真章PART9『雪 or 前線復帰」
「わあ...。
...って、イアは驚かないの?」
「驚くわけないだろ。俺二回目だぞ」
「だって―、滅多に雪なんて振らないのにさ、此処には雪あるんだよ?」
「慣れてんだよ。わりいな、驚かなくて」
開始時間が3月だったこともあり、此処に入ってから体感9ヶ月経った時に雪が降るようになった。
季節感と言うのは重要だが、流石にこれは寒すぎた。
その為に、子供のように暖かい由紀を抱き締めて居なければ寒すぎて起きられる気もせず、逆に寒くて死んでしまうかもしれない(アイツの事だ、恐らく死なないように設定してはくれているだろうが、寒すぎて起きられないだろう)。
その為に抱き締めていたのだが、由紀は初めて見る由紀に興奮しているらしい。
...東北の方にある別荘(というより、元実家)で一回ぐらいは見たのでないかと思うのだが、俺が自分でこの世界に来させたことを後悔していたのかもしれない。
まあ、その分斉太に影響されていたのかもしれないが、この様子を見るに素直なままだったらしい。
若しくは、顔を使い分けるようになったのかもしれないのだが。
―――
「...それにしても」
久しぶりにデレデレしていない由紀の声を聴き、俺は今までの平和ムードを断ち切る。
「なんだ?」
今までレベリングなどせずに前線から離れた事を咎めようとしているのだろうか?
だが―――そんな事は無かった。
「すっかり離れちゃったねえ。それでもいいんだけど、なんとなーくレベル上げ―――って言うよりかは、スキルをいっぱいとっていた方が良いんじゃないかなあって思うんだけど」
その答えが確かに当たっていたことに気付くのは、これから体感時間で4年後になった。
―――
前線に戻ってから3ヶ月。
俺が思った予想は当たっていたのか、戦闘中には一切俺に話しかけようともしなかった。
ただし、戦闘中でも俺の考えが分かるのか俺の動きに合わせる様に行動してくれる。
何をせずとも伝わるその感覚が心地よく、また傷つけてしまうかもと言う思いを抱かなくて済むことがうれしかった。
俺達がいない間は約二か月間だったが、その二か月間のブランクと言うものが大きかったために、実質復帰から2か月と言う所だった。
「...ねえ、イア」
「なんだ?」
ちょっとだけすねている気がする。
そう思っていると―――。
「...もっとかわいがってよー!」
...使い分けているわけではなく、ただ単に自分の意志を封印していただけのようだった。
若しくは、俺に甘えている所を見せたくなかったか―――。
それにしても、すねているのもいいな。
だが、そんな事を言うとその顔も見られなくなるだろう。
そう思い、言わないのだが。
「...無理だな」
「え―――!?」
その声は攻略組に響き、一時反響し、そして消える。
そして、モンスターをおびき寄せ―――そして、俺と由紀で殆どを殲滅させることになるのだが、それは別の話。
―――
最前線をⅬⅩⅩ層台に乗せつつも進行ペースが遅いこの世界。
今までいろんなことがあったが、此処まで遅いのもなかなかのものだ。
初めには5万人ほどいたプレイヤーも、今では3万人を割り込み、なおも減少傾向にある。
それにしても、だが。
「さーて、この戦いが終わったら大きなパーティを開こう!
みーんなの心に残るような、そんな奴を!」
...案外由紀のやることは派手だ。
それに、その内容は今彼らが―――プレイヤーが求めていることだ。
だからこそ、士気と言うものは上がる。
こんな由紀の行動が俺には微笑ましく思える。




