真章PART2『Re:Scarecrow』
「...浮いてる?」
俺がその世界に入った時、俺の身体は空に浮いていた。
まだその世界のスケアクロウは完成していないのだろうか?
そう思ったとき、俺の身体は下に落下していった。
「―――うおおお!?」
そして、何とかその肉体にダメージを与えないために受け身を取ろうとするも、その肉体は空気抵抗のおかげで変形することもできず、身体に落下の痛みがジンジンと響き―――そして、その痛みが嘘だったかのように消え、俺の肉体はいつか見たような見た目に―――実際の肉体とは殆ど一緒だが、目の色は空色と緑色になっていたし、髪はいつもの三つ編みだった―――なっていた。
其のナリが嘗てDoomsday Knightsに入った時のナリと同じだったために、俺はまた肉体が晒されることになるのか、と危惧したものだ。まあ、今はこの姿を見る者は俺以外にはいないのだが。
ともかくとして、俺は動くことにした。この世界に先に来たぶん、皆よりも進むことが可能な為だ。
発売日の3日前だという事は、しばらく時間がかかるのかもしれない。
だが、早めに動いていた方が得策だ。レベルが一からになっているのだから、その分進もう。
―――と、その時は思ったのだが―――。
―――
「...なんじゃこりゃ」
俺が足一本を動かすよりも早く、皆が入った。
何故そうなったか。
それには、きっと時間加速が用いられているのだろう。
時間加速と言うのは、元々は時間の感覚を長くして俺が異世界―――地界ヴァルドにいた時間が4週間だったところを体感56年ほどになっていた現象の事を言う。
だが、逆に捉えればその時間感覚を短くすることも可能だろう。
それにまんまと嵌ってしまったようだった。
「...あれ、旦那か?意外だな、最近見なかったからてっきり来ねえもんかと思ってたんだが...。」
後ろからそういわれ、振り向かずに俺は言う。
「久しぶりだな、ダグラス。生憎だが、俺は三日前から由紀の所為で此処に閉じ込められてたぞ」
「マジかよ。なら、大変だったんじゃねえのか?」
その反応に首を振ってこたえると、俺はそのままに体感時間が一切なかったことを話す。
恐らくこれに使われるであろう、逆加速も。
「...嘘だろ」
そう彼が言ってしまうのも納得できた。
―――
始まってから約30分、俺達は再び裏路地のばあちゃんにお世話になっていた。
相変わらずの快活さを持っているそのNPCに軽く挨拶しつつも、俺は再び《アイアン・ソード》を買おうとしたのだが―――。
《所持金が足りません。必要金:1200ケイ》と言う文字列が現れ、仕方なく俺はもっと安い《ショート・ソード》と《アイアン・サイズ》(計900ケイ、片手剣と鎌)を買い、再び3時門に向かい―――はせず、南の6時門に向かった。
そこでダグラスと別れ、俺は此処にあるある物を取りに来た。
それは...。
―――
≪ほう、汝は我の試練を受けんとするものか?≫
「ああ」
≪そうか...。では、汝よ、我が足元にある剣を引き抜かんとして見せよ。
抜けぬのなら、我の試練を受ける実力が無き者だという事。さあ、力を示してみよ!≫
「ああ」
第Ⅰ層南部に存在する、<ラビリントス>。
地下迷宮ではないが、迷宮ではある。
その奥に、この龍は存在する。
フロアボス最強の裏ボスが、この龍だ。
<Rejend Doragon Guan-vallgo>。
コイツの足元に存在する剣を引き抜けるものはこの裏ボスと戦うことが出来る。
俺は、ⅠⅭ層を攻略した後にこの場所に来たのだが、その時は剣を引き抜こうとして力を籠めるも引き抜けず、それをベルに笑われたのも懐かしい思い出だ。
が―――今なら、その剣を引き抜ける気がする。
ガン・ヴァルゴと言う名の古龍は≪カッカッカ、さあ小さき者よ、我を倒して見せよ!≫と語り、その剣を抜こうと―――はせず、優しく撫でる様に剣を持ち上げる。
≪ほう...。そのような方法でこの剣を抜いたものは初めてだ≫
そういわれ、俺は逆に聞き返してしまう。
「...ほかにどうやって抜いた奴がいたんだ?」
すると、その龍は恐ろしい事を口にした。
≪なに、抜こうとせずに我に襲い掛かってきた愚か者がいた為に攻撃してうっかり剣ごとその者を破砕してしまったのだ。だが、剣が再び戻り、我は喜ばしく思っているぞ≫
この龍にはかつてのスケアクロウの記憶が有る事が分かってしまった。
だが、もうイベントクエストは始まってしまっている。
仕方なく、この龍を滅ぼすことにするのだった。
―――
「...なんだよ、このチート龍は」
≪クハハハ、我も貴公に付き従おうではないか!
貴公が我を開放し、再び人としての生き方を謳歌させていただけるのだからな!≫
「いや、お前がプレイヤーとしているのがおかしいんだよ...。」
≪む、何か悪いのか?≫
「いや...。」
そういう俺の後ろにいるのは、ヴァルドン・カルドと言う者だった。
先程俺が斃した龍が人の見た目を取っている奴だが、プレイヤーとしている特異点だ。
それに、武器は<真神剣マナ・ドーリアン>と言う、名だけが語られ続けたGM武器の一つであり、このクリア報酬として与えられたのは多大な経験値とⅭ層でも余裕で戦えそうな恐ろしい片手剣、<信心剣ヴァルカリア>だった。
ともかく、戻ろうとすると俺の肉体と共に後ろを付き従っていたヴァルドンの肉体も青い光に包まれた―――。




