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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
ダンジョン少年の帰還
3/63

探検隊の始まり

 サジンは目がを覚ますと、まず地面の感覚に違和感を覚えた。土でも石でもない。恐らく木で出来ているということまでは、予想することができた。閉じ込められているように見えたが、完全に封鎖されているわけではないようだ。

 外は日が出てきたぐらいの明るさで、最後に見た風景から、時刻が変わっていることを理解した。


(久しぶりにぐっすり眠れたな)


 極力身の安全を確保してから眠っていたサジンだったが、優利の家で眠りについてから、それらしい敵意を向けられることなく過ごすことができた。その時、サジンは直近の記憶を思い出す。人の家に寝泊まりさせてもらっていたことを、ようやく思い出した。

 それでも警戒心は残っていたようで、窓から周囲を確認することにした。サジンが日本に帰ってきた時に居た庭も見え、早くも懐かしい気持ちになった。


(上から見るとこんな感じか。……ん?)


 自分がやってきたところよく見ると、わずかに空間が歪んでいるように見える。サジンがこちらに来た際のひずみがそのままなのか、はたまた運悪くつながってしまったのか。それを知る由もないものの、サジンの警戒心は高まっていく。

 きっかけがあると、向こうから何かが来るかもしれない。サジンはそう思い、優利に知らせることを決意する。


 ひとまず部屋を出ないことには始まらない。サジンがドアを開いて廊下に出ると、昨晩嗅いだような匂いがふわりと漂っていることに気がついた。単純にお手伝いの人たちが朝食の準備をしているだけなのだが、サジンにとってそれは、()()()()になると判断するに十分だった。


「ゆうり! じいや! どこですか! 庭がダンジョンと繋がっています!」


 朝から人の家で騒ぐその様子は決してマナーがなっているとは言えないが、サジンからしてそれどころでは無かった。最大限の備えをするべきだと、一刻も早く伝えたかったのだ。


「朝からどうしたんだ? おはようサジン」

「僕が来た場所がまだダンジョンと繋がっています! なんとかしないと巣が危ないです!」


「そんなのどうして分かるんだよ? まあ、本当だったらまずいな。早く学校に連絡しないと」

「庭に誰かいるかも知れません。僕が見てきます」


 早歩きで廊下を進むサジンに合わせ、優利が隣を歩く。そして、いざ行かんとするのを引き止めるようにこう言った。


「確かにじいやが庭の手入れをしてる時間だ。でも、ダンジョンから魔物が出てくるなんてそんな──」

「ゆうり。しあわせはいつ無くなるか分からないんです」


 優利が止めるのを聞かずに、サジンはせかせかと歩いていく。しかしその方向は、玄関ではなくサジンが元いた客室だった。ドアを開け、部屋に戻ったサジンを不思議そうに見つめる優利。その直後、まさかと顔色を変えた彼だったが、時すでに遅し。

 窓を開けたサジンが、するりと身を乗り出した! 一瞬で地面まで落ちていくが、まるで動物のようにすんなりと着地する。外なら我慢する必要もないと言わんばかりのスピードで、庭へと駆け出していくのだった。



 庭に一人の執事がいた。彼は優利からじいやと呼ばれ親しまれていて、幼き頃からその面倒を見ていた。じいやは早朝に一人で庭の手入れをすることを密かな楽しみとしていて、植物の成長や移り変わりを優利の存在と重ね、慈しんだ。

 とあるきっかけで優利が新しい友人を連れてきたのを見て、わずかに風向きが変わるのを感じたのか、その出来事を植物たちに語りかけている。


「ふふ、坊ちゃまのご友人は不思議な方ばかりですな。……おや」


 視線を感じて振り返ったじいや。そこに居たのは、人とは言えないような客だった。小柄な体格に、緑の体色に発達した鼻。粗雑な棍棒を片手に老人を見つめている。それが魔物であると気づいた時には、既にダンジョンからいくらかの個体が湧き出していた。


「ひっ」


 声にもならない声が漏れ出した時、魔物のうち一体がにたりと笑ったように見えた。一瞬でも怯えたそぶりをしたせいで、相手を格下だと認識したのだ。そろりと距離を詰めたかと思うと、手にした棍棒を一気に振り下ろす。

 だが、その凶器が身体に触れることは無かった。


「ここには沢山のしあわせがありますね」


 何が起こったか? 弾丸の如く飛び込んできた少年が、片足で魔物を数メートルは蹴り飛ばした。しかし、それを冷静に目撃できた者は、少年本人以外にいない。


「ゆうりとじいやたちのしあわせは、僕が守ります」


 魔物との間に割って入るようにサジンが立った。一撃を受けた魔物は耐えきれず、身体が徐々に崩れていっている。


「サジン! じいや! まさか本当に魔物が出てくるなんて──」

「ゴブリンです。奴らが調子に乗るので、怯えたり背中を向けたりしないでください」


 息を切らしながら優利も合流した。先程まで命の危機を味わった人間に「怯えるな」と無茶振りをするサジンだったが、彼なりに精一杯アドバイスしたつもりであった。


「魔物ってダンジョンの武器じゃないと倒せないはずだよな……何であいつは消えかかってるんだ?」

「知りません。ゆうり、じいやをお願いします」


 一歩、また一歩とサジンが進むたび、ゴブリンの群れは後退する。五、六匹ほどの集団が一人の人間に気圧されるその風景は、傍から見てもおかしなものだった。

 ゴブリンもしびれを切らしたのか、群れのうち一匹がサジンに向けて飛びかかる。しかし、サジンの足がしなやかな鞭のように動き、群れを巻き込むようにして吹き飛ばす。鈍い音が響いた。


「ギャッ」


 流石に数匹を失ってはまずいと思ったのか、ゴブリンの群れが次元のひずみへ向けて帰っていく。サジンはその様子を見て追い打ちをかけることはなかったが、最後の一匹がダンジョンに逃げていくまで、鋭い眼光を浴びせ続けていた。


「ゆうり、ゴブリンはこの家を巣だと思っているはずです。このままだとご飯を作る度に嗅ぎつけて襲ってきますよ」

「ああ、なんとかしないと。とりあえず学校に連絡だな……」


「そこにはなにかあるんですか?」

「探索者を派遣してもらえるんだよ。俺も一応そうだけど、学生の探索者は三人以上じゃないとダンジョンに入れない決まりでさ」


 スマホを取り出し通話をしようとする優利。見たことない機械に怪訝な表情を浮かべるサジンだったが、話している内容からして、誰かを呼ぼうとしていることは分かったようだ。


「いや待て、勝手にダンジョンと繋げてサジンを呼んだのがバレたらまずいんじゃないか?」


 確かに学校へ連絡すれば、ダンジョンの攻略は簡単に終わるだろう。ただ、サジンと出会ったことを説明したり、そもそもダンジョンと繋がる要因を作ったことが明るみに出ることは、できるだけ避けたかったようだ。


「なあサジン、俺のお願いを聞いてくれ」

「はい? なんですか?」


「今から安子を呼んでここを攻略する。三人なら学校も文句は無いはずだ」

「こうりゃく? なんですかそれ?」


 一度探検隊の誘いは断ったサジンだったが、今度のお願いは聞いてくれるかもしれない。幸せを失ったことがある彼にとって、この問題は放っておけるものではないのだった。

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