還りゆく場所があれば
「...それで、ヴァルはどこにやった?」
「ああ、破瑠ならさっき『イアの所に行ってくる』って、弓んとこに行ったぞ?」
「...あれで案外面倒見がいいんだよなあ」
俺は、久しぶりにダグラスの顔を拝みに来ていた。
今まで見たのは由紀、藍理栖、柚、グレン、斉太ぐらいのものだ。
(藍理栖だけはテレビに出ていたのを見咎め、問い詰めたのちに歌手としての一面もあることを発見した。因みに、記憶はないようだ)
俺が居なかった約4週間の間に何があったというわけでもないが、とにかく見ておいた方がいいと思ったのだ。
...まあ、この世界では誰かが居なくなる、と言ったような事は無いのだが。
「...ま、旦那も何か言ってやれよ。最近は斉太さんにクローンの作るのを手伝わされて、お前の助けを求めてるぜ?」
「俺は此処ではアイツの知る全知全能神龍皇じゃねえんだけどなあ...。」
「何言ってんだ?」
キョトンとするダグラスだが、コイツはあの世界を知らないからそんな事を思えるのだ。
弓―――いや、イアは甘えん坊だったからなあ...、と思えるのは鈴がいたからかもしれない。
―――
...俺が会えない者の中に、佐々木 鈴と言う少女がいる。
その少女は、俺が3年前に出会った。
あの頃は、まだただの副団長だった―――というよりかは、その段階で一度死んでいる為に『ただの』とは言えないか。
だが、鈴の存在は当時今よりも心を占めて居なかったために、痛みは少なかった。
...それでも相当重かったが、俺がこうやって存在しているのもその『心』が壊れ、俺―――イヴェンシアとしての記憶が戻ってきたために実質ない様な物だ。
まあ、そうだったとしても今の俺の心の彼女の比重は相当大きいが。
因みに、イア―――が今の肉体として持っているのが、佐々木 弓と言う名の少女だった。
俺以上に好きだった―――というよりかは偏愛、もしくは狂愛と呼ばれるような愛情を抱いていたために、恐らくアイツも精神的にやってしまったのだろう。
―――
「...ま、取り敢えずは行ってみるさ。
...アイツに嫉妬されないようにしなきゃ、だなあ...。」
「頑張れよ、モテ男!」
「友と思っている奴に煽られるのは悲しいものだぞ?」
「...旦那、斉太さんに似てきたな」
煽りよりもそちらの方が俺の心の底まで鈍らの斧でやられたような思いなのだが。
...子供に共に嫌われる親と言うのは、可哀そうなものだ。
―――
「む―――...。」
「膨れんなよ。俺だって、威亜が来るかどうかは分かんねえからさ」
「だからって、塵労に疲れたこのイアちゃんの許に来ないなんておかしいでしょっ!」
その頃、弓は実に子供のような怒りをヴァルにぶつけていた。
その様子を見てヴァルは、此処に来た後由紀にどう弁明するのか、ということを考えていた。
だからこそ、ヴァルは常に無責任な事ばかり発言した。




