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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
ダンジョン少年の帰還
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石投げのコツ

 サジンの言った通り、通路の奥からわずかに光源が見えた。ゆらゆらとなびくそれは、なにかしらの手段で起こった火であると結論づけたようだ。目的の魔物にある程度の知能があると察した優利と安子は、いっそう緊張した様子。


「ふぅ……落ち着け、授業と訓練を思い出すんだ」

「ダンジョンの主を探すんだよね? 任せて!」


 また二人が知らない話をしているな、と態度に出そうになったサジンだったが、これ以上言及することはしなかった。自分が口を出すことで、二人の探検を邪魔しているように思えたからだ。


「サジン、ひときわ強い魔力を持った生き物を探してくれ。ゴブリンかもしれないし、別の何かかもしれない。それを倒せばダンジョンが消えて脱出できるはずだ」

「僕は脱出できたことないです」


「そう言われても! 授業だと理屈しか教えてくれないからさ!」


 過去に魔物の群れと一人で勢力争いを繰り広げたことがあるサジン。ひときわ強かった魔物を倒しても、別の場所に送られるだけで日本に帰れた試しが無かった。

 そろそろと言うべきか、いい加減と言うべきか、サジンは自分がちょっと変わっていることを自覚し始めた。どうやら日本の探索者、ダンジョンを攻略する人たちにとって、イレギュラーな存在であると。


 これはちょっと話し合う必要があるな、とサジンは感じた。自分が三人いるならまだしも、この二人は全く知識も経験も違う生き物だ。もっと積極的に会話して、お互いの認識をすり合わせる必要があると考えた。


「あこ。この石をあそこに投げてゴブリンをやっつけてください」

「ええ!? どゆこと!? 相手見えないよ!?」


 無理らしい。遠くから攻撃すれば先手を取れると考えたサジンだったが、安子は何かの不都合によりできないようだ。


「じゃあゆうり。あこと二人でゴブリンをやっつけるお手本を見せてください」

「いや、サジンも一緒に頼む……」


 駄目である。少しでも二人の感覚を理解できればと思ったサジンだったが、このままではどんどん空回りしていきそうだ。


(元々僕が変なのか?)


 その通りだと言うと多少彼は傷つくだろうが、その通りだった。ちょっと待ってほしいと二人に伝え、考え込むサジン。慣れない脳みその部分を使っているようで、頭が煮えそうになるサジンだったが、なんとかアイデアをひねり出した。


「わかりました。じゃあゆうり、あこ、僕に動きを命令してください。そうすれば、うまく行動できると思います」

「いや、そんな部下みたいなことはできな──」


「めいれい!してください!」

「ロボットかお前は。……わかったよ。放っておくとどうするか分からないしな」


 こうしてサジンは、一時的に探検隊のセオリーを学ぶため、大人しく言うことに従うこととなった。学校とやらの知識がどれほどのものか、身をもって確かめる時だ。


「むっ、騒ぎすぎたかもしれません。何かが近づいてきます」


 ある意味、彼らにとって都合がいいことになってきている。物音を聞き取ったゴブリンのうち一匹が、通路まで偵察に来たのだろう。サジンは足音の他に気配や臭いと、様々なことで探知できているが、そこが他の二人と異なる点だった。

 サジンの一言で、安子がきりりとした表情になり、臨戦態勢を取る。普段はほがらかな雰囲気の彼女が、こうも戦いに挑む姿勢を見せるのだから、サジンは少し怖くなった。サジンも似たようなものだが。


「来ます」


 流石に距離が近くなり、現代人二人組も察知できたらしく、警戒してやってきた魔物を迎え撃つ形となった。しかし、こちらが一方的に目撃できるはずもなく、お互いに向かい合う位置取りとなり……


「あっ逃げます! あいつ逃げますよあこ!」

「真っ向勝負はしてこないのね! ちょっと舐めてた!」


 ゴブリンの姿を確認したとたん、相手はすたこらさっさと逃げていく。向こうからしても、不利な場所で戦う必要もないわけだ。このまま追いかけると魔物の巣に直行してしまい、せっかくの地の利が活かせなくなる。


(走れば追いつける。でも指示じゃない)


 サジンは一瞬ためらった。二人ならどうするかを理解しようと手を出さず、目の前の敵を逃して危険な状況を作ってもいいのか? サジンからして、自分のせいで誰かが倒れることになるのは、あまりいい気分にならないようだ。彼はすっと左足を前に出す。


「サジン!」


 優利の声がする一瞬前、親指ほどの石が安子の耳元を掠めた。彼女の小さな悲鳴が聞こえるより先に、魔物の叫びが洞窟にこだまする。サジンの気合いをいれた投石が、一体のゴブリンを仕留めた。

 サジンにとって何かを投げるという行為は、遠距離攻撃の基本であり、手慣れたものだったのだ。投げるものは別に石に限った話ではなく、魔物から奪った武器や、固形物であればとりあえず攻撃に使う。


「これ私と違うスキルじゃない? 私、身体を強化してもこうならないよ?」

「何度も投げるとそのうちできるようになりますよ」


 嘘だー、と口を尖らせる安子。サジンが話を続ける。


「というか早く行きましょう。ここでずっとおしゃべりしてる気がします」

「……ああ、そうだな。安子、前を頼む」


 どこか含みのある反応をする優利。その理由は、先程から度々起きている、不可解な現象にある。なぜダンジョンの武器を持たないサジンが、魔物を消滅させられるのか。気絶させるまでならまだしも、命を奪うほどの一撃を与えるのは、適切な武器がなければ不可能。

 そんな中、蹴りで一発、石ころで一撃と常識もあったものじゃない現象が起きているのだ。しかし、本人もそれを今考えるべきではないことを分かっているようで、奥に進む安子の後ろに続く。


 三人合わせて息を殺し、ライトを消して進んだおかげか、一方的にゴブリンの群れを視野に入れることができた。焚き火を囲っているその様子は、人間で言うところのキャンプに近いだろうか。野性的ではなく、文化的なものを感じさせる姿だった。

 空洞としてもかなり広く、大声を上げれば空間中に反響することは間違いないほど。そのうえ、少なくとも人数では不利。


「サジン、さっきのアレをもう1回やってくれ。石を投げるやつ」

「分かりました。いきます」


 サジンは優利の言葉から、3つの意図を汲み取った。今から戦いを始めること、この位置から相手を動かすこと、そして投石も間違った技術ではないこと。

 じゃりっ、という土の音と呼吸のみがわずかにした。その直後、石ころはゴブリンの頭部に直撃し、いくつかの悲鳴が洞窟に響く。そこそこの距離があるが、恐ろしいほどの精度を誇る投石だった。


 優利は一瞬考える。石がおかしいのか、サジンがおかしいのか。どちらかという結果が出ないまま、戦いの幕が上がる。

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