どうやら現実っぽそう。
いや、冥界に来て現実っぼいって何かしら。
「どうして私はここに来たの?」
「君は1週間彷徨っていたから迎えに来たんだ」
「でもお母さんはいつも通り接してくれたよ」
「お母さんは霊感があるから気配は感じていたのだろうね」
「どうして死んだの?」
「君はこちらの事情でトラックに轢かれて死んでしまったんだ」
「どう言う事情なの?」
1週間前に死んだことも、 お母さんが霊感を持っていたことも色々気になるけど、こちらの事情と言うのが1番気になる。
だから、理由を説明してくれないと納得がいかなくて、思わず彼の襟を持って前後に振りまくってしまった。
あ〜! しまった。 触れるのに許可もらうの忘れた!
私はその事実に気づいて慌ててその動作をやめて、これ以上は勝手に触れませんと両手を後ろ側に回した。
私が振り過ぎてしまったせいか、彼は目眩を起こし、今にも倒れそうになった。
そのため、とっさに手が出て、自分の方へ抱き寄せてしまった。
距離が近すぎるよ。ちょっと今はこれ以上は無理!
そう思ってすぐに彼から離れ、再び両手を後ろへ回した。
「ひどいな。もう分かったよ。教えるよ。君が死んだ理由は人口増加ゆえの削減政策だ」
「まさか今人口爆発が起こっているから数を減らそうとしているの? でもなんで私? 日本は確かに多いけど、若手が足りなくて問題を抱えているのよ。私、善良な女子高生なんだけど! おまけに1番花形の高2よ」
そんな世界や冥界の事情なんて知ったこっちゃない。
そんなことに私を巻き込まないで。
「いや、どうやら同姓同名の子と間違えたらしくてね。本来なら、何百人の無差別殺人を計画立てている高2の佐藤陽菜って子を死なすつもりだったんだ」
「そんなヤバい子、無放置にしちゃダメでしょう! いいから今すぐ殺して」
「すでに冥界で裁きを受けて魂を抹消されたよ」
「なら良かった……って良くないわ。私は死ななくても良いのに殺されたのよ」
一瞬安心しかけたけど、安心なんて出来るわけない。
勿論許す気もない。
「でも、1回冥界に来た魂は絶対に元の世界に戻すことは出来ないんだ。悪いけど諦めて。ただ君は天国行きだからそこだけは安心して」
いや天国行きだから安心してと言われてもな。
嬉しいけど、素直に喜べない。
「イケメンイケボもいっぱいいるだろうから楽しいと思うよ」
「え、本当? それならありかも」
毎日イケメンイケボ見聞きし放題。
考えてみると当に天国って感じ♪
「死神さんも来たりしない?」
「僕もこれと別れたら天国に行くよ」
彼は後ろに背負っている大きな鎌を指差して笑う。
イケメンイケボに囚われて全然気づかなかったけど、この鎌、おっき!
彼の身長分の長さがあるよ。
ひょえー。
私はその大きな鎌が気になって触ってみると、何故かスルッと鎌が抜けた。
比喩ではなく本当にスルッとだ。
重さは雲のように軽くて(雲を持ったことないけどね)、持っているような感覚がない。
何だか面白くて鎌を振り回すと、何故かポキッと鎌が割れたのだ。
比喩ではなく本当にポキッとだ。
布を割る(いや折るだね)かのようにいとも簡単に割れたのだ。
「何で抜けたの? あと何で割れたの? と言うか何してくれてんの? これじゃあ天国行けないじゃないか!」
彼は大変驚き、そしてカンカンに怒っていた。
あぁ、怒っている姿も素敵ね。
「君を見届けて、鎌を返したら、罪滅ぼしは終わって天国に行くはずだったんだ」
「罪滅ぼしって?」
何故私が悪いことをしたみたいになっているのよ。
私はただ勝手に鎌を取って、鎌を割ってしまっただけよ?
でも、そんなことよりその言葉気になるわね。
説明して〜。
「死神って言うのは、更生の余地がある人達への罰なんだ。その役割を10000人送った時に罪滅ぼしが終わるんだ。その10000人目が君だったの」
彼は怒りはますますエスカレートしている。
でも、それってたまたま私が10000人目と言うだけで、やっぱり私に否はなくない?
「と言うか何で罪滅ぼししているの?」
見た目は言うまでもなく完璧。
話していても悪い人には見えない。
一体何を犯したと言うの?
「いや、ただ複数の女子と付き合っていただけなんだよね。でも逆恨みで付き合っている1人に殺されたんだ」
「それは自業自得ね。まさかクズ男だったなんて」
「いや、普通告られたら嫌いじゃない限り付き合わない?」
「付き合わないよ。イケメンイケボが次々告ってきたら別だけど」
「イケメンイケボだったら良いんだ」
「イケメンイケボは正義だから!」
彼は怒るのをやめて、大きなため息をついている。
ため息している姿も素敵。
「僕はもう天国にもいけないし、始めからやり直すことも出来ない。取り敢えず君は鎌を折ったことは黙ってること。そうしないと……」
「その鎌を割ったのは誰だ?」
彼が何か説明しようとしている時に、ドスの聞いた恐ろしい声が後ろから聞こえてきた。
振り返ると、巨大な鬼がいる。
いや、きっと閻魔大王様だ。
もう、私達が想像している通りに怖すぎるでしょう。
死神さんはイケメンイケボなのに!
「割ったのは私です。申し訳ございませんでした」
彼は冷静に、深く頭を下げて謝罪した。
その姿を見ていると何だか傷まれない。
私は悪くないとはいえ、割ったのは私だから。
「割ったのは私なんです。彼は悪くありません。私だけを罰してください。彼を天国へ連れて行ってあげてください」
私は思わず声をあげていた。
「ならぬ。掟を破ったお前達ともにここにも天国にも行かすことは出来ぬ。今すぐ出ていけ!」
閻魔大王の命令に従い、子鬼がぞろぞろと出てきて、私達を外へと放りだした。
そして、私達は出会った曲がり角に戻ってきたのだった。
「どうして戻ってきたの?」
「僕達は、2度と天国にも冥界にも行けない。魂も抹消されない。ただ誰とも関われずに永久にこの世界で漂うんだ」
「地獄は?」
「地獄なんて人間が勝手に作り出したもので、そんなものは存在しないのさ。あるのは天国か冥界かこの世界だけだ」
彼は絶望しているのか、声が凄く掠れている。
でも掠れた声でもイケボってズルい。
「なら私達2人で過ごしたら良いじゃん。浮気される心配もないし、独占出来るわ!」
「僕のメリットは?」
「私といることで寂しさを感じない。私が幸せにしてみせるからね」
「なんだかプロポーズみたいだな。おまけに逆プロって」
「今はそんなことを気にしてはいけない社会よ。私からのプロポーズ受け取りなさいな」
「相変わらず面白いね君は。いや陽菜。これからよろしく」
「やった! イケメンイケボ1人占め!」
「やっぱりイケメンイケボが正義なんだね」
お互いに方針が決まったところで、私がこれからどうすると彼に尋ねようとした時、お母さんが私達の前に通りかかった。
「え? 陽菜? …………幸せにね」
お母さんは私と彼の存在に気づいて驚いたようだったけれど、優しい顔になって2人の幸せを願ってくれた。
「死んでごめんね。でも彼と幸せに過ごすから安心してね。また逢いに行くからね」
私は去っていこうとするお母さんに向かって大声で叫んだ。
するとお母さんは振り向き、親指を立てて笑顔で返した。
そして、お母さんは再び向きを変えて歩き始めた。
大丈夫だよ。
イケメンイケボの彼となら、魂だけになっても幸せに過ごせるのは間違いないからね。