牢屋の中へ
一気に穴へ飛び込むわけにもいかないので、丁寧に縄ばしごを降りていくことにした四人だが、既にダンジョンの影響を受けていた。
息を合わせて降りていたはずだったが、ある高度を境に、透と美月の姿が見えなくなったのだ。気配もなければ、姿が透明になったわけでもない。いつ、どのタイミングでこうなったのか理解できなかった安子は、動揺を隠せずにいた。
「二人とも消えちゃったよ!? 優利、優利はいる?」
「上にいるよ。俺もダンジョンに入る時、新田さんとサジンが急にいなくなったから、だいぶ焦ったよ。今回もこうなるのか……」
「そのわりに冷静だね!? みんな無事なの?」
「多分。ダンジョンの中で無線が繋がったし、連絡も取れる。姿だけがどうにも見えないみたいなんだ」
確証のない話に若干の不安を覚える安子だったが、先に内部を見てきた優利の言うことを信じることにした。実際、魔物のうめき声や物音も聞こえなかったので、そういう場所なのだと納得できた。
ようやく地面に降り立ち、警戒を怠らずに周囲を確認する二人。人工的な雰囲気は感じられず、薄暗い洞窟が奥へと続いている。通路の途中に降りたようにも見えた安子は、前後がどうなっているのかを確認する。
「無理やり穴を開けて洞窟に入ったみたいだね。優利はどっちから来たの?」
「……いや、入る前の地形と全然違う。どうなってるんだ……?」
優利が来た時は、自然に作られた洞窟の地形ではなく、そもそも遺跡のような造りだったと話す。入る度に地形が変わるのか、元々発生したいくつかの地形に割り振られるようできているのか。
「もしかしたら、調査に向かった人もここにいるかも?」
「だな。このタイプの場所に行って、まだ戻ってないだけかもしれない。調べてみよう」
二人はひとまず周辺の地形を把握するため、ライトで照らしながら探索することにした。光源は手元のライトぐらいで、喋る度に声が反響している。そこそこの広さがある洞窟であることは、学生の身でも分かったようだ。
「そういえば、ここに入る時、大人の人に止められなかったんだ。魔力の気配がそんなになかったのかな?」
「俺は新田さんがいたからわからないけど、ダンジョンから魔力が溢れるぐらいじゃないってことだし、中身は大したことないんじゃないか。本当に危険だったら、どのみち入れなかっただろうし」
優利の話を聞いて、こくりと安子は頷いた。ダンジョンが発生した直後、簡易的な魔力の計測が行われるのだが、あまりに濃度が高い場合、調査する探索者は実力のある者でないといけない決まりになっている。
学生の安子も調査に参加できたので、単純に入る度に地形が変わるだけの、危険度の低いダンジョンという扱いだと、優利は予想しているようだ。実際、ライトをつけながらお喋りして歩いていても、一向に罠も魔物も見当たらない。
「わ、行き止まりだ。全然歩いてないよね? 戻って逆の方を探してみようか」
移動してから早々に道が途絶えてしまったので、一旦縄ばしごのところへ戻ろうと提案する安子。優利もそれに同意し、すたすたと戻っていく。
環境音がしないまま、コツコツと二人の足音が洞窟に響いている。危険度は低いとわかっているし、一度通った道なので、さほど警戒せずに足を進めていた。しかし、ある違和感が安子の脳裏をよぎる。
「ねぇ、どれぐらい歩いたっけ。ちょっと嫌な予感がするんだけど」
「……多分それ、当たってるよ。縄ばしごがどこにも見当たらない」
代わり映えしない地形、どこがどのようになっているのかを一々覚えているはずもないため、確証はなかった。しかし、明らかにそこそこの距離を歩いているのに、元の場所に戻った気がしないのだ。
「地形が変わったのかな。優利、帰り道が無くなっちゃったけど、このまま探索する?」
「謎はまだまだ多いし、どうせ帰れないんだったら、もうちょっと調べよう。みんなと合流できるかもしれないしな」
地形が勝手に変わるなら、はぐれた仲間とまた会えるかもしれない。楽観的な考えだが、安子はそれについて気にしていなかった。悪いように考えていては始まらないと、安子は考えていた。
その後も二人は、体力の続く限り歩いていく。殺風景な洞窟をかなり歩いていったが、何も発見らしい発見はなかった。苔や生き物といった自然を感じさせるものはなにもなく、ある意味で人工的な雰囲気を感じさせる。
「……安子、何かあるぞ」
「なんだろう。近くで見てみようよ」
ライトの光が道の終わりを照らしていた。先程と同じように何もない壁があるのみかと思われたが、こちらは違った結果となった。
「私こういうホラーっぽいの苦手なんだけど、まさかこんなところで遭遇するなんて」
「ドアがあるだけだろ? いやまあ、こんな洞窟にドアがあるってのは中々気味が悪いけど」
壁と似たような薄茶色をしているが、質感は木材ではなく金属でできていた。非常に頑丈な印象を与えるそれは、全く開く気配がなく、ドアノブのような物も見当たらない。ただ単に行き来するためのドアだとは、とても思えない代物だった。
「一応手を取るところはあるよ。開けてみる……?」
「俺が開けるよ。安子は何があってもいいように構えててくれ」
本来は前衛である安子が開くべきなのは優利も分かっているはずだが、危険だと分かっている中、安子に任せるわけにはいかないというのが優利の気持ちなのだろう。
扉は重たい音をたてながらゆっくりと開いていく。引き戸であったようで、優利は目一杯の力を込めて引っ張っているようだ。安子が手伝おうか迷っているうちに、人が通れるぐらいの隙間ができた。
「美月先輩! ドアが開きました!」
奥の空間から、聞き慣れた声が聞こえてくる。優利と安子が身体を押し込むようにして隙間を通ると、空洞に出ることができた。
「帰れる目処がたつといいのだけれど」
その様子を2つの視線が捉えていた。安子たちはその声を聞いて、それが知り合いのものであることをすぐに理解した。
「透ちゃん! 美月! ここにいたんだね!」
「安子先輩だ! よかったぁ、出られないかと思ったんですよ」
合流できたことに安堵する四人だったが、状況はあまりよろしくないことが明らかだ。なぜバラバラになったのか、どうしたら脱出できるのか。考えることはまだまだ沢山あるのだった。




