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囚人の呪い

 ダンジョン探索の歴史上、広い土地にダンジョンの主が一匹だけ存在するという構造は、やっかいなものだと相場が決まっていた。うかうかと侵入した人間を栄養にしている魔物や、単純に恐ろしく強靭で、一匹のみで環境を作り出すほどの魔物など、人が攻略するには難しいものばかりだ。

 サジンもそれは薄々感じ取っていた。入った瞬間から優利と別れ、謎の巨大な魔物に襲われる探索者たちを連が助けてからというものの、調査は一向に進んでいなかった。


 複数の入口が同じ空間に続いていること。そして、一部の探索者が行方不明になっていること。連の話した中ではこれらが今までにない要素ではあるが、だだっ広い空間に鎮座する巨大な生物らしきものも、十分警戒に値するものだろう。

 人の攻撃を一切受け付けていないような素振りを見せ、なおかつ人間に対して攻撃的。だが、最も危険とされたのは、その魔物が纏う魔力だった。


「あれの魔力が無くならない限り、近づくことさえできやしないのが難しいね。サジン君は心当たりあったりする?」

「触れた人間が少しの間ダンジョンから出られなくなる、というのは、昔の僕と似ている気がします」


「確かにそうだね。一時的なものとはいえ、ダンジョンに閉じ込められたサジン君と同じ状態になっちゃうわけだ」


 連は顎をかりかりと掻きながら、どうするべきか悩んでいるようだった。経験豊富な探索者でも、見たことがない魔物であることは間違いないらしい。


「実はサジン君の親戚だったりしない?」

「そんなわけないじゃないですか……」


 連の圧倒的な力のおかげで拘束できているからか、軽口を叩く余裕はあった。しかし、触れられない、近づけない、戦えないと未知の状況だらけの今だからこそ、警戒を緩めてはいけないとサジンは理解している。

 上空から全貌を見ることができないため、この赤黒い魔物らしき何かの姿を完全に見ることができないが、ぐるっと地上から見回ってみたところ、手足や口といった身体のパーツは見当たらなかった。大きく膨らんだ風船、紅葉した丘など、それらしき例えが当てはまったとしても、いささか生物とは考えにくい。


「時間経過で何かあるまで様子見かな。サジン君は……っと、そういえば電車で帰る必要もないんだったか」

「地区の近くにある入口まで行けば、すぐ帰れますね。でも、もう少し一緒に見ておきます」


 ダンジョンにいる人間がサジンと連の二人になってから、しばらくが経った。お出かけの途中で大変なことになったな、と考えているサジン。落ち着かない様子で過ごしているが、ここにきて佇む魔物に変化が起きた。


「サジン君、ほんのちょっとだけど、アレの魔力が薄れているのが分かるかい。場所を選べば、近づくこともできそうだ。ちょっとついてきて」


 連に言われた通り、赤黒いもやのようなものが、若干薄れていることが見た目で判断できた。せかせかと歩いていく連についていき、どうにか状況を進展させられないか考える。


「かなり近づけたね。表面に直接触れるのは危険かもしれないからやめとくけど、武器を使った攻撃なら通用するかもね」

「大丈夫でしょうか。爆発したりしませんか?」


「その時は俺が守るから安心して。強化したサジン君の攻撃の方が強そうだし、お願いしてもいいかな」

「はい、やってみます」


 石の剣を作り出し、両手で構え、息を整える。一瞬で増幅した魔力を使い切れるよう、一撃に全力を込めてぶつけるしかない。


「──むうんっ!」


 渾身の力を込めた斬撃を放ったが、まるで切れた感触は無かった。しかし、連の拘束から逃れたいのか、魔物は大きく躍動しようとする。痛みを感じたのか、攻撃を嫌がったのかは不明だが、攻撃をすることによって変化はあった。


「もう一発!」


 石の剣はいくらでも作り出せるため、サジンは先程と同じ位置に投擲を仕掛ける。サジンの手から離れた剣は、魔物の皮膚らしき部分に突き刺さったと思えば、粉々に砕け散る。しかしその後、驚くべき事態が起こった。


「開いた!?」

「これは……中にもう一つの空間があるのか?」


 確かに二人は、攻撃を仕掛けた場所に一瞬穴が空き、奥にダンジョンのような風景があることを確認した。そしてなんと、その奥にあった空間から、何かがこちら側に投げ込まれたのである。


「何か出てきました! ……って、ええ!?」

『わしの思った通りじゃ! やはりあそこは別の空間!』


 サジンは一瞬、魔物の中から自分たちの方へ何かが投げ込まれたかのように見えたが、それは見間違いなどではなかった。魔物の中から、女王の石像がひょいと飛んできたのだ。


『おお、やはりサジン、おぬしが開いたのか。偉いぞ。まあ大方そうだろうとは思っておったが』

「女王、どういうことなのか説明してください……。全然状況がわかりません」


『わしだって分かっとらんわ! まあ、あくまでも予想を話すとしよう。その前に、こいつを押さえつけておるのは新田とやらじゃな? サジンを守ったこと、礼を言おう』

「大人として当然のことをやったまでだよ。さて、女王様のご意見をお聞かせ願おうかな」


『とりあえず、こいつは”囚人の呪い”であると仮定しておる。これまでダンジョンを彷徨ってきた人間たちにかかっていた呪いが、集まり大きくなって現れたんじゃな。おぬしと同じ魔力がしたのも、かかっている呪いが同じだったからと見ておる』

「僕以外にも閉じ込められた人はいるって言ってましたもんね。しかし、どうして今になって現れたんでしょう」


 後で説明してやるから待っておれ! と女王が言い放つ。彼女なりにかなり考えて言葉を発しているようで、いつもの饒舌な雰囲気とは少々異なっていた。


『あれは中々難儀じゃぞ。()()()()()()()()と言っても過言ではない。呪いの塊が魔物となり、ダンジョンの主として体内に空間を生み出したのだと考えた』

「……そんな事例は聞いたことないね」


『じゃろうな。最初はどうして今になって現れたのか知らなんだが、わしは賢かったからピンと来た。自分の呪いを解くために、それができる生物を探しに現れたと予想したのじゃ。ずっとわしらの世界を探しとったんじゃろうが、ついに人間の世界で鍵を見つけたのじゃろう』

「まさか、僕の知り合いですか?」


『そこまで出てくるのに答えは出てこんのか! 優利じゃ優利! 優利が囚人の呪いに見つかって! 友人共々中に閉じ込められて! 困っとったというわけじゃ! とにかくこいつをなんとかするぞ!』


 いつものように騒がしい女王が戻ってきたところで、サジンもようやく状況を飲み込めてきた。行方不明になっていた4人は、”囚人の呪い”の中に閉じ込められている。そして、自分がその中にいた女王をどうにか助け出したというわけだろう。

 呪いという魔力に似たような概念なら、この生き物の不気味さも説明がつく。どうにか攻略するべく、女王たちは動き出した。

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