案山子の現実
「ここはどこだ?」
目の前に広がっていたのは自分の部屋だとは思えないほどに豪華な部屋だった。
拡張...世界?に息をのんでいると、横から「わあー!すごいよ威亜、色々見える!」とはしゃいだ様子の由紀の声が聞こえた。
その声に誘われてそちらを見ると、確かに色々な光景が広がっていた。
そのシステムは独特だが、恐らく慣れれば途轍もなく楽しいだろう。
その飴の前に俺達は忘れてしまっていた。
此処が現実世界であること、そのために自分の体力がものをいう事―――俺達にやらせないための方針だった。
―――
「ハア、ハア、ハア...。
...由紀、待て、待ってくれえ...!」
「ヤダ!
...でも、こうやって助けを求める威亜を見てるのも楽しいなあ」
体力など一切ないもやしの俺からすれば、このシステムは鬼畜以外の何物でもなかった。
しかしながら、由紀のように体力が有り余っていて、なおかつこういった世界が好きなものであるならばこのシステムは非常に喜ばしいものだろう、とも思えた。
...いや、もしかしたら【威亜も体力をつけた方がいいぞ】と言う、斉太の回りくどいメッセージなのかもしれない。
仕方ない為、そのとてもありがたいご好意を素直に受け取ってやることにするのだった。
「ハア、ハア、ハア...。
な、何故私がこのようなシステムの被検体に...。」
と、心がそのように動いたところで斉太のそのような声が聞こえた為に、俺の感じた感想が偽りであることと、斉太に対しての非常に珍しい同情を息を切らしながら感じた。
―――
次の日、つまり公式にシステムがリリースされたその日、遂にフィールド=そこらへんにモンスターが湧くようになった。
強さ基準はlv,1から始まっており、あくまでもこれは独立したシステムらしい。
...の、はずなのだ、が...。
「...なんで俺のレベルが148スタートなんだよ」
そう、俺のレベルは148からスタートしたのだ。
今までに比べると相当低いが、それでもステータスは普通のプレイヤーの千倍も高いと自負している。
そういえば、俺の周りの者達は、一部を除いて皆高い。
―――そこで俺は、そのレベルの数値に気付いてしまった。
その数値と言えば―――。
―――
「...なぜ君がここにいるのだ?」
「俺がここに来れないと思うなよ。ベルにゴリ押s―――直談判して此処に来させてもらったからな」
Face Scarecrow、ⅭⅠ層。
そこに、俺と斉太はいた。
「...それに、何故あのシステムの答えがここにあると知っているのだね?」
その質問に、俺は嘲笑と共に答える。
「フッ、簡単だよ。
ただ単純に案山子のⅭ層のレベルが残っていたから、その後継機的な感じの此処にあるんじゃないか、ってな」
斉太はぽかんとすると、そののちに小さく「迂闊だったな」と呟き、苦笑をしてからログアウトした。
それに続くように、俺もログアウトすることにした。
―――
『新しく始まった拡張現実サービス、<マジェスティ>による影響は多大なものとなっています。
新しく配信された拡張現実サービス<マジェスティ>は現実世界と仮想現実が混合したような世界を登場させるサービスで、仮想現実のプレイヤーと思われる人たちなどが主体となり約4万人のプレイヤーがいる模様です。
また、社会的影響も懸念されており...。』
そう言ったニュースに溜息を吐き、見る必要もなかったと思いながらテレビを消す。
ニュースを見ようとするとたいていはこのことばかりで、他の物―――《VRエヴリィ》でもこのことに対するVR人口の減少を懸念するものが多かった。
そんな中でもベルは相変わらず定例の隔月開催RfGを開催し、更にそこに参加した人数が今までで最高水準だったことから、まだまだVRも盛り上がりを見せている。
...まあ、それも続くかは分からないが。




