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囚人の記憶

 最初に見た時はただ広い草原だと感じていたサジンだったが、今になってもう一度見渡すと、より広く感じられた。中央に居座っていた魔物がいなくなり、一見すると平和な場所になったように見える。


「新田さん、外から見てどんな風でしたか?」

「もやが消えた後、ダンジョンが消滅するみたいに塊が無くなっていったよ。一瞬見えた内部の空洞と魔物の大きさが噛み合わないし、中の次元は歪んでいたと考えて良さそうだね」


「ダンジョンの中にダンジョンが出来ていたようなものなんでしょうか」

「”囚人の呪い”がどういう魔力か不明だけど、相当強力な力が集まっていたんだと思う。気になる所が多すぎるから、後で色々調べないと」


 連とサジンが会話しているうちに、担架を持った人々が優利と安子を運んでいく。運ばれている張本人は「運ばれるほどじゃない」と言っているが、一応ダンジョンの外で診察を受ける予定らしい。サジンが呪いの内部に突入した後、どうなってもいいように連が人を手配していたようだ。

 美月と透は二人に付き添うようにしてダンジョンを後にする。サジンも一度撤退するように勧められるが、まだ調べたいことがある、と断って、周囲の様子を見ることにした。連も念のため残ってくれている。


(出口は教えてもらったし、いつでも帰れる。でも何か……何かがある気がする)


 あれだけの魔力の塊が、跡形もなく綺麗さっぱり消え去るものだろうか。そこに疑問を感じたサジンは、己の感覚を信じて、もう一度暗がりの草原を歩いて回る。地面に注目しつつ進んでいくと、やはりというべきか、発見があった。


「なんだこれ。布?」


 サジンは草原の中に、ひどく損傷し、かなり年月が経ったことを感じられる布切れが落ちているのを発見した。色褪せた見た目に、手のひらほどの大きさだったが、ついさっきまでそこにあったとは思えない物体だった。

 周囲の地形と比べてあまりに不自然だったため、サジンはそれを拾いあげてみることにした。指が古びた布に触れた瞬間、男性の声がサジンの頭に響いた。


『帰りたい、もう死にたくない』


 思わずサジンは手から布を落とし、念入りに周囲を見渡した。探索者は誰もいないし、連の声とは全く異なっている。誰かがいるわけではなさそうだ。

 声の原因は古びた布切れにあると予想したサジンは、落とした布を再び拾った。すると、今度は頭の中に女性の声が響く。


『助けて。誰かここから出して』


 金切り声に近いような、ただならぬ状況で声を発しているようだった。電話のように声が通じているのかも、と考えたサジンは、色々と質問をしてみるものの、返事らしいものは聞こえない。


『この人間も駄目だ。”増幅の力”が弱すぎる』


 また声が変わる。サジンはどことなくその言葉に、魔物の訛りがあるように感じていた。古びた布を持っているだけで、様々な声が頭の中に流れ込んでくる。


『魔力の源として人間を利用するのは悪くないが、いかんせん効率が悪すぎるな』

『無限の魔力さえ使えれば、どの世界を支配するのも思いのままと言っても、そう都合の良い話があるか?』


『しかしまあ、この呪いの塊を使うだけでも、相当便利なはずだ。今は黙って奴の実験に付き合うしかない』


 聞いたことのある単語がいくつか飛び出してくる。が、会話の内容を把握するのは一苦労だ。どことなく碌でもない話でありそうなことを予想したサジンだったが、おおよそそれは当たっていた。


『呪いの塊も随分大きくなってきましたね』

『あの呪いを解けるのは、呪いと縁のある人間だけだ。これは勝手にそれを追い求めるだろうが、我々には関係ない。閉じ込めておけ』


『看守が行方不明になるのもこれで三回目か。新しく配属されたやつも──うわあああっ!!』


 頭に響く声が突然大きくなったので、サジンは頭を抑えた。先程から聞こえてくるこの声たちは何なのか。この布切れが何かの記憶を残しているのか、はたまた自分がおかしくなってしまっただけなのか。

 分からないことが多すぎるため、サジンは深くため息をついて、気分を落ち着かせた。すると、聞こえてくる声が人間のものに戻り、今度は様々な人物の声が同時に脳内へ届く。


『もし』


『もしこの呪いが解けたら、伝えたいことがあります』


『これ以上迷宮の囚人を増やさないで』

『呪いを解く者を探して』


『そして』

『”呪う者”を止めて』


 その声が聞こえた直後、古びた布は光の粒子となって消えていく。気になる単語だけを残して勝手に消えていくことに納得がいかないサジンだったが、自分の立っている周辺までが消え始めるのを見て、考えを改めた。

 ダンジョンの主は、この布切れだったというのだろうか。この小さな物が、あれだけの魔力を持ち、ダンジョンを生み出したのか。謎は深まるばかりだったが、ひとまずサジンは、消えていく世界に身を任せた。



 夕暮れの日差しが、暗さに慣れた瞳に突き刺さる。ダンジョンに入る前の場所とは違うが、入口が複数あると聞いていたので、別の場所から出てきたのだと理解できた。周囲には沢山の大人たちと、見知った顔がいくつかある。


「時間差でダンジョンが消滅した……? サジン君、何かあった?」

「あっ、はい。布切れが落ちてたので拾ったんですが、急に色んな声が聞こえてきて。よくわからないうちに、布切れと一緒にダンジョンが消えちゃいました」


 隣に立っていた連は、声を聞いていたわけではないようで、突然ダンジョンが消滅したように認識していた。心当たりのある単語はいくつかあったが、何を伝えたかったのかはいまいち理解できずにいた。

 女王が言っていたことを考えると、あの声の中には、過去にダンジョンへ閉じ込められてしまった人間がいた可能性が高い。魔物の声が聞こえたのは気がかりだったが、サジンはひとまず気に留めておくことにした。呪いを解く者が優利だとすれば、優利に縁のある人物が呪いをかけているのだろうか。


(いや、そもそも僕にかかった”囚人の呪い”が解けたのもどうしてか分からない。ゆうりなら知ってるかな)


 聞こえた声と関係があるような気がしたので、サジンはテントの下で座って休憩している優利の元へ向かう。


「みんな、ダンジョンは攻略できたので安心してください。ゆうり、あこ、気になったんですが、僕が人間の世界に来る前に、何かやったことってありますか?」

「お疲れ様。今となっちゃ懐かしい話だなぁ。父さんに、ちっちゃな布切れを渡されてさ。これに治療の力を使えば、力になってくれる人間が現れるって教えてくれたんだ」


「優利のお父さんが言ってた儀式のこと? 確かに、優利の家の庭でやったら、サジン君がやって来たよね」

「布切れ、ですか。それってどうなりました?」

「サジン君が来た時に消えちゃったよ。それがどうかしたの?」


 奇しくも、先程の状況と似たようなことがあったらしい。呪いの塊から布切れが現れ、力を失って消えた。布切れに治療の治療の力を使って、サジンが現代に帰ってきた。

 自分にかかった囚人の呪いが解かれたのはその時なのだろうか。サジンは少し俯いた後、優利にこう言った。


「明日、ゆうりのお父さんに会わせてくれませんか。聞きたいことがあるんです」


 優利は快く承諾してくれる。和泉翔が何故サジンとなったのか、明かされる時が近づいていた。

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