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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
透き通る希望のいずみ
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悪魔の来訪

 外にいる何かの独特な気配は、サジンの記憶に新しいものだった。重圧的なものになっているが、父に取り憑いていたデーモンの気配と共通する点があある。


「すみません、ちょっと仰っている意味が……」

「おや、こちらでは”いんたーほん”とやらを押せば、目的の人物が現れるのでは? 和泉純一をこちらに引き渡していただきたいのです」


 独特な気配に人とはどこかズレた返答。サジンが外にいる生物は魔物であると確信した時、透も即座に動き出していた。


「お父さんは出てっちゃダメ! お母さん、今すぐ切って!」


 透がそう叫ぶと、リビングに置いてあったランドセルを背負い、玄関へと駆けていく。それを見たサジンは、心配して後を追う。すぐさま玄関へと駆けつけると、サジンが前へと出た。


「危険があるかもしれないので、僕がドアを開けます」

「あたしが開けた方が安全でしょ? お兄ちゃんは下がってて」

「もう一度言います。僕が開けます」


 声に覇気を感じたのか、透は押し黙った。ぎこちない動作で鍵をあけ、がちゃりと扉を開くサジン。外に居たのは、細身で身長の高い、気味の悪い風貌をしたスーツの男であった。サジンは恐れず外に出ていき、それに透が続いていく。


「おや、これは和泉家の娘さんでしょうか。それとあなたは、サジンの方ですね。私の部下がお世話になりました」

「ご丁寧にどうも。お話は外で伺いますよ」


 男の声に対し、淡々と返すサジン。すると、向こうの方から事情を説明し始めた。


「我々デーモンは、人間の世界で隠れて不幸を回収していたのです。私の部下は和泉純一から大量の不幸をいただいていて、それはもう素晴らしい仕事をしてくれていたのですが、連絡が取れなくなってしまいまして」

「デーモンが不幸を魔力に変換できることは知っています。どうしてこちらの世界にまで手を出してるんですか。魔物たちから貰えば十分でしょう」


「ふふふ、分かりませんか。人間の不幸は、魔物の不幸よりも段違いに質がいい。どうして今まで手を出さなかったのかと後悔したほどです。我々としても、大量の魔力を必要としていましてね」

「何が目的かは知りませんが、帰ってください。他の世界に干渉せず、自分たちで魔力を工面すればいいじゃないですか」


 サジンの言葉を聞いた男は、口を手で抑えて笑いだした。しかし、相手がどんな態度を取ろうと、サジンは全く動揺しない。ただ、後ろにいた透は、二人の圧を感じすくんでしまっていた。


「サジン、あなたはここを通すつもりが無さそうですね。では、すこし少し計画を変更しましょう。本来であればこちらの世界で騒ぎを起こすのはご法度。ですが、今は一時的に私の魔力で覆っています。範囲は狭いですが、これで外から認識できません」

「……! ダンジョンがあるように感じたのはそのせいですか」


「ご明察ですね。人の不幸を媒介にすれば、この程度造作もありませんよ」


 実質的に閉じ込められたことを悟ったサジンは、透をかばうようにして位置を変えた。すると、スーツを来たデーモンはにたりと笑い、姿を変えていく。背には赤い翼が生え、皮膚が緑色に変わりながら、巨大になっていく。スーツは引きちぎれ、サジンが二人分はあろうかと思われる巨躯へと変貌していった。大きな角が生え、黒く長い尻尾が伸びてきた時、デーモンはサジンの後ろに居る透を見て言った。


「親しみのある者の死は、莫大な不幸を生みます。和泉家の娘が死ねば、一体どれだけの不幸が手に入るでしょうね?」


 筋骨隆々としたデーモンがふわりと宙に浮かび上がった。攻撃が来る。サジンはデーモンの顔からして、透を狙っていると予想する。体格では不利、単純な力比べで敵うかは分からない。が、なんとしてでも透を守らなければいけないと、全身に力を込める。

 空中からの急襲。全体重を乗せた叩きつけが透に襲いかかる──が、サジンの作り出した巨大な石の盾が両手を防ぐ。衝撃で凄まじい音が鳴り、石の盾は粉々に砕け散った。身体が潰れるかと冷や汗をかいたサジンだったが、まだまだ戦えるようだ。


「受け止めましたか……娘より厄介な存在が居るとは想定外でした」


「お兄ちゃん大丈夫!? あ、あたしがしっかりしないと……!」

「とおるは無理しないで。僕がどうにかします」


 そうは言ったものの、このままでは透を守ることが精一杯であった。デーモンは空中で一定の距離をとっていて、こちらが攻撃するには透から離れなければならない。サジンと違って彼女は防御手段を持っているか不明であったので、攻撃に転ずることができずにいた。


「まあ、娘を仕留めるより手っ取り早い方法があります」


 デーモンの視線は和泉家の家に向いた。瞬間、サジンはぞっとする。石の盾を安々と砕いたあの威力なら、家屋を破壊することもわけない。守るべきものがまた増えた。どうするか、この一瞬で考えなくてはならない。

 勢いをつけた悪魔の拳が家屋へと向けられる。サジンは全身に力を込め、後先を考えずデーモンの身体へと飛び上がる。手には石の剣が握られていた。


「──ふっ!」

「おやおや。そんななまくらでは私の身体は切れませんよ」


 物理的に押しのけることはできたが、言葉通り身体を切り裂くことはできなかった。そして、飛び上がったサジンの身体は宙に浮いてしまっている。間違いなく攻撃が来る。そう確信すると、全身に鳥肌が立つ。


(避ければ家、避けなかったら僕……いや、まさか!)


 サジンの悪い予感が当たった。三択の対象のうち、透という選択がされたことに気がついたが、自分自身で守るのは間に合わない。今サジンの作った石の壁だと、容易く破壊されてしまうことだろう。


(奥の手だっ、間に合え!)


 両手を組んだデーモンが、それを思い切り振り下ろす。透も道路側へ飛び退こうとするが、間に合いそうには無かった。が、透を守るように路面から石の壁が伸びていく。

 壁ごと壊そうとかまわず攻撃を続けたデーモンだったが、その拳が透に届くことはなかった。あろうことか、先程は容易く破壊できた石に阻まれてしまったのだ。


「硬度が増している? なぜだ?」


「がはっ……! はぁ、ぐうぅ」


 まともな姿勢で着地できず、地面に叩きつけられるサジン。息は絶え絶えで、とてもではないが万全の状態ではない。立つこともできないまま、走馬灯のように一時の記憶が再生されるのだった。

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