戻り、訪れる日々
「...嗚呼、戻って来たか」
まるで親父のような言葉だが、思考が似てきてしまっているのなら途轍もなく困ってしまう。
そこに、声がかけられた。
「...お帰り、威亜」
その声は、俺が聞き慣れた声。
―――髙橋 由紀の、その声だった。
―――
「へへへ...。
ボクもね、もっと威亜と一緒にいたいからさ。
だから...ボクを棄てないでよ?」
由紀の中での俺の評価が分からなくなり、少しだけそんな明るい由紀を憎んでしまったのは、別の話にはしない。
―――
「...おお、戻ったか。
どうだったか、私の仮の姿は」
その後ろに、いつものその声が―――俺の声にも段々聞き間違っていきそうな、その声が俺の耳に届いた。
だが、俺は疑問を覚えてしまう。
なんだか、今まで聞いてきた声とは思えないのだ。
と、そんな俺の思いを見透かしてか目の前の親父は言う。
「...嗚呼、もしかすると君は気付いてしまったか?
まあ仕方あるまい、私の実肉体は死したのだから」
「...は!?」
全く見透かしていない答えだったが、その答えは俺を驚愕させ、由紀に抓られる事になるぐらいには五月蠅い絶叫だった。
―――
「...そんなに驚くことがあるか?
まあ、私の肉体が死してからあの世界に行ったからな、多少違和感はあるかもしれないが、その点はどうにもならないものであるから勘弁してほしい」
...その答えに、俺はある望みを持ってしまう。
「...じゃあ、死んだ奴も復活させられるのか?」
その俺の思いに、目の前の男―――肉体的には正しく言えば親父ではないのだから、便宜上これからは斉太と呼ぼう―――はいつもの不敵な笑みで答える。
「ああ。ただし、記憶と精神が元のものであるのなら、な」
―――
「...君は、彼女に課せられたことすらも破るのか?」
その答えに、俺は苦笑で返す。
実際、俺はそうしようか、と思ってその言葉を言ったわけだが、思い返してみればそのような事アイツが望むはずがない。
そう思って、自分で納得しようかとしていた手前、斉太は呟いた。
「(...やはり、威亜も私と同じ考えに至ってしまうのだな...。)」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、ただの独り言だ。気にしないでくれ給え」
こうなると、それに対する答えは期待できない。
コイツとの関係(体感40年)の長さから、もうそれは理解していた。
...だが、コイツの事だ、きっと死ぬ前に何かしらの方法でその精神を模写しているのだろう。
そう思うと、俺の胸の底の方のわだかまりは解けた。
―――
だ、が―――。
俺には、新たな課題があった。
それは―――。
「...ねえ、威亜?」
「...今は何もしないぞ」
「ええ―――」
―――そう、由紀の考えが分かってしまうのだ。
長く暮らしているとその思考が分かるようになるとは言うが、確かにそうなのかもしれない。
実際、この様に分かっているのだし。
―――
「...さあて、この『作戦』ももう間もなく最終段階に入るな。
...木口君すらも私の作戦に食い込まれてしまったからな、もう戻ることはできないが...まあ、最初の作戦時点でもう戻れないところまで来ているのだからなあ...。」
その言葉の裏に自虐的な響きを込め、彼は嗤った。




