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迷宮結晶の伝言

「なんだってこんな時に!」


 様々な種類の魔物が次々と現れ、優利たちに向けて襲いくる。まだある程度距離があるが、車で逃げられるほどの時間はない。迎撃の姿勢をとるものの、数に押しつぶされるのは目に見えていた。

 なぜ、どうしてといった感情が胸に渦巻く。恐怖よりも、疑問や困惑の方が大きかった。ぼーっと突っ立ったまま、前に進むか、逃げるかの判断がつかないでいた。


「優利!」


 安子が咄嗟に手を引っ張り、その場から離れようとする。赤黒い肌のデーモンたちが一斉に武器を投擲する。避けるのは無理でも、直撃は防ぐことができるか。痛みに備えて全身に力を入れた安子だったが、なんと攻撃は見えない壁に守られるようにして防がれた。


「二人共、大丈夫かい!?」


 優利たちは、はっとしたように声がする方へ向く。そこには、新田連とサジンの妹である透が立っていた。


「新田さん!? どうして!?」

「透さんから話を聞いてね。さて、大変なことになったみたいだ」


 魔力の障壁によって魔物たちの攻撃は完全に防がれ、会話をする隙が生まれる。直後、透が大きな声で何があったかを端的に話した。


「お兄ちゃんが、もしこの時間までに帰ってこなかったら、優利先輩の様子を見に行ってほしいってメッセージを送ってたんです。絶対何かあるんだと思って新田さんに相談すると、家まで一緒に来てくれて」

「魔物の鳴き声が聞こえたから、かなり急ぎ足だったけどね。サジン君は何か事情を知っていたのかもしれない」


 連は巨鳥の周囲を確認すると、優利たちにどうするかを伝える。


「魔物はあの大きな鳥の周囲から、こちらに通ってきてるみたいだね。俺と透さんが一気に片付けるから、あの鳥の様子を見ていてくれ」

「お、お願いします!」


 連が指先を動かすと、数十体はいるであろう魔物がひとかたまりになり、目には見えない何かに締め付けられるような様子で動かなくなった。透は隣で静かに力を溜め、一撃で固まった魔物を一掃するつもりのようだ。


「オークにゴブリン、デーモンと種類は豊富だけど、どれも下級の魔物だね。どちらかというとあの鳥の魔物の方が危険に見えるけど、何があったのやら」

「準備できました! イルカちゃんお願いっ!」


 大きさでは巨鳥に及ばないが、それでも巨大なイルカが空から突撃を仕掛ける姿は圧巻であった。魔物たちはうめき声をあげながら消滅し、近くにいた巨鳥も水しぶきに反応してか、再び暴れ始めた。屋敷を壊されてはまずいと考えたのか、連は魔力の障壁を移し、相手を囲むようにして動きを封じる。が、一気に連の表情が変わった。


「ふふ、半端じゃないパワーだね。ちょっと、いや、本当にまずいかもしれない。ごめんみんな、長くはもたないかも」

「新田さんでも!? あの魔物は一体……?」


 もがく巨鳥の様子を見ていた優利は、胴体にキラリと光るものが刺さっているのを見た。半透明な白い何か。もっと目を凝らしてみると、それが剣のような形をしていることに気がつく。

 巨鳥の動きは押さえつけられ、一時は空中に飛び上がっていたものの、もう一度地面へと墜落することとなった。その衝撃からか、ぽろりと剥がれるように剣が地面に落ちていく。


「安子、危険なのは承知なんだけど、あれを取ってくることってできないか?」

「あそこにあるのは……棒? 新田さんが押さえてるとはいえ、流石に危なすぎるよ」


「わかってる。でも、何か……呼んでいるような気がするんだ」

「うう。そういうことなので、新田さん、もうちょっと踏ん張っててください」


 しょうがないな、と、連は汗をたらしながら姿勢を整えた。安子は気合いを入れるように頬を叩くと、全速力で巨鳥の足元へと向かう。半透明の剣を手にするまで、10秒もかからなかった。

 その瞬間、安子の周囲にどっと湧き出すようにして、魔物が出現する。しまった、と連はこぼすが、暴れる鳥の拘束に手を取られて魔物の相手ができない。透もどうにか魔力を集中させるが、すぐに攻撃されると間に合わないかもしれない。


「安子っ!」


 叫ぶ優利。だが、安子の身体に奇妙な感覚が宿った。安子は身体を強化したまま、自分では想像もできないような速度で、魔物たちを斬り伏せたのだ。これほど刃の長い剣を扱ったことがないのに、自分でもおかしいと首をかしげる安子。そして、何かに背を押されるようにして優利たちの元へ戻っていく。

 魔物の出現はまだ続く。まるでどこかからなだれ込んでくるかのように、際限なく空間の歪みから現れ続ける。


「優利、持ってきたよ!」

「ありがとう安子!」


 剣を受け取った優利は、しばらくその場に立ったまま、じっと剣を見つめていた。そしてしばらくすると、優利の手の中にあった剣は、さらさらと光のようになって消えていく。何かの余韻があったのか、優利はしばらく虚空を見つめるように立っていた。

 その後、透の力により湧いて出た魔物を一掃できた。ようやくあの巨鳥の対処ができると、連は拘束を強める。


「みんな聞いてくれ。俺のスキルじゃ拘束が精一杯で、とどめを刺せるかはわからない。手負いとはいえ透さんの魔法が通じるか不明だし、ここは俺がどうにかするから、みんなは助けが来るのを──」


 言い終わる直前に、凄まじい力が連を襲った。不意をつかれた連は吹き飛ばされ、拘束が緩む。何があったのかと三人は辺りを見渡すが、答えはすぐに現れた。


「失礼。”万が一”を考えると、対処すべき点が多いことに気がついてね」


 空間の歪みから、九条源蔵が姿を現す。暴れる巨鳥に手をかざすと、巨鳥の内部から一匹の魔物がはじき出されるようにして出現した。


「源蔵、一体なんのつもりでっ」

「デーモンの仕事はここで終わりだ。ご苦労だったね」


 戸惑うデーモンの身体を幾多もの鎖が貫き、塵のようになって消滅する。状況が理解できなかった優利たちは、どんな言葉をかけるべきかを考えていた。しかし、源蔵から話を持ちかけられる。


「優利。そして息子のご友人たち。いや、挨拶はいらないか。今の私は考えなくてはいけないことが多くてね、本来ならば説明が必要かもしれないが」

「父さん? 助けにきてくれたんじゃ……」


「そうするルートも考えたのだけれど、いささか不安が残ってね。すまないが、父の仕事はここでおしまいにしようと思うんだ」

「どういうこと? 父さん、何かあったの? 言ってくれないと俺わからないよ」


 狼狽える優利に向けて、地を這う鎖が放たれる。迫る死をとてもではないが感じられなかった優利は、困惑の表情のまま立ち尽くしていた。

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