表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/63

贋作の自分

 大きくなったげっちーがサジンの元に向かい、身体をすりすりとすり合わせている。助けてくれたことを感謝しているようだったが、火の精霊というだけあって皮膚は燃えるように熱く、サジンは苦笑いしながら撫でることに留まった。


「助けてくれてありがとう。あのままだと、げっちーも危なかったかもしれないから」

「石になってなくてよかったよ! 流石はあゆみ隊元メンバーだね! 今からでも戻ってこない?」


「うるさい。突然石像が出てきて、あげく襲ってきた時は驚いたけど……げっちーが守ってくれたのよ」


 美月の話によると、サジンたちが部屋で話し合っていた時点で、いくつかの石像が設置され、既に女王が地区にやってきたこととなる。全体に緊急のメールが送信されたのは、女王に攻撃した探索者が石にされたからだろう、と優利は皆に話す。


「私は探検隊の中でも一番のしたっぱだから、私だけ一般人の避難誘導を任せられたの。今どういう状況か分かる?」

「美月がしたっぱなんてやっぱりおかしいよ~! ……ごめん、今はそういう時じゃないね。あの新田さんと会ったけど、すっごく強い魔物が出てきて、それに挑んだ人は新田さん以外みんな石にされちゃったの」


 安子は、この石像を設置した魔物がいたこと、どうにかその魔物に帰ってもらったこと。そして、夜明けまでに全ての石像を破壊し、石化された人を元に戻さなければならないことを話す。


「当たりが一体だけ……といっても、こんな危ない魔物は放っておけないし、全部やっつけないとね」


 パキパキと指を鳴らしながら、安子がそう話す。周辺に明らかな魔物の気配が無くなったため、おしゃべりする余裕も生まれたようだ。

 そんな空気の中、優利は冷静に状況を分析する。ある程度の予想と共に、これからどうするか、現状どうなっているのかを、サジンたちに伝えた。


「地区に疎いサジンもいるから、詳しく話すぞ。まず地区は大きく北と南に分けられる。南は会議や個人情報の登録なんかをする施設が多い。中心に学校があって、そこから北はかなり広い訓練場がある。スキルを使った本格的な訓練ができるように、多くのスペースが割いてあるわけだ。で、それだけ広い訓練場だ、授業終わりは沢山人が集まるよな」

「実力者が北に集中していたってわけね」


「正解だ、美月。これは俺の予想だが、”女王”が現れたのは訓練場の近くか、中だと思ってる。この地区だけでもかなりの人数探索者がいるけど、新田さんはティア3以上の探索者はみんな石にされたって言ってた。学生の大半はティア4で、3となるとかなり少なくなる。学生より実力のある卒業生や大人の探索者が一番利用するのは訓練場だ。多分、この辺りよりだいぶ酷い光景になってると思う」

「学生の大半は無事と考えて良さそうね」


 相槌をしつつ返事をする美月に対し、安子とサジンは頭にはてなを浮かべながら聞いていた。全員真面目に聞いているのだが、解釈は人それぞれなようだ。


「北の魔物は新田さん一人に任せて大丈夫だ。たまたま地区に居たティア1探索者は新田さんだけだろうけど、女王と戦えるならまあ大丈夫だろ。魔力を探知する機械もあるし、いざとなればこっちから探せるはず」

「そういえばそんなものありましたね」


 その魔力を探知する機械とやらのせいで、サジンは連と出会うことになったのだ。サジン本人にとっても印象に残っていたらしく、懐かしむように返事をした。そして、優利が話をまとめだした。


「とにかく、俺たちは四人で行動しよう。たまたま逃れた美月も一緒に戦ってくれるなら、頼もしい限りだ。ここからは、耐える、探す、倒すの3つを意識して戦うぞ」

「分かったわ。非常事態みたいだし、今回だけよ」


「怪我したらゆうりに治してもらいましょう。……むむっ、何やら強い気配がこちらに向かってきます」


 サジンがそう言うと同時に、ずっと大人しく話を聞いていたげっちーが騒ぎ出す。一際違う魔物の気配。動物的な勘の鋭さを持つ一人と一匹が反応すると、三人は警戒を始めた。北から向かってくると話すサジンの言う通り、訓練場へ続く道を観察していると、小さい人影がこちらに向かってくるのが分かる。

 身長はサジンと同じくらい、手に持っている武器もサジンと同じくらい、服装も半裸だが、ダンジョンからこちらの世界へとやってきた時と似たようなものだ。髪型もぼさぼさで、遠目から見るとサジンそっくりだ。


 唯一違う点は、サジンと違って全身の肌が灰色なところだろう。


「あああーっ!! 悪趣味です! 最悪です! 女王のバカ! バカーッ!!」


 明らかに他の石像と違うその姿を見て、サジンが騒ぎだした。勘の良い優利は()()がすぐに当たりの魔物だと察し、同時に呆れた顔になった。


「落ち着けサジン、攻撃が来るっ──」

「優利! 避けてっ!」


 サジンの石像は迷いなく優利へと刃を向け、その剣を振り下ろす。どうにかサジン(本人)と安子が剣を受け止め、弾き返した。すぐさまサジンが石像の腹に回し蹴りを仕掛け、ある程度の吹き飛ばすことに成功する。


「気をつけてください。他の石像より小さいのに、速くて強いです。なんか嫌ですね」

「まあ、十中八九こいつは特別な石像だろうな。怪我はないか?」


 怪我なんてしてられませんよ、とサジンがぼやく。どうやら自分の真似をした石像の魔物にひどくご立腹のようで、いつものような冷静さを欠いていた。注意を惹くように前線に立ち、乱雑に剣を振るうサジン。しかし、石像側もそれに対し完璧な反応を見せ、斬撃を全ていなしていく。


(どこまで僕そっくりに作ってるか分からないけど……このままじゃ根負けする)


 無機質ながらも無尽蔵の体力を感じ取ったサジンは一旦距離を取り、頭を掻いた。本当にたちが悪いな、と項垂れたくなる気持ちをぐっと抑えながら、どう攻略するかを思考する。とはいえ、勝利の鍵が人数の差であることは、薄々感じ取っていた。

 出会って一日の人間と、連携を取りつつ戦うことができるのか。しかし、それしか道は無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ