真章PART6『由紀の我儘 or 3ヶ月の時間』
「...あれ?」
由紀がそう言ったのを聞いて、俺はそちらを見る。
俺達は長く長く落ちて行っていたはずなのだが、どうやら飛行スキルを手に入れたらしく、俺達の身体は一向に下に落ちないでいた。
寧ろ、少しづつ上に行っているようにも思える。
心の中で、(下に行くわけじゃないから由紀の我儘は聞かなくてもいいな...。)などと屁理屈めいたことを考えながら、俺達は再び守護塔の守護ブロックにある吹き抜け部に戻っていった。
《スキル:<飛行>を入手しました》
―――
「ハア...。
あきれてものも言えないってのはこういう事かしら」
優にそう苦言を呈されてしまうのも仕方ない事だ。
飛行スキルがあるか確かめたくて落下した、と素直に言った時、こういった反応をされるのは分かっていた。
優も斉太に影響されてしまっていると思いながら、俺は目をそらし続けるほかなかった。
「全く、由紀も由紀だよ!
ストッパーとして兄さんの近くにおいてたのに、寧ろ感化されるなんて、信じらんない!」
「...ゴメン」
対する由紀はと言うと、俺よりも素直で、謝っていた。
優からすれば、寝食を共にした友達のような物だ。
それだけに心配も大きかったのだろう。
...俺に対する心配は?
段々と俺に対する扱いが酷くなっている気がする。
由紀は分かりやすく愛情を振りまいているが。
―――
ともあれ、俺達はⅡ層に上がることにした。
いつもの螺旋階段を上り終えたところで、由紀が唐突に口を開く。
「...ってことで、下に降りたから我儘聞いてもらうからね」
「...?」
頭に疑問を飛ばしつつも、俺はその事象を探していた。
だが、その前に「さっき言ったでしょ!下に降りたら我儘聞いてもらうって!」と言う由紀の声が聞こえ、ようやくそれに思い至る。
「ああ、すまない。
優に叱られたせいですっかり忘れていた。何がしたいんだ?」
「人に責任押し付けないでほしいんだけど」
横から言われる言葉には気にも留めず、俺は由紀に続きを急かせる。
だが、その一言によって人生は決まってしまう。
「...じゃあ、私が威亜のお嫁さんになりたい!」
―――
「―――...」
「あ...。
えっと...大丈夫―――」
遠くから聞こえるその声に、俺はそちらを向く。
そして俺は彼女に聞き返す。
「...なんだか信じられない言葉を聞いた気がしたが、もう一回聞く。由紀、お前はなんていった?」
すると、由紀は自分の言ったことを反駁してみたのか顔を赤く染め上げる。
俺は聞いた後に理解する間もなく意識を失ったようだから、俺をそうさせるほどのインパクトを持ったものなのだろう。
そして、耳を赤く染め上げたままに、とても恥ずかしいようにつぶやく。
「...わ、私の...旦那さんに、なって...くれない、かなあ...?」
再び俺の意識は昏く閉ざされることになるが、倒れ行くなか今度は俺に考える時間が与えられた。
だが、どんなに考えても答えは(...は!?)と言うものしか現れず、いつか俺がその答えに対する決断をすることが出来るようになるまで、きっとそのことに悩まされるのだと思った。
―――
「...大丈夫?」
「...その原因がお前なのに、よく言う」
「うええ...。」
由紀は、一切変わらない―――とは言わないが、あまり変わらない様なことをしていた。
まあ、このぐらいが丁度いい。
由紀がこのようにするのであれば、俺も同じように今までと変わらない行動をしよう、とそう思えた。
「...すっかりと絆されっちゃって」
優がそう呟いた声がした。
―――
「ん―――!イア―――ッ!」
...少し変わった様子など、2か月前に置いてきたかのようにいつものような明るい声を出す由紀。
此処まで変わらない姿を見ると、逆にすがすがしくすら思えてきてしまう。
...だが、時間は無情なまでにも進み、かれこれ2か月が経過してもなお、最前線は今俺達がいるⅨ層だった。
幸いフィールドやモンスターはかつてより変更はなく、さくさくと進めているのだが、それでもなおここにいることからも伝わる様に、レベリングの効率は相当低くなっていた。
経験値は以前と変わらない。だが、モンスターのレベルが上昇し、堅くなっていた。
その為にレベリング効率は相当に低下し、俺達を除いてレベルが低めなままになっていた。
―――と言っても、前よりは高く35前後だったが。




