表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/63

トカゲの面影

「やはり大した相手じゃありません。あこ、あなたも足ではなく腕を強化して真似てください」

「今のをナイフでやれって言うのぉ? 無理だよぉ~」


「手短に済ませないと石化されてしまいますよ。あなたならできます。頑張ってください」

「そうだ! あれやってよアレ。校庭に行くまでにやった力をマシマシにするやつ」


 それを聞いたサジンは口をへの字にして、こう言った。


「あこ、あまり他の人に頼っても強くなれませんよ」

「優利ー! サジンくんがいじわるするー!」


 よしよしと優利が安子を慰める。サジンからして、あれはあまり他人に見せたくない力であるため、あまり活用したくなかったし、使わざるを得ない状況になって欲しくなかった。


「僕たちはセンターを経由して庭園の方に向かいましょう。ここから近かったはずです」


 サジンは昼間に通った道を逆に移動することを提案した。反対する理由もなかった二人は、それに従って進んでいく。

 数分早歩きで移動した後、道を歩く石像の魔物が目に入る。一体全体何体いるのかと気になるサジンだったが、ひとまず目の前の脅威を排除することにする。


「あこ。一番脆そうな部分を一突きしてください。全力でですよ」

「俺の勘だが、あの魔物の強さはティア3相当ってところだと思う。頑張れば安子でも倒せるさ」


「ねえほんとに私じゃないとダメ? サジンくんで良くない?」

「あゆみ隊のアタッカーが戦わなくてどうするんだよ! サジンもサポートしてくれるし一度はやってみろって!」


 渋々了承した安子は、大きく息を吐いてナイフを持ち直した。石を砕く。弱点を見極めて、一点だけを突くように。

 腕だけでは足りないと判断したのか、安子は全身を強化して魔物に突撃する。速度と力を合わせ、石像の腹を思い切り砕こうと飛びかかった。


 ピシピシと石像にヒビが入り、割れ目が広がっていく。もう一度ナイフを突きつけた結果、音を立てて石像が崩れていった。しかし、石像の瞳が妖しく光るのを見たサジンは、安子の元へ直行する。


「間に合えっ──!」


 飛びかかる前に殺気を出しすぎた安子は、魔物の反応を許してしまう。身体を粉砕することはできたが、最期の一撃を放たれてしまった。魔物の視線を遮るようにサジンが前に立つと、頭に一撃を入れて粉々にした。


「サジンくんっ!」


 安子は無事だったが、視線を遮るようにして立ったサジンの身体が、徐々に石へと変貌していく。が、その直後、サジンの身体が一気に元に戻っていく。


「危ないところでした。石にされそうになったら、僕を盾にしてくださいね」


「なにそれ……」

「なにそれ……」


 二人が呆れた顔で同じ言葉を話す。度重なる石化を経験したことのあるサジンは、木っ端魔物の石化程度で石になることがなかった。女王の癇癪、もとい石化攻撃を何度も受けた結果、サジンの身体は石化に抗うように変化した。


(女王の”鍵”のおかげみたいで嫌だけど)


 もちろん、体質の変化は女王から貰い受けた”鍵”の力も影響している。毒を持つ生物が毒に耐性があるように、サジンもまた、似たような進化を遂げていたのだ。

 誤解される可能性が高いため話していないが、サジンは自らの身体に変化が起き、石化に関する力が増していることを確信した。石で出来た物体を作ったり、生物を石化させることもできるだろう。新田連の言う、”後天的なスキル”を、また1つ得たといえる。


「さあ次です。奴の目に気をつけてください。背後から攻撃するのが一番かもしれませんね」


「ものすごく危機的状況な気がするのに、なんかズレてる気がするのは俺だけか?」

「私もそう思うよ。やっぱり本場のダンジョン育ちは違うね」


 次の魔物を探すべく、道沿いに進んでいくサジンたち。ふと、優利が不安に思ったのか、こんなことを話し始めた。


「俺って三人の中でも、なーんか役立ててない気がするんだよな。戦闘は苦手だし。まあ、みんなが元気なのはいいことだけどさ」

「ゆうり。僕の力であなたのスキルを増幅すれば、多分一人ぐらいは石化を治療することができます。万が一新田さんが石化するとマズいので、ゆうりはとにかく生き残ってください」


「えっ待って俺そんな重要なの」


 サジン自身は石化を解くことができても、他者の石化を治すことはできない。現在地区の北で魔物を殲滅している連が石化した場合、戦力が大幅に削がれ、夜明けまでに魔物を全滅させることが叶わなくなるかもしれない。その可能性を考えた場合、治療スキルを持つ優利は最期の切り札のような存在であった。


「戦いの場を一番広く見られるのもゆうりです。頼りにしていますよ」

「お、おう。なんかありがとなサジン」


 サジンから厚い信頼を向けられ、たじたじになる優利。実際、サジンは二人のことをかなり信頼していた。この世界に来て世話をしてくれた恩人というのもあるが、状況を飲み込む力は随一であるとサジンは考えている。


 その後も、センターの手前で一匹、庭園に行く道中で一匹の魔物を粉砕し、順調に数を減らしていく三人。ちらりと腕時計を見やるサジン。時刻は8時の少し手前を差していた。

 そして、ようやく庭園が見えてきたところまで来た三人は、一瞬庭園の一部が明るくなるのを確認した。サジンも人の気配と同時に、一匹石像の個体とは別の魔物がいることを感じ取る。


「戦ってるのかも。急ごう!」


 安子の声に頷くと、駆け足で庭園へと向かっていくサジンたち。庭園の路上には、一人の探索者と、一匹の大きく赤いトカゲのような魔物がいた。


「美月! げっちーも!」


 真っ先に反応したのは安子だった。サジンは記憶を辿り、昼寝前に出会った人物であることを思い出す。確か、魔物を連れた探索者がいた。はて、あんなにサラマンダーは大きかっただろうか。そんなことを考えていたサジンだったが、美月がこちらに気がついたようで、意識をそちらに向けることにする。


「優利と安子!? あなた達ティア4でしょ!? なんで避難してないの!?」

「私たちが知りたいよ……と言いたいけど、色々あってね」


 安子と会話する美月の前で、大きなサラマンダーが石像の魔物を攻撃していた。身体を砕くほどの力はないようだが、石化の魔法をものともしていないように見える。勝負は拮抗しているが、決め手がないとサラマンダーこと、げっちーが不利だろう。


「あこ! げっちーを助けますよ!」

「がってんしょうち!」


 安子は魔物の膝を砕き、姿勢を崩した。サジンが石像の視線を遮るように移動すると、剣を振り下ろし渾身の一撃を与える。四度目となると慣れたもの。手早く石像の魔物を粉砕し、驚嘆する美月の元に駆け寄るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ