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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
あの時の勇気をもう一度
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私の世界

 優利たちとの待ち合わせ場所は探索者地区前、登校する優利たちを見送った後、彼が乗っていた車に乗せてもらい、源蔵の元へ向かう予定であった。緊張していたサジンは日が昇ると同時に目覚め、家族が起きてくるまで自室でそわそわと落ち着かない様子だった。朝食を一緒に食べてから、事前に買っておいた道具や水分をカバンに詰め込み、意気揚々と出発する。サジンが出かける際にこれほど準備することは初めてだ。

 地区の前、門の端っこにちょこんと居座りつつ、優利たちが通りかかるか目を凝らしている。見つけると同時に、するすると人混みを抜けて話しかけに行った。


「……で、俺たちが来るまでここで待ってたと。ちゃんと寝たのか?」

「もちろんです。ゆうりたちこそ、昨日は大変だったのに毎日学校に行かなければならないのは大変ですね」


「別に不調があれば休めるから大丈夫だ。じゃあじいや、サジンを頼む」


 じいやは丁寧に答えると、サジンを車に乗せ、運転席に座った。隣に優利がいない緊張感からか、サジンはぴくりとも動かずじっとしていた。車が動き出してからも、静かに黙って過ごしている。


(な、何か会話するべきかな)


 じいやが源蔵とどのような関係なのか、優利や源蔵の過去をどれだけ知っているのか、そもそも自分のことを何か知っていたのか。質問しようかと考えることはできたが、いざ口にしようとすると、黙っておくべきだと遠慮してしまう。

 今は大人しくしておこう、と思った時、執事がサジンに向けて声をかける。顔は動かさず目線だけを向け、一応聞いていることを知らせる。


「和泉さんが九条様に会いたいということをご本人にお伝えした時、大変驚いてらっしゃいました。それに、誰かと会う約束をするなど滅多にないので、私も少々戸惑っております」

「そうなんですね。すぐに会えるみたいで僕もびっくりしています」


「それが、九条様は本来のご予定をキャンセルなさって、和泉さんに会うことを決めたのです。何か重要なご要件でもあるのでしょうか」

「えっと……僕にはちょっと分からないですね」


 何が分からないのか聞かれたら一瞬でボロが出る発言だったが、幸いサジンの言葉を深掘りされることはなかった。自分と関わりがあることは知らないのか、と予想したサジンは、下手なことを喋らないように黙っていて正解だったと感じた。

 一瞬執事が怪しいのかとも考えたサジンだったが、長く戦ってきたため、流石に敵意や実力のある人物を見抜くことは容易かった。この人はそもそも戦う力を持っていない、と判断している。


 これといった会話がないまま、車が停車した。景色を見る余裕もなかったので、サジンからすれば、気まずい空気のまま到着したのだった。案内されるがまま車から降りるサジン。一緒についてきてくれるのかと思っていたようだが、なんと執事はそのまま車に乗って帰ってしまった。


「……帰りは歩かなきゃだめなのかな」


 ぽつんと残されたサジンはそう呟く。少しでも呼吸をすれば森林や土の匂いがする郊外であるため、家から相当離れていることは想像に難くない。どうしたものかと考えていると、近くでガチャリと物音がした。すぐさまサジンはそちらを向く。


「和泉さん、よく来てくれたね。奥で話をしよう。ああそうだ、帰りはまた迎えを用意するから心配しなくていい」

「それはよかったです。ありがとうございます」


 九条源蔵が直接やってきた。丁寧な言葉だが、一緒にいるとやけに緊張してしまう雰囲気はそのままで、やっぱり喋りにくいな、とサジンは感じていた。かといって失礼があってはいけないので、無意識の動きにも気をつける。


 サジンは案内されるがままに屋内へと入っていく。内部は見た目よりずっと広く感じられるが、何より奇妙なのは、その生活感の無さだ。優利の屋敷には使用人がいるのに、ここには誰一人として人の気配がない。廊下の隅にほこりがあったり、壁や天井にシミがあったりすることもなかった。


「こっちだ。見せたいものがあってね」


 廊下を抜け、そのまま適当な部屋で話を始めるのではなく、もう少し歩くこととなった。ついていくうちに、下へ降りる階段を進んでいく。前はこんな場所に来ていないため、サジンは不思議に思っていた。

 階段を降りた先には、何の変哲もないドアがあった。源蔵はそのまま開くと、サジンに部屋へ入るよう促した。若干怖さを覚えたサジンであったが、見えた先の部屋は普通の住居のようだったので、足を踏み出していく。


「適当にかけてくれ。()()()()でもいいよ」


 真ん中に置かれた大きめのテーブルを中心に、いくつかの椅子やソファが置かれている。流石にソファへと腰掛けるのは気が引けたのか、サジンは別の硬そうな椅子を選んだ。


「ふむ。小さい時の優利はいつもソファに座っていたんだが、最近はあまり人気がなくなってしまってね」

「昔は一緒に住んでいたんですか?」


「ここと場所は違うが、一緒に暮らしていたよ。地下室が空いていたから、昔の部屋を再現したんだ」


 そうなんですね、とサジンは返した。わりと人間らしい所があるのだと思ったが、流石に失礼だと頭を振る。優利がいないからか、どこか雰囲気も柔らかくなっているのも、気のせいではないかもしれない。


「さて。今日は和泉さんから聞きたいことがあるとのことだけど、私も色々とお話したいことがあるんだ。すまないが、その後でもいいかい?」


 源蔵は静かに頷いたサジンの様子を見た後、斜め向かいの椅子に座った。


「私は探索者として色々なダンジョンを攻略してきたが──こちら側に現れるダンジョンとはさらに違う次元に、魔物たちの住む世界があることを知ったのだ。探索者という存在は、未知の迷宮を探索すると共に、それらの脅威を打ち払うべきだと考えている」

「ええと、立派な考えだと思います」


「ありがとう。人々が得たスキルという力は、それらに対抗するためのものだと思っているのだが、和泉さんに聞こう。あなたには守りたいものがあるかい?」

「もちろんです。家族、友達、それに、自分も大事です。こっちの世界に帰ってきてから、大事なものはすごく増えましたよ」


「そうだろうね。和泉さんには話しておこう……私が守りたいのは、()()()()だ」


 これまた大きな考えなんだな、とサジンは思った。源蔵は、どういうことかをより深く語っていく。

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