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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
透き通る希望のいずみ
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何のため

「すまない、本当にすまない……子供たちにこんな思いをさせてしまうなんて」

「悪いのはデーモンの方でしょう。気に病む必要はありませんよ」


 お父さんは悪くない、そう言葉にするサジンだったが、実際は相当危なかったと思っていた。透が凄まじい力を持っていたからどうにかなったとはいえ、あのデーモンはかなりの強敵。サジン一人では、危険を犯して戦うしかなかったに違いない。


「最近はこんなハグしてくれなかったのに。昔みたいに戻ってよかったぁ」

「ごめんな、透。父さんはもうダンジョンに行く必要もないんだ、大丈夫だよ」


 そう言った父は二人から手を離す。その後、サジンは自分の考えを述べた。


「下級のデーモンを倒したことが上位の存在に知られた以上、今回も連絡が行ったかもしれません。このことは、探索者地区の人にも共有しておこうと思います。何かあったら、すぐ地区に連絡してくださいね」

「ああ。気をつけるよ」


 そうして、和泉家は長い一日を終えた。順番にお風呂へ入った後、各それぞれの部屋に戻って夜を過ごす。途中で服がないとトラブルがあったが、すこし大きい父の服を借りることにした。優利から借りた服は、洗って返そうと母親は言った。


 自分の部屋に戻ったサジンは、試しにベッドへ横たわってみる。サイズは小さく、眠るには少し窮屈だったので、結局床で眠ることにした。今日一日を振り返りつつ、ようやく家族のいる場所へ帰ってきたのだと、改めて実感する。

 新しい生活に期待して眠る──前に、サジンは少し気になることがあった。カバンから石像を取り出し、小声で声をかける。


「女王、起きてますか。そっちじゃ夜も朝もありませんが」


 すぐに返事はこなかったが、少ししてから声が帰ってきた。


『なんじゃサジン。珍しいの、そっちから連絡してくるとは。寂しくなったのか?』

「違いますよ。というか今は寂しくないです。……そうじゃなくて、デーモンの話がしたくて」


 サジンを襲った一連の件を話し、女王からの意見を求めた。彼女も問題視していたのか、考えを話してくれる。


『人の世界に手を出すこと、魔力を必要としていること。これまではなかったことじゃが、ある程度考えはつく。わしは賢いからな』

「僕はそっちの世界を彷徨っていただけで、事情に詳しいわけじゃないんです。教えてくれませんか」


『しょうがないのう。恐らくじゃが、デーモンたちのいる国がわしらのような国を侵略したいのじゃろう。そのために、人間の世界を利用しているとわしは見ておる』

「別のダンジョンを自分のものにしようと? どうしてそんな……」

『領域を広めるのに理由なんぞない。だがまあ、人間の世界はあくまでも利用しているだけで、そっちまで侵略しようとは思っておらんじゃろ。面倒ごとが多すぎるし、何より世界間を移動するのが難しい』


 できるのであれば、人間の世界は魔物たちに攻撃されてもおかしくはないだろう。しかし、連の言っていたことが正しければ、歴史上のうちでも女王がちょっかいをかけたぐらいで、高等な魔物が侵略をした記録はない。


『まあ案外そっちの世界に馴染んでる奴もおるかもしれんの。話はそれだけか?』

「いえ、あと1つ」


 サジンは女王を引き止めると、内に秘めていた悩みを相談し始める。


「こっちの世界に来る前は本当に戦ってばかりで、ずっと苦労したことを今でも覚えています。家族が見つかったら、平和に、戦わない元の暮らしができるのかなと思ってたんですが、ずっと戦ってばかりな気がして」

『なんじゃ、嫌になったのか?』


「正直嫌ですよ。戦いなんてずっと好きじゃありません。そうしないと生きていけなかったから、頑張ってきただけです」

『みっともないことを言いおって。そんなに嫌なら逃げ出せばよかろう』


 その言葉を聞いたサジンは少し考える。探索者であることをやめ、魔物と戦うことや、ダンジョンを探検することから離れた日々。


「それはそれで違う気がします。……もし僕が逃げても、戦いからは逃れられない気がして」

『よく分かっとるのう。お前が逃げ出すような性格なら、家族のところへ帰るなんて言い出さんじゃろうしな』


「それに、家族まで巻き込みたくないんです。さっきは守れましたが、また何かが襲ってくるかもしれません」

『そりゃわしじゃなくてそっちの家族に相談するしかないじゃろ。わしに言われてものう』


 そうなんですけど、と暗い表情を見せるサジン。しかし、1つの考えが浮かぶことで、少し気持ちが楽になった。


「ふふ。こうして悩むことなんて、昔は無かったので新鮮です。迷うことなんてなく、ただただ必死だったので」

『自分の意思で考える余裕ができたからこそというものじゃ。……のう、わしはあれか? ただ相談に乗らされてるだけか?』


「実質息子じゃー、なんて言うぐらいだったら、これぐらいの器量を見せてくださいよ。僕は寝ます。おやすみなさい」

『かーっ、調子に乗りおって。こうして話すのも楽ではないのじゃ、雑談はたまににするんじゃぞ』


 たまにならいいのか、と思うサジンであった。一分一秒を争うような問題を抱えているわけではないと自分に言い聞かせ、目を閉じ明日が訪れるのを待つ。不思議なことに、寝付くまでに時間はかからなかった。

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