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愛の女王

『愛する心……それは魔物たちにとっても重要なもの。安子と言ったな。おぬしが抱くその心こそ愛じゃ。ガーゴイルの守護者たる心得では、愛する者を守りたいという精神は尊いものとされる。愛も強くなるために必要なものなのじゃ』

「急にロマンチックなことを言いだしたよ女王さま!? だから私と優利はそんなんじゃないって!」


『別に恋をしよと言うとるわけではない。あのサジンも家族を愛し、守りたいもの、尊きものを愛する心で強くなったのじゃ。そういう過程で得た力は、何にも代えがたい強さをもつものよ。大事にするんじゃぞ』

「はあ、はい。わかりました。大事にします……」


 安子は顔を真っ赤にしたままだが、女王の語り口は至って真剣であった。注文していた料理が届き、お喋りを中断して食事にしようとしても、女王の語りは続く。


『わしも昔はただの決まりごとだと軽視していたものよ。しかしな、サジンには本当に驚かされた。あやつは守りたいと思ったものを守るため、どんなに辛い戦いにも挑んだのじゃ。自分の家族だけでなく、関わりを持った魔物のためにも戦ったと聞いて、徐々に考えを改めての』

「お兄ちゃん、向こうでも頑張ってたんですね」


『その通りじゃ。それで結局、回り回って元の世界に戻り、家族と再開したのじゃから、愛の大事さを思い直したというわけよ。まあ、名誉息子の頑張りを自慢したかっただけじゃが』

「お兄ちゃんに謎の肩書きがついてる……!」

『おぬしも名誉息子の妹だから実質娘じゃぞ』

「知らないお母さんが増えた……!」

 

 女王の奔放っぷりに振り回される透。けれども、女王からして透に悪い印象は特に無いようで、娘のように思っているのは本当のようだ。威圧的な声色ではなく、いつもより笑い声が多い。

 安子たちの皿が空いた頃合いに、もう一度会話の波がやってくる。今度は美月が、安子たちに言いたいことがあるようだ。


「本当は話すか迷ったんだけど、私、今の探検隊を抜けてあゆみ隊に戻ろうと思ってるの」

「ほんと!? でもいいの? 今の探検隊ってスカウトされて入ったんでしょ?」


「石化騒ぎで独断行動をした後、やっかみを受けることが増えちゃって。正直、居心地が良くないの。虫の良い話だけど、今のあなたたちと一緒に過ごす方がいいと思って」

「私は全然いいよ! もう一度美月の居場所になれるなら嬉しいし。みんなもきっと喜ぶよ」

「……ありがとう。透さんには、色々と説明しないといけないわね」


 同じ探検隊の仲間になる透のために、美月が自ら自己紹介をしようとする。そこに割って入るように、安子が紹介し始めた。


「美月は謙虚だから私が紹介するね! 美月も透ちゃんほどじゃないかもしれないけど、大型新人みたいな扱いだったんだよ。探索者学校に入ってすぐティア3になったし、珍しいスキルもあって、おまけに成績優秀!」

「大したことないわよ。私にやれることをやっていただけ。でもまあ、それが気に入らない人もたくさんいたわ。自分の性格が変なのも理解してるし、友達も少なかったの」


「そこで私たちの探検隊、まだ二人しかいなかった時に入ってもらってたの。でも、大きなところから勧誘が来て、私が好きな方を選んでもらうことにして。色々あって別れることになったんだけど……」

「大きな探検隊でやっていくのは大変だったから、人の多いところは合わないのかもしれないわね。まあ、こんなところ。透さんも、探検隊を選ぶ時は、自分と合ったところにするのよ」


 石化騒ぎ自体は話でしか聞いていなかった透だったが、それ以降、様々な生徒に影響を与えたことを知った。美月にも事情があり、またあゆみ隊が賑やかになることだろう。兄が聞いたら喜ぶだろうか、と透は想像した。


「私はみんなみたいに才能無い分、しっかり頑張らないと! って思うんだよね。何ができるのかは分からないけど」

『良い心がけじゃ。なんならわしが鍛えてやってもよいが、どうせまた騒ぎになるし、そっちに行くのも大変じゃからのう。わしの代わりにサジンたちの面倒を見られるよう精進するのじゃぞ』


 そこまでしなくても大丈夫だと思うよ、と安子は返す。それからしばらく注文していた料理に舌鼓をうち、追加で注文するか、しばらくお喋りを続けるかを考える時間となる。透は持ってきた手鏡で自分の顔を確認し、口元についたケチャップを拭き取った。オムライスは少々子供っぽいかも、と考えていた透だったが、誰もそういったことを口に出すことはなく、ほっとした。


 せっかくだからデザートでも、と思ったのか、安子が再びメニューを確認しようとする。それを見ていた透は、少々外が騒がしいことに気がついた。テーブル席から外の確認は難しかったが、女王の一言により、状況を把握する。


『少々前から気になっておったが、また世界が繋がったようじゃ。ううむ、わしが身体をこちらに移したせいか。やはり影響を最低限にしようとも、人間に迷惑はかかってしまうな』


「ダンジョンが発生したってこと? 地区から近いし、人はすぐ来そうだね。美月、どうする?」

「学生の出る幕ではないと思うけど。女王様も、それほど気に病まなくていいわ。町中にダンジョンが発生するなんて珍しいことじゃないから」


 女王に反応する安子と美月。店内もなにやら騒がしくなってきた。ダンジョンから魔物がこちらの世界にやってくる可能性があるため、付近の住民は避難するか屋内に留まることが常識である。基本的にすぐ探索者が調査に向かうため、周辺に被害が出ることは滅多にない。

 美月の話した通り、発生した直後で事前の調査がされていないダンジョンは、基本的に経験を積んだ大人が向かうことになっている。が、安子は考えが少し違ったようだ。


「こういう時のために、最低限の道具は一式持ってきてるんだよね! 今ささっと解決したら、あゆみ隊の評判も上がると思わない?」

「学生が出しゃばるなって怒られないかしら。まあ、透さんや私はティア3だし、安子も経験を積んではいるから、行くかどうかはあなたに任せるわ。透さんはどう?」


「先輩方と一緒だったら、大丈夫だと思ってます! もちろん、危なくなったらすぐ引き返すべきでしょうけど」

「透ちゃんも行くよね! よーし、じゃあデザートは後だ! 出発から、女王さま、案内よろしく!」


 連から支給された食費を使って会計した後、カフェを後にする三人。道案内をさせられる女王はやや不満げだったが、きちんと案内はこなしてくれるのだった。

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