運命に踊らされ続ける世界 or 弓とイア
「...え、エー...アール?
なんだそりゃ」
「ええ、分からないの?
...AR。拡張現実って輝子ちゃんが言ってたよ」
「誰だよ輝子...。」
「まあまあ、お兄ちゃんもやりなよ。
因みに、私はもうやってるけどね!」
「最新を言ってるなあ、柚は」
「へへ、そうでしょ?」
「...むう。いいさ、どうせボクは旧式ですよーっだ!」
拡張現実世界。
そんなものが実際に実現するなど、アイツも関わっていそうだなあとも思える。
―――
「...いかにも。
私が木口君に《Destiny Plan》を伝え、その管理を無線で行い―――更に、その皆の想いを組み込み、皆の心を抉るような次作を作成するのが私の狙いなのだ!ハハハハハ―――!」
『うわあ...。
ずいぶん趣味悪くなったのねえ、斉太』
「何とでも言うがいい。
私は常に趣味が悪い!趣味が悪くて何が悪いのだ!」
「「『うわあ...。』」」
後ろに\\\バアアァン///というエフェクトと効果音が出て居そうな斉太にドン引きする。
それほどに、コイツの語った『精神を抉るような次作の作成』と言うものは趣味が悪かった。
「...いやあ、すまない。
君たちにこの作戦を伝える気はなかったのだがな」
『私と鈴ちゃんには筒抜けだけど』
「そりゃそうだろう、あそこで密談を行うのだから。私たちの話が誰にも聞かれない、まさに『聖域』なのだよ、あの場所は」
あの場所、というのは母さんが語ったFace ScarecrowのⅭⅠ層の事だろう。
そんな『聖域』を汚しているのはコイツだが、そんな道理を話しても恐らく知らぬ存ぜぬ聞き及ばぬをされるだけな為、言わないことにした。
...それにしても、密談、か。
―――
「...さて、試してみるか」
「むう、威亜まで...。
まあ、威亜がそう言うならボクもやろっかな」
「旧式宣言は―――」
「え?そんなんしてないよ?」
あくまでも無視する由紀に対してあきれながらも、俺達はその機械―――<デスティーノ>をみる。
※因みに、デスティーノはプロレスの技ではなく、運命のイタリア語訳からとった、と命名した斉太が言っていた。
耳にかける様にし、そこから脳に直接リンクできるのがこのシステムなのだが、エネルギー消費は激しいはずだ。
そのために、俺―――いや、俺達は訝しんでいたが、斉太に『装着者の創造心がエネルギーなのだよ』と言われ、妙に納得してしまったのも事実だ。
ともかく、俺らは装着してみた。
そこに、異空間のような場所が広がった。
―――
「...ね、え...さん?」
『アハハ...。』
弓は、目覚めた折に見つけたベルを見るなり、自らの動きと思考を停止する。
実は寝る前にもいたのだが、その時はまだ彼女の意識は『イア』だった。
そして、起きてすぐのころの弓の意識が彼女を視認した瞬間、『イア』―――いや、彼女がその前に存在させていた記憶すらも蘇らせ、一つの確定した意識が存在して弓の意識と『イア』の意識は消滅してしまった。
「...久しぶり」
『え?』
ベルは何を言っているのか分かっていないようだが、弓=イアはその反応すらも届かない。
「...まってたよ」
その、年には合わない幼さを滲ませる弓=イアに、ベルはやはり混乱しているままだ。
それでも、弓=イアはベルを抱きしめる。
その心の安定した様子に、ベルは少しだけ喜び、また同時に不安を覚えながら抱擁を返す。
実際、あの世界ではイアとベルは姉妹のような物だったわけだし、二つの世界でも姉妹だったためにそれが正しい世界なのだから。
その二人の平和な時間も、命尽きぬ限り続くだろう。
そう思えるような、幸せな時間だった。
少なくとも、それを見ている者にとっては。




