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アード・サジン! ダンジョン少年の帰還  作者: 根っっ子
透き通る希望のいずみ
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見え見えの罠

 今度のダンジョンは、端的に遺跡のような様をしていた。人工的な面影を見せながら、誰が作り上げたのか、何の目的があったのかなどは、全く汲み取れそうにない。ただ、石らしきなにかで組み立てられた建物だった。

 屋内であるため日光などはないが、なんと燭台のようなものが点々と並べられているため、暗さの心配をする必要はなさそうだ。危険度が低いというのは、こういう面でも意味していたのかもしれない。


 穴に落ちた先は廊下のような長い一本道になっていたため、前に進むしか無かった。そうなった場合、ダンジョンの攻略よりも、不安な要素が一点現れる。


「ダンジョンは、私が」


 スーツ姿の男だ。三人を追ってダンジョンに入ってきたうえに、言葉通りなら、ここを攻略してしまおうとしている。あまりに意図が読めないためか、優利が苦言を呈した。


「あいつ、何が目的なんだ? ぶつぶつ何か言ってて怖いんだけど」

「通報した方がいいタイプの不審者だよね。……あっ、そういえばだけど」


 すたすたと早歩きで廊下を移動しながら、安子が思い出したように語る。


「狂ったようにダンジョン攻略に熱中するスーツの男! クラスメイトが怖い話で話題にしてたかも」

「はあ!? 俺たちはそんな妖怪みたいなのにたまたま出くわして追いかけられてるのか!? 運悪すぎだろ!」


 歩きながら安子が話すが、それを聞くと、あながち運が悪いという話ではなさそうだった。その男は仕事を完璧にこなすが、ある地域にダンジョンが発生したとなると顔色を変え、攻略しに向かうらしい。噂話に疎い優利は知らなかったが、女子からの情報網がある安子は、このことを聞いたことがあったのだ。


「せっかくの実習がめちゃくちゃにされてたまるか! 急いで攻略するぞ!」

「がってんしょうち!」


 安子は元気よく反応するが、サジンは軽く返事をする程度だった。その理由は、スーツの男から発せられている微かな魔力にある。人のものとかけ離れているため、人間か、そうでないかの判別も難しくあった。


(新田さんが僕を初めて見た時もこんな感じだったのかな。ともかく、変なことされないといいけど)


 サジンは警戒を緩めることなく、前を進む二人についていくのだった。

 廊下の突き当りまで進んだ三人は、古ぼけた扉を開き、奥の部屋へと進んでいく。


 部屋の中は広々としていた。廊下と天井の高さが違ったため、よけいに広く感じさせられるが、生物の姿は見えない。というより、サジンはかなり努力して気配を探っているが、魔物がいるような場所に思えなかった。


「静かです。ここも、元々大きなダンジョンから切り離された場所なんでしょうか」

「だったらなんにも居ないのは納得だな。遺跡に住むなんて何食って生活すればいいんだか」


 このダンジョンを形成している主は、前回と同様に、生き物ではない可能性がある。そう考えた優利は、明らかな罠や人工物がないか観察しつつ、奥に進んでいくことを優先することにしたようだ。

 その後も、廊下を抜けては大きな部屋があり、廊下を抜けては部屋がありといった具合で、一本道のようなダンジョンをどんどん進んでいく。部屋には入口と出口の2つしかなく、廊下も分かれ道がなくまっすぐ続いているだけだった。


 何度かその繰り返しを体験した後、ようやく廊下の突き当りを発見した三人。生き物がいなかったことを疑問に思いつつも、確認のため奥へと向かっていく。すると、明らかに場違いに見える、荘厳な宝箱が置いてあった。


「まあ、罠だなこれは」

「だろうね」


 見ればわかる、あからさまなトラップ。サジンは魔物の気配が感じられないと言うが、それは箱に擬態しているからだろう、と優利は話す。


「こういうのはね、開けようとすると襲ってくるのがお約束なんだよ」

「……僕も何か役立つものがないか見てみようと思った時、襲われたことがあります」


 全員が箱をどうするか考えていると、背後からコツコツと足音がした。同じくして、スーツの男も最奥部へとたどり着く。宝箱と、不気味な男に挟まれた三人は、どうするべきか悩んでいた。


「目立ったものは無かったし、この箱が十中八九ダンジョンの主だと思って良い。後から来た別の探索者に攻略されたらどう言われるか分からないし、さっさと俺たちで箱を壊すぞ!」


「ダンジョンは、私が」


 スーツの男はまだ同じことを言い続けていた。雰囲気でも、見た目でも分かる。この男、正気ではない。

 サジンはスーツの男を観察していると、相手の影がひとりでに動いた。影の手に薄暗い剣のようなものが握られたかと思うと、スーツの男も同じ武器を手にしていた。人間業ではない。そして、箱か他の探索者に対してかは不明だが、敵意がある。


「ゆうり、人に取り憑く魔物について聞いたことがありますか。あの人どうも様子が変です」

「魔力を持ったきつねとか幽霊とかが取り憑く事例があるにはあるが、どうするんだ? 俺たち霊媒師でもなんでもないぞ?」


「あこ! 箱をいじるのはちょっと待ってください。このままダンジョンを攻略すると、この人を野ざらしにすることになります!」

「でもでも、早く攻略しないと成績が……」


 成績と人助け、どちらが大切なのか。迷わせる時間を与えず、優利が二人にこう言った。


「どっちもやってろうじゃないか! サジン、当然策はあるんだよな?」

「もちろんです。僕がゆうりの治療魔法を思いっきり強化して、あの人に取り憑いた何かを吹き飛ばします。極力急いでやっつけるので、その隙にダンジョンの主を頼みますよ」


 その言葉を聞いて、から三人は一気に動きだす。優利とサジンは手をつなぎ、安子は箱に触れようとする。真っ先に反応を見せたのは、箱の方だった。

 ガタガタと大きく音を立て、宝箱が安子に向けて転がってくる。てっきり口を開き噛み付いてくると予想していた安子は面食らうが、冷静に下半身を強化して壁に蹴り飛ばす。


「やっぱりミミックだった! でも口が開かないみたいだよ?」

「さっき僕が開け口を石にしておきました。簡単には開きませんよ」

「ひえっ、さらっと怖いことするね」


 昔、サジンが女王に口答えした際よくされていたことを、今度は魔物に向けてすることになった。これでひとまずミミックの方は安心だと判断し、優利の方へ力を集中させる。


「ゆうり、彼を思いっきり元気にするイメージです。身体から追い出してください」

「どういう理屈かは知らんが、やってみるさ」


 手のひらをスーツの男へ向け、思い切り治療の力を放出する優利。普段とは段違いの出力に驚いた顔を見せつつ、できる限りの力をぶつける。すると、効果はてきめんだったようで、相手が苦しみ始めた。


「ぐうぅっ、ぎゃあああっ! なんだこの忌々しい力は!」


 ばたり、とスーツの男が倒れ、一匹の魔物が現れる。あゆみ隊の実習は、ここからが本番となるのだった。

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