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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
透き通る希望のいずみ
23/63

誰のせい

「しばらくは平和な生活だったのですが、ある魔物が街を襲いました。魔物たちが、”カーフ・ロック”と呼ぶ巨大な鳥です。僕も様々な魔物と共に街を守るため戦いましたが、結局敵いませんでした」

『わしはサジンと刺し違えたと聞いたがのう。カーフロックはあらゆる者を襲う恐ろしき魔物、わしらの世界にしか生息していない生きた災害じゃ。こちらの世界では伝承でしか伝わっとらんじゃろ。』


「元々僕は元の世界に帰るつもりだったので、一生を過ごすつもりは無かったですよ。その後、僕はまた様々なダンジョンを渡り歩きました。もう一度石の国に寄ったのもその後でしたね」

『うむ。今度は自分から鍛えて欲しいと言うもんじゃから、皆喜んで相手をしたのう。わしもちょっと張り切り過ぎてうっかりしそうになったが』


 うっかりが洒落にならないんですよ、と白けた視線を向けるサジン。


『わしらはもう実質親子のようなものじゃった。イフリートもラミアも保護者ヅラしておるが、ダンジョンで一番サジンを育てたのはわしじゃ!』

「また始まりました。ごめんなさい、気にしないでください」


「いえ、本当に息子がお世話になったようで。ありがとうございます、ありがとうございます」

『そ、そこまで頭を下げられると困るのう。まあ? 本当の母親はそなたのようじゃし? そこは譲ってやってもよいが?』


 母親の真摯な態度にたじたじする女王。あまりこういった人間と関わってこなかったようで、自分の意見を言い張るようなことはしなかった。


『じゃあまあうっかりサジンを石にして粉砕したのは許されたようなもんじゃろ。うんうん』

「生き返るからって雑に扱い過ぎなんですよ! そういうところが苦手なんです。……女王に殺されてから、もう一度放浪の旅が始まりました。そして、なぜかこちらの世界に呼ばれて、ゆうりと出会ったんです」


 この後のお話は、サジンが簡単にまとめて話すこととなった。何故かこちらの世界に帰ることができて、家族と再会することができた。サジンの目的は達成され、サジンが望むのなら、平和な暮らしが続いていくことだろう。


「本当に沢山のことを経験してきたのね。生きて帰ってきてくれて……これで純一さんも気を取り直してくれたら」

「その人、僕のお父さんのことですか? デーモンに取り憑かれてたので、やっつけておきましたよ」


「……? 取り憑かれて?」

『これサジン、伝わっておらぬぞ。まあ、おかしくなっていたのは戻っとるじゃろ』


 状況が飲み込めていないようだったので、サジンはひとまず、操っていたであろう魔物を倒しておいたと改めて説明した。サジンの母はしばらく黙ると、ゆっくり言葉を綴り始める。


「翔が最後にいた場所にダンジョンがあった、と聞いてから、純一さんは自分でダンジョンを探せるように、探索者になったの。でも、5年ぐらい前かしら……その時から少し様子が変わってしまって」

「取り憑かれたのでしょうね」


「いつしか翔を探すことより、ダンジョンを攻略することを優先するようになって、家族にも強くあたるようになって……でも、それが魔物の仕業だというなら納得だわ。そんなことをする人じゃなかったもの」


 それから、しばらくの間、両者は沈黙した。サジンも話したいこと、伝えたいことが色々とあったが、緊張してか、うまく言い出すことができなかった。それは向こう側も同じなようで、気まずい雰囲気が続く。

 女王も喋ることをやめてしまったので、サジンは完全に何から話せばいいかわからなくなった。迷いに迷って、なんとか話題を持ち出す。


「あの、僕はどこにいればいいですか」

「そ、そうね。リビングにいてもいいけれど、翔の部屋に行ってみると、色々思い出せるんじゃないかしら。案内するわね」


 サジンは母親に連れられ、自分の部屋だった場所へと案内される。今でこそ階段を簡単に登れるが、昔の自分は苦労しながら行き来していたのだろうか。そんなことを考えながら、サジンはドアの前へとたどり着く。

 ”かけるのへや”とプレートが掛けられているが、サジンはその文字を読むことができなかった。しかし、それを見ると、どことなく嬉しくなるのを感じた。


 ドアを開けると、小さなベッドに、低い高さに調節された机が目に入った。汚れや埃が被っていることもなく、綺麗に掃除されていた。


「ずっと掃除してくれていたんですか」

「ええ。必ず戻ってくるって信じてたから」


 サジンはその言葉を聞いて、この人は自分の母親なんだ、という認識が強くなった。自分と同じ何かを感じ取ったのだ。根拠の無い希望。それを、まっすぐ抱き続けることのできる精神は、この人から受け継いだものなのだと、なんとなく理解した。

 しばらくここに居ようと部屋に入った時、インターホンの音が屋内に響いた。サジンは慣れない音を聞いて何があったのかと周囲を見たが、特段危険はないと判断すると、肩の力を抜いた。


「今日は早い日だったのね。翔、あなたの妹よ」

「妹?」


 玄関へ向かう母親についていくサジン。妹という概念は理解しているが、自分にそんなものがいるだなんて想像ができず、首をかしげながら歩いていた。

 母親が鍵を開けると、勢いよく扉が開かれる。そこには、サジンより一回り小さな女の子が立っていた。


「ただいまー! ってその人だれ!?」

(とおる)、おかえりなさい。翔お兄ちゃんが帰ってきたの!」


 家族との感動の再会だが、サジンの妹、(とおる)の表情は硬かった。明らかな警戒心があり、サジンを睨んでいるほど。


「ほんとに? お母さん騙されてない? サギってやつじゃないの?」

「お母さんの子どもだっていうことは証明されてるから、大丈夫よ。ごめんね翔、この子もずっと頑張ってたの」


 それを言われたサジンは、こくこくと頷くことしかできなかった。玄関にあがって靴を脱いだ後も、まだまだ睨まれている。露骨に背中を向けようとしないその姿は、本能的にサジンを警戒しているようだった。


「ふん、今更帰ってきたって知らないんだから。あたしがお父さんとお母さんを守るもの」

「透、そんな言い方しなくても……」


「大体、お兄ちゃんがいなくなったせいでお父さんがおかしくなったんだよ! お母さんもずっとしょんぼりしてて……」


 妹からの印象は、最悪からのスタートを切った。サジンは怒ることも悲しむこともせず、ただただ苦い顔を浮かべることしかできないのだった。

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