消え逝く者 or 舞い戻りしもの
短めであり、重めです。
...本来の歴史に戻ったとも取れますが。
「いやあ、寒いね、威亜」
「俺はお前のせいで暑苦しいけどな」
「そんな!?...まあ、いいけどさ」
11月23日。
久しぶりに寒くなったこの時期に、鈴と俺は外に出かけていた。
俺はこれを見越して厚着をしていたが、鈴は...今までと変わらないものを着ていたため、とても寒そうだった。
そのせいで鈴は俺に引っ付いてるわけだが...。
―――
「威亜、大丈夫?」
「何がだ?」
「いや、なんだか疲れてるように見えたからさ」
「気のせいだろ」
その会話が、しばらく続いた。
そんな会話をしながら交差点を渡る。
それが命取りになる事とは知らなかった。
何処からか車の音が聞こえ、俺達の身体を跳ね飛ばしたらしい。
らしいというのは、俺が聞いたことではなく後で氷華 斉太に教えてもらったことだからだ。
だが、確実にそれで知っていることがある。
...鈴は、その時に命を落とした、という事実が俺の頭にこびりついた。
―――
「...大丈夫か、威亜」
「......」
「...ヴァルに言われて、異世界に行けるようにした。
時間経過は極限に小さい。君をそこで治療することにする。それに、あの少女の命の代わりを...。」
「...やめろ」
薄い静寂の張った昏い場所にて、俺はいた。
全身打撲、擦過傷、肋骨骨折などの肉体的負傷に加えて俺には心の傷がついた。
...いつか、優に警告された気がする。
だが、その記憶は最も上に存在する鈴の言葉に消された。
『私の事は、思い出さないで。
きっと、そうしたら幸せになれるから。だから...。』
『決して、私の事を忘れないでいて』
―――
「...異世界にはいく。
ヴァルに、『心を壊した皇帝が戻る』と伝えてくれ」
それきり、俺の言葉は途切れる。
このまま俺も鈴に触れたくて、消えていくぬくもりを逃がしたくなくて。
その残ったぬくもりが自分の物と気づいて、それでも生き続けた。
その想いを後に味遭わせんとした俺は、きっとこの時に一度死んだのだろう。
そして、新たな俺が俺の中に生まれた。
いや、正しく言えば俺の中にいた俺―――異世界というものの記憶を取り戻した俺が出てきた。
だからと言って、藍理栖―――アリスにこのことを言う気はないし、俺の心はまだ鈴を愛していたから。
―――鈴《ベル=べリオ》も、そしてその妹の弓《イア=ヴァルカリア》も俺達と同じ様に異世界と俺達が呼んでいる世界が出身(イアだけはもともと旧現実から異世界に迷い込んで、更にこの現実に来ていた)だということに気付いてしまって、俺は気付かれないように泣いた。




