第4話.clutch meet
第4話.clutch meet
昼過ぎにアイラはラノン村に帰り、暇になったので
極力目立たないように、あたりを散歩してみた。
草原といっても、ぬかるんでいるということもなく普通に走れるという感じだ。
あまりウロウロするといろいろなリスクが発生しそうだったが、最大のリスクである人に会うことは全くなかった。
2時間程が経ち、夕暮れになったので、いつもの木陰に戻った。
翌朝…
アイラが遠くの方からウッドスクートに乗って向かってきたのが分かった。
が…。
隣に人がいる…!?
あー…これは、ややこしい感じになるかもなぁ…。
隣の人は白髪で適度に日に焼けており、腕は仕事で鍛えられたであろう筋肉を携えている。
身長は170cmくらいだろうか。
格好は、アイラと同じ革製のオーバーオールを着ており、道具が入った腰袋を付けている。
アイラと同様、ウッドスクートに乗っているが、大人用のものらしく大きい。
「おはよう!」
アイラは元気に挨拶してきた。
「おはよう。…そちらは?」
私は心配気に質問した。
「おぉ!!こりゃ驚いた!物が喋っておる!
申し遅れた、俺はラッセ。アイラの爺ちゃんだ!
ラノン村では職人をしている、得意分野は木工だな。」
親族パターンか…どうなる…。
「あぁ、心配しなくていい!にしても不思議なこともあるもんだなぁ…。
で、お前さんアールヴとか言ったな。ちょっと詳しく聞かせてもらえないか?」
私は事の顛末を話した。
「なるほど…。それにしても凄いのぉ!ちょっと走ってみてくれるか?」
エンジンを掛けて、少し走って見せた。
「動いている物はエンジンといったな、どういう仕組みだ?」
「ディーゼルエンジンといって、軽油という燃えやすい油を金属の筒に霧状に噴射して筒にピッタリ合う金属の円柱で押して高圧縮させると自然発火する。
自然発火は爆発を伴うのでその力を利用して動かしている。」
「ほぉ…なるほど…。ちょっと違うかもしれんが、焚火なんかで火が弾けるような力を利用してんだな?
ちょっと、他にも見させてもらっていいか?」
ラッセ爺さんは不敵な笑みを浮かべ、おもむろに道具の入った腰袋に手をあてがいながら言ったので咄嗟に
「いや!!見るだけで叩いたりしたらだめ!!」
「がははっ!わかっとる!」
一瞬肝を冷やされた…。冗談が過ぎるぜ…。
ラッセ爺さんはあちこち見ている。
「こっちはどうなってるんじゃ?」
運転席が気になるようだったので
「乗ってみるか?」
運転席に案内した。
ラッセ爺さんは、目を輝かせながらいろいろ見ている。
おもむろに運転席のサンバイザーをいじっていたところ
ひらりと一枚のカードが落ちた…。
「何だこりゃ?」
「あぁ、それはIDカードといって、私がいた世界ではちょっとした身分証明書のようなものだ。」
「なるほど、なんて書いてある?」
「株式会社 佐竹急便、名前 神原 悟志
会社ってのは…店みたいなもんだな、この会社は人から荷を預かって運ぶのが仕事だ。」
「ほほぅ…。しかし、それにしてもこのID?というのか、珍しい材質だな…
これちょっと借りていっていいか?この手の物に興味がある奴がいるんだ。」
「あぁ、いいよ。」
「それと…アールヴ…お前さん、ずっとここにいるわけにはいかんだろ?
ラノン村に来ないか?」
「お爺ちゃんナイス!」
アイラの声が高ぶった。
「というか、大丈夫なのか?俺はこの世界でかなり異質だと思うぞ…。」
「いやぁ、心配するな。村長は元職人で俺の幼馴染だ。全く問題ない。
話は付けるさ。」
確かにこの草原に一人というか、一台でいるのも心もとないしな…。
「解体されないように上手く話してくれ!」
「がははっ!わかっとるわ!
それはそうと、村では雨風しのげたほうがいいだろ?寝床を作るからちょっと測らせてくれ…。」
ラッセは私を採寸した。
「これから帰って、村長に話して、それからお前さんの寝床を作るから、まぁ…明後日ってところかな。
我慢できるか?」
「大丈夫だ。」
アイラとラッセはラノン村に帰っていった。
ラッセの後姿だけで、ウキウキしているのが分かった。
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