エピローグ・始まりの日
サジンがカーフロック、そして源蔵と戦い、人間の世界に戻って来てから、3ヶ月ほどが過ぎた。すっかり冷え込んだ季節になったからか、服装はより”人間らしい”ものとなっている。本人からしても、身を守るために布切れだろうが身につける、といった時代は終わったのだろう。
サジンは家族の誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きる。ちゃんと布団の中で眠るようになったし、身だしなみも清潔になった。今日も早朝から目覚め、手元にある女王の石像と情報を共有する。
「毎日毎日熱心じゃのう、そう何度連絡したところで、もはや脅威などないようなものじゃぞ」
「それでも、ですよ。何があるかわかりませんし、また戦いが起こったら困りますからね」
石の国、そして魔物の住む世界は、一時の平和が訪れていた。カーフロックを使った襲撃が失敗し、デーモンたちもかなりの消耗があったのか、しばらく襲ってくることはないと女王は話す。心配性のサジンは、それを聞いても毎朝連絡を続けていたのだ。
「そっちは何もないんじゃろう? ならもうわしは仕事に戻るぞ」
「はい。女王も頑張ってくださいね」
今日も連絡を終える。サジンの周りでも、日常が戻りつつあった。あの日の戦いからしばらくが経って、ようやくサジンの求めていた生活ができるようになっていた。
まず、源蔵の石化は解かれ、拘束されることとなった。彼のオフィスから数々の証拠が見つかり、行ってきたことは法によって裁かれることとなる。源蔵も凄まじい力を持った探索者であるが、大人しく拘束されているのは、サジンの存在があるためだろう。
サジンは学生ではなく、探索者として生活することとなっていた。といっても立ち位置は少々特殊で、源蔵のような悪意があり、なおかつ力を持った人間に対しての対抗策として、探索者地区に所属されている。といっても、しょっちゅうそういった人物が現れるわけではないので、普段は勉学に励む日々を送っていた。今日も探索者として、地区へと足を運ぶ。
十年間ダンジョンで過ごした経験から、サジンは特異な目で見られがちだ。ダンジョン少年などと呼ばれることもあるし、彼の友人たちのように、ニックネームとしてサジンと呼ぶ者もいる。
だが、確かなのは、これから続いていく人生は、迷宮の囚人ではなく──
和泉翔という、ちょっと変わった人間としての日々だ。




