霊感の強い妻が私を合わせて3人の遺影の前で手を合わせている。
俺の妻は幽霊が見えるらしい。
「あなたってば『男が良かった』なんて言ってねぇ」
娘が生まれた時の話な。口が滑った。悪かったって何度も謝ってるのに許してくれない。
毎日俺の遺影の前にご飯と水をお供えしていつもこの話をする。
聞こえちゃいないのは分かっているが今日も俺は謝る
「悪かったよ」
「あの子ももう二十歳よ?信じられる?」
俺の姿は見えていない……か。亡くなったお父さんやお婆さんは見えているのに俺は見えないのは納得出来ない。
「おとうさ……お母さんおはよー」
娘が起きてきた。今日は大学早いんだな。
「おはよう」
「おはよう。あっ。こらこら。そこに立たないで、おじいちゃんとひいおばあちゃんと被ってるわよ」
「そうなの?ごめんね」
娘には私が見えているようだが妻に気を使って見えないフリをしている。優しい子だ。
俺に似て霊感の無い娘には妻のお父さんやお婆さんは見えていないらしい。
チーーーン。
妻はりんを鳴らした。
「じゃあ朝ごはんにしましょう」
朝ごはんはご飯と味噌汁。目玉焼きと野菜ジュースとヨーグルト。うまそうだな。
「いってきます」
俺は菓子パンを咥えながら玄関を出た。娘が目線でいってらっしゃいと言ってくれた気がした。
妻を見る。私を見てはくれない。
『男が良かった』
そう言った日から妻は俺と話してはくれなくなり、私の遺影と会話するようになった。
「いってきます」
もう一度妻に向かってそう言ったが妻はチラリとも見てはくれなかった。
女を怒らせてはいけないなぁと思いながら今日も私は妻と娘の為に会社に行く。