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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
あの時の勇気をもう一度
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女王の先を往く

 サジンは地上へと急襲を仕掛ける大爪をかろうじて避けた。大地を揺らすほどの衝撃を受け身体がよろけたところで、もう片方の爪がサジンに迫る。逃れられないと察したサジンは、せめてもの抵抗に武器を構えた。

 だが、女王が黙って見ていなかった。無数に浮かぶ尖った石の破片が、カーフロックの突進を防ぐようにばら撒かられる。身体と羽に石片が食い込んで、巨鳥が低い鳴き声をあげる。どうにか突進を受けずに済んだサジンだったが、頭上にくちばしが迫っていた。絶え間なく繰り出される二匹の巨鳥による攻撃。息を吐ききるようにして、必死に動き続けていく。


「だんだん動きが早くなってます、このままじゃ……!」

「ついていくのがやっと、じゃな」


 火を放ったり、風を起こしたりするようなことを、カーフロックは一切行わない。圧倒的な身体能力と再生力で、ただただ標的を破壊する。その恐ろしさを、サジンたちは既に嫌というほど味わっていた。

 周辺の地形はずたずたになり、荒れ果てた木々の葉は風で舞い上がるたびに視界の邪魔をする。環境そのものが相手の味方をしているようで、普通の魔物と戦うより遥かに厳しい戦いとなっていた。


 この魔物に勝つにはどうすればいいか? サジンは身体だけでなく頭も必死に動かして考える。絶体絶命の状況になって活路が開けるような、そんな甘いことは起きないと分かっていた。今、この場で、勝つ手段を思考し、実行に移さなければ勝ち目はない。


(速度は増幅のおまけでなんとかなるとして、攻撃を通用させないと意味がない)


 溢れるほどの魔力のおかげで、身体能力は大きく向上しているサジンは、防御策を用意する必要はないと考える。今はカーフロックを倒すか、撃退することが最優先事項。打開策のヒントを探すべく、女王の様子を見る。


 女王は相手を石化させることができないらしく、石片を生み出したり、攻撃を引き付けて石の武器で反撃をする手段を取っている。サジンと違って、ある程度の傷を負わせているのを確認し、その違いは何かを考える。


(生み出した石の硬さや鋭さは魔力に影響されているのか? それは当たり前か。女王は僕より強いんだから……いや、それじゃダメだ)


 前提を覆す必要がある、という考えに至った。サジンは女王より弱く、女王の力を増幅させてサポートに回る、という戦い方では、二匹のカーフロックに勝つことができるかわからない。自分が足を引っ張ることが確実なためだ。

 無限の魔力の力が本当なのであれば、女王と対等、それ以上の強さになれるかもしれない。ここからは動いて確かめていくしかないと、サジンは一転攻勢に出る。


 幸い、相手は直接攻撃する手段しか持たない。大爪の攻撃が来る瞬間、サジンは覚えたての空間移動を使い、巨鳥の身体をすり抜けるようにして背後に出現する。まさに瞬間移動とも呼べるその力のおかげか、攻撃のチャンスを生み出すことができた。

 この一瞬、サジンの身体が落下しカーフロックと接触するまでの時間で、サジンは女王を超えようと試みる。今までなら石の武器を生み出して攻撃を繰り出していたが、サジンの身体では耐えられないような途方もない魔力を、生み出す武器に集中させる。


「いける! きっと!」


 ただひたすらに増えた魔力の使い道を探し続けたサジンは、この時、強さの一線を超えたのかもしれない。サジンの手には、薄く半透明な、白い武器が握られていた。形は剣ともいえず不完全だが、刃と思わしき部分はあった。

 カーフロックがサジンの存在感に気が付き、振り返った瞬間、サジンの新しい武器が振り下ろされる。強靭な羽毛を安々と切り裂き、その巨体に大きな傷を負わせた。負けじとサジンに向けて翼が襲いくるが、サジンはその場を動くことなく、真正面から翼に穴を開ける。


「……ふむ。もはや”石ではない”な」


 女王がサジンの様子をじっくり観察する隙が生まれ、様子を見ていた片方のカーフロックは、怒りからか甲高い鳴き声をあげた。サジンは手に持っていた武器を槍のように細長くして、全力で投擲する。弾丸のような速度で放たれたそれは、巨大な身体を貫いた。


「ちょっと、コツが掴めた気がします! 反撃の機会です。女王の力を増幅させれば、女王もこの武器を使えるようになるかもしれません」

「ふん、ちょっと技術を得たところで調子に乗るでないぞ。いややるなとは言っとらん、はよせんか」


 ある意味、サジンの力を認めた時でもあった。身体に有り余る魔力の真髄は”使う”ことだと見たサジンは、増やした力を女王に分け与えていく。

 息を吸うことが魔力を増やすこととするなら、息を吐くことが魔力を使うこと。循環を完璧に行うことによって、サジンの持つ力は真の力を発揮するのだ。


「サジン! わしは傷が浅い方を足止めする。おぬしは片方にとどめを刺すのじゃ! できるな!?」

「やってみます!」


 女王は足止めと話していたが、決定打さえあれば女王もとどめを刺すことができる、とサジンは考えた。しかし、これ以上味方の力を増やすことに意識を向けていては、自分の役割を果たすことはできない。武器を構え直し、攻撃に備える。

 サジンへと狙いを定め、大爪が空中から迫る。怒りからか以前よりもかなり俊敏になっていて、半端に避ければ衝撃だけで吹き飛ばされてしまうだろう。考えている時間はない。


 サジンは最小限の移動に留め、爪の隙間を縫うように位置を合わせる。かすりでもしたら大怪我を負うが、危険な賭けとわかっていても、サジンは攻め手を緩めない。渾身の力を込めて、魔力の結晶で生まれ変わった剣を振るう。

 バキバキと砕ける音と共に、大爪の根元が粉砕された。痛みで不規則に暴れるカーフロックの翼を受け、サジンは地面へと叩きつけられそうになるが、その直前にカーフロックの頭上へ”移動”する。


(考えないといけないことが多すぎて頭が煮えそうだ。けど、この空間移動は絶対に使いこなさないと!)


 これまでの戦いとは違い、空中に身を移す3次元の戦闘を仕掛ける。空間を歪ませ自分の位置を移動させているこの状況は、サジンにとって負担が大きく、まだ多用するには難しい段階であった。身体ではなく脳の疲労を感じながら、宙に浮かんだサジンは落下の勢いのままに、思い切り武器を振り下ろす。

 巨鳥のくちばしを砕き、ふらつきながらもなんとか地面に着地する。着々と攻撃手段を奪い、戦局が傾きつつあるのだった。

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