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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
あの時の勇気をもう一度
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石の国へ

 サジンは目覚めた時、手足が胴体にくっついていることに安心した。自分がどこにいったのか、あれからどれぐらいの時間が経ったかを気にする前に、自分の身体がしっかりと元に戻っているかを確認したかったのだ。

 人間は死ぬと天国や地獄に行くという説があるが、少なくともサジンはそれを知らなかったし、そういう発想に至ることがなかった。どんな要因であれ、命が尽きたら、また別の場所で始まるのだ。


「スマホは無事、電源は入ったまま。女王の像もある。”布切れ”に魔力が残るって聞いてから、持ち物も一緒に移動できるかと思ったけど、正解だったみたいだ」

『はあああ、おぬしも無茶なことをするのう。一部始終を聞いておったが、また大変なことになったものじゃ』


「起きてるなら加勢ぐらいしてくれても良かったんじゃないですか? 僕だって怖かったんですよ」

『仮にわしが増えたところで敵う相手じゃないことは分かっとろうに。今いる場所がどこかぐらい確認したらどうじゃ』


 確かにそうですね、とサジンは頷く。見たところいわゆる屋内型、洞窟のような構造に近いことが分かる。が、このダンジョンがはたして世界から離れた”ハズレ”のダンジョンなのか、魔物たちの住む”もう一つの世界”なのかは、判断しかねていた。

 光源がスマホのライトぐらいしかないが、昔であれば目を慣らすのに時間をかけていたことを考えると、便利な道具を持ったものだと思ったサジン。


「……さて」


 電源が入ったままのスマホは、あれから一時間も経っていないことを示していた。もしこの機械が正確に時間を測ってくれていたのなら、すぐに目覚めることができたと考えて良いだろう。


「出口を探しましょう。前みたいに、ダンジョンの主を倒して、また別のダンジョンに行かないと。時間がありません」

『どこに向かうつもりなんじゃ? 知っておろうが、呪いをどうにかせん限りは元の世界に戻れるかわからんぞ』


「デーモンたちの国に向かえたら幸運だと思いましょう。あそこは人間の世界と通じる技術を持っています。うまくいけば帰れるかもしれない」

『そこにたどり着くために何十年とかかっても、か?』

「……そこまではかけたくないですね。どうにか方法を考えつつ進まないと」


 そう、サジンは無策であった。ひとまず源蔵から離れるために行動したが、その先は特に考えておらず、生きてもう一度戻れればそれでいい、ぐらいの認識だったのだ。

 透に聞いたところ、スマホは電池がないと使えないらしい。電池を節約しつつ目を慣らすためにもライトを消し、あてもなく歩き始めた。


「僕が源蔵にとって理想の魔力を持つまで10年、たまたまゆうりが助けてくれたので戻ってこれましたが、今回はこの呪いが解けることはないでしょうね。もし魔物や精霊が解くことができるのであれば、前もそうしてどうにかなったでしょうし」

『よくわかっとるの。わしにも無理じゃ』


 会話を続けていくうちに、女王がふと疑問に思ったのか、あることを尋ねた。


『おぬしは悲しくないのか? せっかく元の世界に戻れたというのに、また放浪生活になってしまうとはの』

「もちろん悲しいですけど、足を止める理由にはなりませんよ」


『わしはもう向こうで生活なんぞせんでよいと思うがのー。源蔵とやらがサジンを狙う以上、こっちにいた方が安全じゃろ』

「そのままだと、また誰かが利用されてしまいます。僕が止めないと」

『ふーむ。そうかそうか』


 会話をしながら歩き続けるサジンは、前方に魔物の気配を感じ取った。ひりついた雰囲気はなく、こちら側が一方的に認識している状態だと考えてよさそうだ。不意をついて倒してしまってもいいが、どんな魔物が生息しているのかを確認するために、もう少し距離を詰めることにする。


『これこれ、殺気立つな。悪い癖じゃぞ』


 女王にそう言われるが、サジンは依然として歩くのをやめなかった。どの種族か確認するだけ、と思っていたようだが、相手もサジンの存在に気づいたらしく足音が聞こえてくる。


「うう、月明かりがないとこんなに真っ暗だなんて。サジンさーん、いたら返事してください」

「僕のことを知ってるんですか?」


「あっ! 結構早く見つかったみたいで良かった。サジンさん、陛下がお探しですよ」

「ガーゴイル。まさか、ここは……」


 見た目に反して柔らかい声色でサジンに声をかけたその魔物は、全身が灰色で、人間の腕より少し短いぐらいの翼が生えていた。二本足で立つその姿は人間にも見えなくはないが、サジンはその魔物をよく知っていた。


「陛下ったら、サジンさんがいつでも石の国に帰れるように自分の半身を渡していたのですよ。まさか本当に帰ってくるとは思いませんでしたけど」

『ええい、さっさと外に案内せんか! わしの話はするな! 石に戻りたいか!』


「わあ怖い。さあサジンさん、こっちです。出口はちょっと歩けば見えてきますよ」


 情報が追いつかないサジンだったが、歩きながら整理することにした。女王が会話できる石像を渡したのは、石の国に帰ることができるようにとガーゴイルは話していた。予めこのような危機に陥ることを分かっていたのだろうか? まずそこを疑問に思ったサジンは、手元にいる女王に質問をする。


『おぬしが人間の世界で暮らしていけなかった時に備えて、ある程度わしの力が籠もった石像を渡していただけじゃ。言っておくが、会話できるのはおまけみたいなもんじゃぞ。まさか見ず知らずのダンジョンから石の国へ移動することになるとは思わなんだが』

「人間の世界から直接移動したわけじゃないんですね」


『サジンが一度死んだ後、別のダンジョンに移動したのを確認してから移しただけよ』


 ひとまず女王の協力があって、あてもなくダンジョンを彷徨うことはなくなったことを理解する。いくつかの角を曲がっていくと、奥の方から明かりが差し込んでいることがわかった。あと少しで洞窟から出られるとわかった以上、駆け足で外へ向かう。


「ここはお城から近い洞窟ですので、あとちょっと歩くだけでいいですよ~」


 地上に出た時、やはり人間の自然とは全く違うな、とサジンは感じた。一日の間ずっと月の光が世界を照らし、植物や生き物が現実とかけ離れた、恐ろしくも神秘的な世界。

 ガーゴイルの女王が支配する、石の国へとサジンは帰ってきたのだった。

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