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未知のダンジョンへ

 探索者になってどうするのか尋ねられた優利は、一瞬目を見開いた後、口に手をあてて俯いた。サジンはその少しの間を、じっと何も言わず待つ。心のどこかに、自分と同じように、わからないと言ってくれるかもしれないという期待もあった。


「俺は、父さんみたいな凄い探索者になりたいと思ってたんだ。色んなダンジョンを調査して、魔物から人を守る。探索者そのものに憧れがあったのかもしれない。でも、親の七光りみたいな扱いは嫌だったんだ」

「ふふ。なら、それが最優先ですね。凄い探索者になるためなら、必ずしもお父さんの真似をする必要はないんじゃないですか。それに、お父さんの言う事も絶対ではないでしょう」


「どういうことか聞いてもいいか?」

「嫌なら嫌だと言っていいんですよ。特別扱いされるのが嫌で、自分の力だけで探索者として大成したいなら、後でそう言ってしまいましょう。不安だったら、僕も一緒についていきます」


 内心サジンは、自分より将来のことを考えている優利のことを尊敬していた。実際に探検隊を一から結成し、学生のうちから努力を重ねる姿は素晴らしいものだと思っていたのだ。

 だからこそ、優利の頑張りが報われるようになって欲しかった。サジンは話を聞いた結果、源蔵の言う事を聞く気などなく、世界を救うつもりなどさらさら無かった。


「僕は自分が守りたいと感じたものを守ります。わがままかもしれませんが、それを行う力は、優利のお父さん曰く持っているのでしょうね。僕は優利にも、やりたいことをやり抜く強さがあると思っていますよ」

「そうか? ……いや、ありがとう」


 優利の声が少し穏やかになった気がしたサジンは、わずかにはにかんだ。やりたいことをやり抜く強さがあると思っているのは本心だが、どのような選択をするかは優利次第だ。そう考えながら、サジンは身体を窓の方に向け、景色を眺め始めた。空の色が変わるように、優利の考えもいいように変わってほしいと願うサジンであった。



 ──



 源蔵の仕事場に行ってから、数日が経った夕方。空き教室にて、あゆみ隊の隊員が全員集合していた。実家に居たサジンは集合の連絡を受け、透の下校を待ってから合流したのだった。

 連も含めて集まったのを確認した優利は、早速伝えたい内容を話し始めた。


「みんな、聞いてくれ。父さんや地区の協力で、あゆみ隊が特別な探検隊として、優先的にダンジョンへ向かうことができるようになった」

「えっ!? すごいじゃん! でもいいの? お父さんの協力って言ってるけど」


「俺が決めた。決まったことを曲げるのも悪いし、今回は受けることにしたんだ」


 サジンは優利の選択を追求することなく、淡々と頷くだけに留まった。特別な探検隊ということを補足するように、連が解説をしてくれる。


「一応、決める時に俺も関わったよ。正直前例があまりないからなんとも言えなかったけど、今は学生の手も借りたい状況なんだよね」


 情報に疎かったサジンは、何があったのかを質問した。


「単純に、発生するダンジョンの数が多いんだよ。こんなこと滅多にないし、どうして今こうなったのかも不明だ。ただ、現状分かっているのは、デーモンが関わっていること、かな」

「またあの魔物ですか。碌なことをしませんね」


「魔物の強さは様々だけど、主に悪魔系の魔物がよく確認されてる。これが何を表すのか、サジン君は心当たりがあったりする?」

「確信はありませんが、女王から聞いた話が関係しているかもしれません」


 女王が言っていた、デーモンのいる国が別の国を侵略しようとしていること、そのために人間の世界を利用している可能性があること。そして、明確に不幸というエネルギーを運んでいたデーモンがいたことを話す。サジンは自分で話していて、バラバラになっていた破片が、1つの形を成していくように感じていた。


「繋げようとしているのかもね。ダンジョンと人間の世界を」

「もしそんなことになっちゃったら、大変なことになりますよ。関わるはずのない世界が交わったら、どうなるか分かりません」


 連は小さく呟いた。源蔵さんはこれを既に読んでいたのか、と。


「ただ君たちに経験を積ませるためって意図じゃなさそうだね。こちらと繋げることに成功したダンジョンへ、直接向かえるようにする必要があるのかもしれない。うん、一箇所怪しいダンジョンがあるし、明日の朝にはそこに行ってもらおうか」

「朝ですか!? 俺たち授業とかありますけど……」


「特別っていうのはそういうことだよ。俺はこっちを守らないといけないから同行できないし、透さんも実力があるとはいえ小学生6年生だ、ついていくかはよく考えてほしい。三人は朝から頑張れ!」

「あ、あたしも行きます! こんな時にお留守番なんて嫌ですから!」


 透もついていく気のようだが、サジンも心配に思っていた。そもそも、ダンジョンのより奥深く、向こう側の世界で戦っていくのに、学生三人では少々心もとない。

 けれども、源蔵の言う通り、鍵は自分にあるのだろう、というのも感じていた。自分の力を増やさずとも、安子や透を強くできれば、現地の魔物と戦っていくことも可能なのかもしれない。

 あれだけ元の世界に帰りたいと思っていたのに、今度は自分から向こうへ行くことになるなんて、と、苦い表情を見せるサジン。


「ま、第一に無理はしないこと! とにかく何かあったり危ないと思ったら撤退ね。現地には大人もいるから、頼れる時は頼りなさい。よく話し合って、そもそも行きたくなかったら連絡してちょうだい」


 これからどうするのかが明白になった以上、隊員の全員が緊張感を抱いていることは、部屋の雰囲気からも察することができた。


「とりあえず……持ち歩くのに苦労しない分の水と食べ物が必要ですね」

「えっ!? そこからなの!?」


 サジンの言葉に驚く安子。しかし、そこまで深く探索する前に、一度帰還してほしいと連は話す。泊まり込みで、何日も調査するわけではないようだ。


「地区に集合してもらった後は、探索者の人が車に乗せていってくれるから、移動の面は心配しないで。問題は帰って来られるかどうかだからね。奥に進みすぎないように」

「確かに、もし世界が繋がってしまったら、ダンジョンの主がどうなるのか分かりません。簡単に帰っては来れないかも」


「その通り。現状一箇所を除いた全てのダンジョンは主が確認されてるけど、そこだけ終わりが見えないんだ。攻略ではなく、あくまで調査の一員として探索すること!」


 サジンは一人息を呑んだ。もし帰ってこられなかった場合、最悪命が尽きれば元の場所に戻ることができるのだが、自分だけは戻れないかもしれない。とにかく、安全に、無事に戻ることを最優先しようと考える。

 その後は何時集合するか、何を持ち込むべきか、ダンジョンを調査する際の心得をベテランの連と話し合いながら、解散することとなった。


 未知のダンジョンに挑むのは、学生2人に天才少女、そしてダンジョン少年の4名だ。源蔵の言う通り、本当に世界と関わる出来事になるのか、これから判明するだろう。

 肝心のサジンは、ダンジョンと人間の世界が繋がることによりどうなるかを考え、密かに不安を募らせるのだった。

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