真章PART8『のどかな地にて』
「のどかだねえ...。」
「そうか?
...でも、由紀がうれしそうでなによりだ」
このゲームが開始されてから7か月後。
俺達は、完璧に引きこもっていた。
というよりかは、攻略の時間以外はⅩⅩⅩⅣ層にいた。
俺が昔ここにいて居心地が良かったというのもあるが、一番は由紀がこの地を好いてくれていたからだ。
―――いつか、再びこの地で暮らすことになることを夢見ていたが、この様な形で叶うとは思ってもいなかった。
それだけに、俺はこの地に懐郷の念を覚えることもある。
...まあ、由紀が一緒にいてくれているから、なのかもしれないのだが。
―――
「りゃあぁ!」
「...危ないな。まだ、ボス戦に出したくない」
「そのようなことを言うな、主よ。
...確かに危ないところも見受けられるが、あれでここまで上達したのだからよいのだと思うぞ?」
遠くから由紀を見守る俺に、暫く姿を見なかったバロンが話しかける。
「久しぶりだな」と軽い挨拶を交わして、俺は彼に聞く。
「お前は今までどこにいたんだ?」
「...フッ、聞きたいか?」
そう言うバロンがウザく感じ、俺は「勿体ぶらずに早く言え」と答えを急かせる。
「むっ、しけているのだな。まあいいが」
そう言っておきながらも少しだけ嬉しそうなバロンだったが、俺にとってはその言葉すらも神経をすり減らさせるものでしかなかった。
「早く言え‼俺にとってはお前なんて由紀が傷付きでもしたら殺せるぐらいには怒ってんだからな‼」
その俺の言葉に「全く、愛してしまった者にはどこまでも甘いのだな」と呟いておきながらも、言った。
「...我はヴァルと共にいた。
精霊の森にいたのだが、何とか我は切り抜けられてな」
その言葉に絶句したのも当然とはいえる。
―――
「だ、大丈夫―――?」
「...大丈夫だよ。
俺にとっては、な」
「ほんとに―――?」
「ほんとだよ。全く、由紀は俺の事を信用してはくれないのか?」
「でも―――」
それでも言い募ろうとする由紀を撫でてやり、暫しこの空気に楽しむ。
ただこうするだけでも幸せと言うものが感じられるし、共に空を飛んでいるのもそれはまた楽しい。
後者は滝の世界でもしていた事ではあるのだが、あの時とは親密度が変わったからか、楽しくも感じられるようになっていた。まあ、気恥ずかしく思えるときもあるが。
それにしても、俺の心が素直になってしまったようだ。
由紀によって俺の心の壁と言うものが消えてしまったか、俺の心が由紀によって絆されたか―――若しくは由紀を愛してしまったがゆえに、心と言うものが変質したか。
まあ、それでもいい。
斉太と―――実の父と同じ道を歩んだとしてもいい。
―――それだけ、由紀に対する思いは強いものだった。




