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束の間のガールズサイド

 古すぎず、先進的すぎず、落ち着いた雰囲気が漂う店内には、若者から年老いた者まで様々な層が集まっていた。場所は変わって地区の近くに建てられたカフェ。安子と透、そして美月が、一時の交流を楽しむべく集まっていた。


「あたし、こういう大人っぽいところでお話するの、結構憧れてたんです」

「そんなに大人っぽいかなぁ? でもでも、みんなで美味しいものを食べるのは楽しいよね」


 時刻はお昼時よりも少々早いのもあって、席はまばらであった。三人でテーブルを囲んだ後、透が手提げかばんから一体の小さな石像を取り出した。


『感謝するぞ娘っ子よ! ちょうど忙しいのも抜けて、気分転換したかったところなんじゃ』

「えっ、女王さまも一緒なの? あー、あんまり騒ぎにならないように声はちっちゃくしてね」


 ごまかす言い訳はいくつか思い浮かんでいた透だったが、流石に石像が喋るとなれば騒ぎになるかもしれないため、安子から釘を刺される女王。それを承知しているのか、いつものような高笑いや甲高い声は控えめであった。


『公務や侵略の防衛で大変でのー。まあわしのことは気にせずどんどん食べると良い。いつかサジンに届けさせるとしよう。わしは見てるだけで十分じゃ』

「わかった。でもせっかくの女子会だし、女王さまも一緒にお喋りしようよ~。こういうのはみんなで楽しまないと」


『おぬしはサジンと違って優しいのう。あいつなら”女王、騒ぎになるので静かにしてくださいね”なんて言いおるぞ』

「女王様、お兄ちゃんのモノマネが上手すぎる……」


 なんてったってわしが育ててきたからな! と自慢げな顔が浮かぶようだった。注文の前に軽くお喋りをしていた三人に、美月が疑問に思っていたことを切り出す。


「あの時の女王様がいるのはサジン君と縁があるからわかるけど、私まで来て良かったの?」

「いやいや、美月は大事な友達だし! もー、探検隊を抜けたのは気にしなくていいって言ってるじゃんか~」


「……そうね、ごめんなさい。今日は楽しませてもらうわ」

「うんうん。じゃあ何か頼もっかな。みんな好きなもの選んでね」


 メニューには軽食が多かったが、それなりに洋食も提供しているようで、安子はそちらを注文するようだ。和気あいあいとどれにするかを決めた後、話題はサジンと関連するものとなる。


「透さんに女王様は、サジン君と親しい仲なのよね。彼って謎が多いけれど、普段はどんな感じなの?」

「美月もそう思うよね! 10年ダンジョンで暮らして帰ってくるなんて、改めて考えたらめちゃくちゃだよ」


 美月と安子の話に反応したのは、透からであった。


「正直、兄はかなり変人です。常識もないし、言葉も読めないし、ついでに空気も読めません。この前なんか、町に不審者が出た、なんて学校のメールを受け取った母さんの話を聞いて、玄関で寝ようとしたんですよ。夜の間は任せてください、とか言って」

『うむ、その心がけやよし。ガーゴイルの守護者たる心得を伝授した甲斐があったのう』


「ダンジョンとこっちの世界じゃ全く常識が違うこと、日々実感してますよ……」


 遠い目で語る透。反対するどころか肯定する女王の言葉を聞いて、誰が価値観を教えたのかを改めて認識したのだろう。その場では、深く言及する気になれなかったようだ。


「前々から気になってたのだけど、げっちーをただのトカゲじゃないと見抜いた人は、サジン君が初めてなの。女王様なら彼について何か知ってる? ……あっ、こらげっちー、お店の中だからカバンにいなさい」

『その中にいるのはサラマンダーであろう。サジンは火の精霊の世界で過ごしていた経験があるし、長から加護を受けておる。この程度見抜いて当然よ。それよりわしは、普通の人間とサラマンダーが一緒におる方が気になるがな』


「私は珍しい部類みたいで、魔物を従えるスキルを持っているみたいなの。おかげで色々と助かっているけど、ダンジョンではそうでもないの?」

『そもそも人間がおらんからのう。魔物は魔物同士で助け合って過ごすのが普通よ』


 美月と女王の会話が終わる頃、ちょうど飲み物が届けられた。各々が手をつけながら、次の話題へと移り変わる。


「そういえば、安子先輩と優利先輩ってどんな関係なんですか? 付き合ってたり?」

「わーっ! わーっ! 急に何を言い出すかと思えば! おませさんだねえ透ちゃんは! ただの幼馴染だよ!」


 手をパタパタと振りながら否定する安子。少し尋ねただけで顔が真っ赤になっているのを見た透は、ある程度心情を察したようだ。


「私からしても、大分小さい時から優利君と一緒に居るように見えるわ。探検隊を作った時も一緒だったのよね?」

「美月まで! まあ、そうだよ。優利とは小さい時から仲良しで、たまたま家が近所だったんだよね。私も探検隊になりたくて、意気投合したって感じで」


「幼い頃のことは分からないけど、学生になってからは察せるわ。大方、あなたがいないと探検隊の結成なんてできなかったでしょうね」

「そうかもね。新しく部活を作るようなものだよ。当然、人も私と美月ぐらいしか集まらなかったけど……」


 オレンジジュースをちびちびと飲む安子。その様子を、透が目を輝かせながら見つめていた。自分はともかく、他人の恋愛話には興味津々なお年頃らしい。


「私って力が強いでしょ? だから昔は、お金持ちでいじられやすい優利をいつも守ってたの。まあ、結局私も避けられて友達は美月ぐらいになっちゃったけど」

「中学生になってからは、優利の家柄に興味がある人が寄ってきては、現実味の無い夢を語られて離れられることばかりだったわね」


「そうそう。エリート街道まっしぐら! って感じじゃなくて、自分から茨の道に行くんだもん。お父さんとは違う、なんて言ってばっかりで。けど、私は約束があるから、一緒に探索者になるって決めてるんだ」

「それってそれって、小さな頃にした約束みたいな感じですか!?」


 テーブル越しに姿勢を乗り上げる透。安子は頷きながら、続きを話した。


「ありきたりだけどね。優利のお父さんみたいな立派な探索者に二人でなるって約束したんだ。あんなに凄い人になれるか分からないけど、優利は今でもまっすぐに目指してる。時には自分を曲げて、考えて、みんなを思って行動してくれるんだもん。私も一緒に頑張らないとね」

『愛じゃな』


「え?」

『愛じゃ。それは愛じゃ。わしもよくよく分かるぞ』


 突如首を突っ込んできた女王。突拍子もないことを言い出したかのように見えたが、透はこくこくと頷くのであった。

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