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空洞の秘密

心地の良い空気がする秋の日の朝。地区から車で数十分ほど移動し、郊外へとやってきたサジンたち。案内されるがままに歩き続けると、周辺の地域に馴染むようにできた、小さな洞穴が見えてきた。

 洞穴の周りには大人の探索者が簡易的な拠点を作り、書類をやり取りしたり、何らかの連絡をしている。


「なんか……工事現場みたいだね」

「どんな感想だよ。いやまあ、分からないことはないけど」


 風景を見て率直な感想を話す安子。大人たちがこういった場所で何かを行っているという状況は、どこか閉鎖的な雰囲気を感じるかもしれない。和気あいあいとした様子はなく、真剣そのものだ。

 とはいえ、特別な許可を得た探検隊として、この場、もといダンジョンへと調査へ向かわねばならないのだから、気を引き締める必要があるだろう。


「よし。それじゃあ色々聞いてきますね」

「助かるよ。なんか、緊張しちゃって輪に入りづらいんだよな」


 サジンは優利と感覚が違うのか、大人たちにも物怖じせずに情報収集へ向かう。幸い、既に調査へと向かっていた探索者たちは、学生だからと邪険に扱うことは無かった。


「おっ、例の学生たちか。ただ残念だが、このダンジョンは何もないぞ。本当に広い洞窟ってだけで、主もいないんだ」

「事前の調査、ありがとうございます。でも、このまま帰るわけにはいきませんし、僕たちも様子を見てきますね」


 一応気をつけろよ、と若年の探索者は言った。ぺこりとお辞儀で返したサジンは、あゆみ隊の皆へ考えを共有する。


「何もないとのことですが、正直そんなダンジョンは怪しすぎます。ここの人たちも、きっと何かがあると思って調査に残っているのだと思いますよ」

「主がいないってのも気になるしな。サジンはそこのところどう思うんだ?」


「僕もゆうりと同じ気持ちです。ダンジョンの主、つまりその世界の核となるものが手軽に見つかるのは、そこが小さな世界だからに過ぎません。石の国や火の精霊の世界、魔物たちの街……そういった場所は、何が世界を支えているのか分からないんですよ」

「なあそれ、やばいんじゃないか? 主がいないってつまり、そういう所と繋がったってことじゃ」

「……だから僕たちが呼ばれたんでしょう。何が出来るのかは分かりませんが、調べる必要はありそうです」


 ある意味、この場で最もダンジョンに関する知識を持っているのは、サジンかもしれない。そうでなくとも、他の人間が知らない情報を持っていることは明確だったため、四人は内部へ向かうことに決めた。

 各それぞれの場所で作業をしている探索者たちに会釈をしながら、小さな洞穴へと移動する。入り口はかなり整備されていて、はしごを使って行き来できそうだ。


「念のため僕が一番最初に行きますけど、最初は安全そうですね」


 そう言ったサジンははしごを降りていき、内部へと入っていく。少し高さがあったが、問題なく地面へと降り立つことができた。遺跡というよりどこか自然の面影を感じる風景で、洞窟というのが正しいだろう。

 だが、視界に入る範囲、そしてその先は、先に調査した探索者によってかなり整備されていた。照明があるおかげで暗くもないし、奥へと進むにも魔物の気配がない。一般人が観光に来ても問題ないような場所だ。


「想像よりだいぶ整備されてます。大丈夫ですよ」


 サジンは三人を呼び、本格的な探索を始めることにした。一番”鼻が利く”というサジンを先頭にして、あゆみ隊の面々は進んでいく。

 十数分ほど歩いた範囲では、細長い空洞がずっと続いていて、広い空間に出るようなことは無かった。景色がずっと同じなのは飽きがくるもので、いい加減変化はないかと内心思っていたサジンだったが、行くあての無かった時代はこのようなこと日常茶飯事。環境が変われば人も変わるのだと自覚するのだった。


「む、ここで行き止まりですね。人の手もここまできっちり届いています。何も無かったというのは本当のようです」

「ほんとに何もなかったねぇ。歩いただけなんじゃない?」


 のほほんとした声で話す安子。優利と透も特に何か感じることはなかったようで、調査はここで終わりかと思われた。が、サジンはこう言う。


「ここまでは他の方と同じですが、僕たちに何かできることはないか探しましょう」

「そうは言っても、この中で一番何かできそうなのはお兄ちゃんでしょ。アイデアとかないの?」


 確かにそうですが、と返すサジン。透の意見はいつもまっすぐだな、と思いながら、案を絞り出すことにした。しかし、気配を探ってみても、できるだけ五感を研ぎ澄ましてみても、何も成果は得られない。残すは魔力を探ることだけだが、優利や安子、そして透の魔力が強く、それを押しのけるような大きい反応はなかった。


「サジンくんが唸り始めちゃった。ねえ優利、優利は何か思う所はあった?」

「いや、何も。形としては無造作に作られた洞窟。行き止まりのここだけちょっと広いけど、本当にそれぐらいだもんな」


「ダメかぁ。壁とか壊したら進めたりしないかな」

「天井が崩れたらどうするんだ。そもそも、授業でやってたろ? 昔の実験で壁を掘り進めた結果、壊せない魔力の壁に当たったって。ダンジョンは人じゃ介入できない力で覆われてるんだよ」

「優利ってほんと授業のことよく覚えてるよね……今度もテスト範囲の勉強教えてもらお」


 一瞬壁を壊すような荒い案が浮かんだサジンだったが、優利たちの会話を聞いて諦める。確かに、”世界の壁”という概念はサジンも聞いたことがあった。この魔力の壁のせいでダンジョンとダンジョンを物理的に移動できないと教わったが、女王のように強大な魔力で無理やり空間を移動する方法や、ダンジョン同士を移動する魔法陣を使って行き来する手段があることを知っていた。

 実際、サジンも石の国や魔物の街で、世界間での交流のために設置されたものがあることを覚えている。人間の世界に繋がるものは無かったが、女王や街の住民は人間の世界と極力関わらないように過ごしていたからであって、やろうと思えば向こうから繋げることもできるはず。


「ゆうり、この世界には空間を超えて移動できる魔法陣はありますか」

「なんだそれ。そんなの漫画やアニメじゃないと見かけないぞ。瞬間移動のスキルなんてものも発見例はないし、居たら歴史に残ってるよ」


 漫画やアニメとやらにはあるらしい。サジンはそれらの娯楽を忘れていたので一瞬頭がこんがらがったが、優利の話していた通りであれば、魔法陣は魔物たちにしかない技術と考えて間違いなさそうだ。

 サジンはある説を思いつく。それは、魔物がこちらの世界にやってくる時、わざわざ物理的な移動方法でやってくるのか? というもの。


「別に直接繋げる必要はない。となれば、行き止まりになっていてもおかしくない」


 何か仕掛けがあるはずだと考えたサジンは、床に手を置いて集中する。予想が当たっているならば、何か変化が起こるだろう。

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