最後のイベント、前夜 or 壊れかけの人形
あれから3ヶ月が経過した。
特に変わった事は無いが、しいて言えば体力と筋肉(主に足と腹回り)が付いたことだ。
食いすぎからの激しい運動でリバースしない為にも、節食を心がけて余分な栄養素を取らなかったのもその要因の一つだろうか。
だが、それがあったおかげで油が付いてきていたような腹回りは無くなり、身体も軽くなった。
驚きのダイエット術である。
―――
「眠いぃぃ...。」
「早く寝ないと体に悪いぞー」
もう一個の変わった事は、すぐに寝るようになったことだ。
肉体的にはすぐにでも寝れたが、VR世界に長居していたために寝る時間が遅くなることがしょっちゅうあった。
だが、今は現実で動きつかれてそちらに行く気も起きなかった。
そのためにすぐ寝れるのだ。
由紀はいつもVR世界に入った後はしばらく起きていたが、動くようになるとすぐ寝るようになった。
恐らく体力が有り余っていたのだと思われた。
...実に子供らしいが、そのようなところも可愛らしい。
すぐ寝てしまう柚ですらも驚くようなスピード―――つまり一瞬で寝てしまった由紀のまだまだ幼さの残る、そして同時に脆くも見えるあどけない寝顔を見ながら、俺は眠ることにする。
「...お休み、由紀」
その声に、小さく「...うん、お休みィ...。」と、そんな寝ぼけた由紀の声が聞こえたような気がした。
―――
『プレイヤーがいまだ増え続ける拡張現実サービス<マジェスティ>ですが、これを運営しているCrossing Eye社は昨日午後8時、『明後日に最終イベントをF県Ⅹ市体育館にて行う』とコメントし、明日からのイベント参加者は概算で5万人に及ぶとされ、当日はその場に不要な接近を避ける事を要請しています...。』
「...マジ、かよ...。」
そんな或る日、夕方のニュースを見ているとそのようなニュースが流れていた。
急いでクロッシング・アイ―――元|《Wedge》社のTwwittireを確認すると、その公式発表の動画を確認すると、『最も活躍した者に対しては、相当の報酬があるだろう』と言う内容も仄めかされていた。
...一体、明日何が起こるのだろうか?
それを考えるためにも、夕方の周回を開始するのだった。
―――
「...さて、これでよかったのかな?」
「勿論!これで世界はちょっとだけ変わりますよー?
...ほんと、ちょっとだけね」
「そうか...。まあ、君がいいのであればいいのだよ、木口君」
「いやあ、流石にこういう形で夢をかなえられるとは思っていませんでしたけどねー」
「君を使わせてもらえて、少し悪かったと思うよ」
「それでもいいんですよ!これで、またみんながあの世界に戻って苦しむのなら、ね」
「...案外腹黒いのだな」
「なにかいいました?」
「...いや、最早何も言うまい」
恐ろし気な光を宿した木口 輝子―――かつて俺が出会ったこともあるその少女は、斉太と話していた。
いつもはもっと恐ろしい空気を纏わせている斉太だが、この少女の前ではそれもあまり強くはなかった。
それほどに、この少女の纏う空気は狂気に満ちていた。
「...最後の仕上げ、皆への苦痛...。
...頼みますよ、団長」
「...裏から色々としている君の言葉とは思えないな、木口君―――いや、スプレンドーレ」
「酷いんですね」
「君に言われるまでもないさ」
その様子を、斉太は微笑ましげに見ていた。
狂気に満ちているその少女を見る斉太の口に、「...君も私に踊らせられているのだからな、せめて君の踊りには望みを持たせてやろう」というような動きがあった。
...次の日、その少女は踊りつかれた人形のように朽ちていた。
その後、彼女はどこで何をしているのか―――それを知る者は、今は彼女のクローン体を作っている母さんと斉太しかいないだろう。




