墓前の花
「さて、今日は佑子の墓参りに行くことにするよ」
『へえ、じゃあみんなで行く感じなのかしら?』
「...いや、行くのは私と優、威亜...それにヴァルとしようか」
『ヴァル...って誰だっけ?』
「ッ...。ま、まあ知らなくてもいいよ。私にとってはその軽く抜けている感じが君らしいさ」
―――
「...少し遠いなあ...。」
「まあ、そんな事を言わずに。歩いていくような距離でもないだろう?」
『なんで俺が行く羽目になったんだか...。』
「ヴァル...?」
『ヒッ!?ゆ、優ちゃん...!?』
車に揺られる事約5分。
軽く優にビビっているヴァルを横目に、俺達は墓場に来ていた。
3段だけの階段を上り、左側の一列目、一番左にあるのが氷華家の墓石だ。
一番左側には『氷華 佑子』の字が刻まれており、濡れた墓石に文字が光って見えた。
そこで、何かに気付いたのか優がつぶやいた。
「...なんで墓石に水がかかって...。」
―――
「...なんで花と菓子が?」
花を容れる壺の水を変えて戻ってくると、そこには煎茶とクルミ餅、そして花があった。
その横には、見た事もない文字が―――だが、なぜか内容が理解できる文字が書いてあった。
“今年も、こっちの世界の盆の時期だな。
アンタの命を奪ってしまったこと、すまなく思っている。
だが、アンタが居なければ俺はこのニホンを滅ぼしていたかもしれない。
アンタに感謝と謝意を込めて、この世の中に祝福を。
聖龍王 グレン・ホリア=ヴァルカリア”
と、嘗てどこかで聞いたような名前と共に。
―――
『“オイオイ、グレン、これでいいのか?”』
「“ああ、これでいいんだ。ヴァルこそ、よくこんなとこに来たな”」
『“まあ、月天人の<監視者>としての役割は忘れてないつもりさ。
お前のせいでこんなところにイヴェンシアの転生後の奴もここに来たんだ、そこらへん分かれよ?”』
「“ぐうの音も出ないな”」
『“それに、あの氷華 斉太とかいうやつ、お前のせいで計画が破綻したんだぞ?”』
「“まあ、その計画の許を作ったのも俺だけどな”」
「お前ら、何をしてるんだ?それに...横の奴、グレンとか言ったが、おまえだれだよ」
『「“この言葉が分かるのか!?”」』
ヴァルがどこかに行こうとしていたのでそれについていくと、誰かが先に待っていた。
その男と日本語ではない、しかし俺に理解できる言葉が俺の耳に飛び込んできた。
「...まあ、分かるよ。話の内容だけ聞くと、グレン、アンタがくそ親父の奥さんを殺したんだな?」
そう聞くと、グレンとかいう男は苦笑した。
「ダッテ、オマエハソノリユウヲシッテイルダロウ?」
そのカタコトの文字列に笑いかけながらも、俺の頭の中には一つの言葉が浮き上がっていた。
「...“狂龍の軍勢”...か?」
そういうと、グレンは首を軽く振り、そして喋った。
「タダシクイエバタショウチガウ。
オレガダシタノハキョウリュウノグンゼイデハナク、アノセカイニメイワクヲカケナイヨウニスルタメノオウキュウショチトシテコノセカイニニゲテキタンダ」
『ま、そのせいであの世界の魔力の均衡が崩れて、実弾とかエネルギー弾が主力になったんだけどね』
「マアイイダロウ、ヴァル。
ソレデタショウデモセカイノカクメイガオコルノナラナ」
訳の分からないことだらけだが、恐らく銃の世界の俺の主武装、グレアルド VG-47はその一環で作られた武器なのだろう。
そんなどうでもいい事を考えたが、俺達がこの後墓石に手を合わせなければならないため、戻ることになった。
「じゃあな、グレンさん。いつか会えるのを楽しみにしているよ」
「“俺は魔力で身体を保っているからな、俺はもう帰るぞ”」
突然グレンが還ると言い出し、ヴァルと共に目を見合わせていると目の前に禍々しい門が開き、そこにグレンが飛び込んだ。
『何やってるんだ、アイツ...。』
という声が横の方から聞こえたが、俺は聞こえないふりをした。
―――
『...楽しかったなあ、此処も』
「俺としては変化が大きすぎたよ。というか、ヴァルはついてくるのか」
『当たり前だろ、俺はあの世界に戻るには魔力が減りすぎた。
だから、斉太が異世界に行けるようなシステムを作ってくれるまで俺の異世界生活はお預けだよ』
8月16日に、俺達は旧氷華家を出ていた。
...ダグラスの方の車に、新たな乗客を乗せて。
―――
その後、ヴァルはすっかりなじみ、ダグラス同様永住居住をすることになった。
ダグラスと同じ様に過ごし、氷華 破瑠としてダグラスの家に住み込んでいる。
その分、働き場も確保されており、ダグラスの店に行けばそのあまりにも場違いな外見を見ることが出来るだろう。




