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07 ライゲイトの大地主

ワトスン視線に変更しました。

 事件と言うものは、いつも突然にやって来る。

 医師としての仕事に調整がきかなかった(ワトスン)を残して、ホームズは単身で国際的事件の解決に向かった。


 二ヶ月以上後に帰ってきたホームズは、彼には珍しく衰弱していた。

 流石のホームズも、疲労や病気には勝てない様だ。

 聞けば、ほぼ不眠不休で国際的事件を解決しての過労との事。

 パートナーであり主治医でもある私は彼に休養を取る事をすすめ、なんとか戦友のヘイター大佐の所に行く事を納得させた。


 医師としての仕事に調整を付けて、ようやく一週間の期間を確保したのだった。



 だがしかし、主治医の思いと裏腹に、事件はホームズの方へと忍び寄るらしい。

 到着したサリ州ライゲイトでは既に事件が起きた後だった。


 一般の物語(ドラマ)では、旅行先で事件に遭遇する刑事や探偵と言うのは絵になるが、現実には有り得ない。

 そしてドラマの事件は、時期を選べば良いのに、警官や探偵の目の前で起きるのである。

 仮に、探偵や休みの警官が滞在中に万が一に事件に遭遇しても、警官は管轄が違うし、探偵も知り合い警官が居ないので身元確認ができず、『捜査の邪魔だ。公務執行妨害だ』と排除されるのが常識だ。


 そしてドラマにある様に現地警官が、土地勘やコネの無い警官や、ましてや探偵に捜査権を与えるなど、【警察の面汚し】や【左遷されるべき無能警官】と(そし)られるだろう。



 その点で今回の事件は、多くの英国人がとる長い休暇の間に、巡査が扱う程度の【数日前に近所の豪商宅に泥棒が入る事件が起きた後】という知らせから始まった。

 特に重要な金品は盗まれておらず、部屋を荒らした末に周りにあった燭台など数点を、手当たり次第に持ち去ったとみられている。

 都会と違って田舎の豪商宅に【泥棒】となっても、警官が来るまでに数日は掛かるものだ。


 泥棒事件の内容を聞くホームズだが、ヘイター大佐も「あの壮大な国際的事件の後で、あなたが注目されるような事件ではありませんよ」と打ち切り、(ワトスン)も「君はここに休養しに来ているんだ」とドクターストップをかける。


 だが、今回もホームズ到着の翌日に【殺人事件】が発生した為に、直ぐに警官が駆け付ける事態に至った。

 近所とは言え、別の場所で起きた事件の犯人が、ホームズの来訪を知る術は無かったのだろう。

 もし、知っていたら、殺人事件は日延になっていたのかも知れないのだから。


 通常は部外者扱いされる探偵も、(ワトスン)の広報活動とホームズの顧客たる有力者の噂話、ロンドン警察(ヤード)への協力により、ホームズ達にも活躍の機会が生まれた様だ。


 ただ、なぜ駆け付けた警官がホームズの来訪を既に知っていたのは、謎だ。

 私がロンドン警察(ヤード)に行き先の通達を入れておいたので、その地方警察に通達が行き、話題にでもなっていたのか?


 さて、殺人犯が逃げており、ホームズがヤル気を出して、警察が協力を期待していれば、どうにも止められない。

 連続して起きた泥棒騒ぎに死者まで出ているとなると、明日は我が身かも知れない。

 ヘイター大佐の家でも銃が用意されていた。


 事件はカニンガムと言う大地主の庭で起きており、先に泥棒が入られたアクトン家とは土地の権利で争っていた家だ。

 犯人は同じ泥棒だろうと見られており、犯人が馭者のウイリアムに見つかって殺害に及んで逃げたというのが警察の見解だ。

 これは、カニンガム家の当主と息子アレクが深夜12時頃に銃声と、逃げる犯人を目撃したという証言によるものだった。


 ただ、被害者が手に握っていた紙切れが、ホームズの興味をそそる。

 文章の一部が残った切れた紙切れだ。

 犯人が被害者の手から、証拠になる手紙を奪ったのだろうが、深夜の為に一部が残ったのに気付かなかったのだろう。


 今回の解決は、ホームズの介入が事件の起きた翌朝だった事。身内も疑ってかかったホームズが、証言の裏付けをとった事などが幸いした。

 彼は、手紙の残りが処分される前に、息子アレクのガウンから証拠品として回収する事に成功したのだ。


 決定的証拠が手に入るまで道化を演じながら家のあちこちを調べ、当主親子の偽証を論破したていたのだった。


 最終的には物証である紙切れの残りを、ホームズに握られた当主の自白により、詳細が語られる。


 アクトン家に土地の権利書を盗みに入ったカニンガム家のアレクが、馭者のウイリアムに知られて揺すられたので、手紙を細工して夜中に誘き出し殺害し、呼出し証拠の手紙を回収しようとしたのだ。




 この事件は、突発的に起きた地方の権力争いの結果であり、モリアーティ教授とは関係無さそうだ。

 ただ、休養の原因となった国際的事件で、欧州きっての名詐欺師であり、ホームズ自ら終生の敵として闘っている【悪人バラ】なる人物の名前が出る事には注意が必要だ。

 ホームズには、モリアーティ教授以外にも、【宿敵】と言うべき敵が存在しているらしい。


 モリアーティとバラが協力し合う事など、無いと思いたいが。


―――――――――――――


 シャーロックホームズシリーズは、作品の発表順と物語の時系列が一致していない。

 原作者が、この【ライゲイトの大地主】執筆の時点では、まだ【モリアーティ教授】の存在は無かったのかも知れない。

【ライゲイトの大地主】:1893年6月発表

【最後の事件】モリアーティ登場:1893年12月発表


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