ヴァル
「ヴァル。おまえの分の飯は斉太の分からやるよ」
『おお。そりゃいいや』
「おい、それは少し酷いのではないのかね!?私と言えども常に食わないで生きれるわけでは―――」
「うるせえ!お前のせいで俺がどんな思いをしているのかわかってんのか!」
「...すまない」
「...威亜、なんだか当たり強めね」
「まあ、仕方ないんじゃないのかなあ?」
思わぬ新たな人間に、朝飯を用意できなかった俺は白髪になっている氷華 斉太の分を取り上げて与えることにした。
そもそもコイツにやる分の飯を用意していたのがおかしかったのだ。
コイツには納豆とそのままのみそを与えておけばいいのかもしれない。
―――
「...私のご飯は本当に味噌だけなのか?」
「当たり前だ。それが嫌なら新しく飯の材料を買ってくるんだな」
こうやって会話しているのも、コイツが優の―――今の氷華家の家に再び現れたのが原因だった。
そもそもコイツの事だ、何かしら俺をひっかけて姿を出さないつもりだと思っていたのにこうやって見ることになるなど、ずっと分からなかっただろう。
だが、今コイツが目の前にいる。
それだけが俺の今の現状だ。
『まあ、あんまりそいつをいじめてやらないでくれよ。
一応グレンがコイツの前に出たんだからさ』
「だったとしてもだ。それに、お前にも一端はあるんだからな、ヴァル!」
そんな中口を挟んでくるのはヴァルだ。
どうやら体の仕組みは人間と同じらしく、エネルギーの補給方法が食事な事には、人造人間とは?という思いが頭をよぎったが、恐らく体の中も人間と同じ―――つまり、細胞単位で同じなのだろう。
だが、そんな事もコイツのナリを見れば消し飛ぶ。
夏だというのにパーカーを着ているし、その金髪にサングラスと言うなりは何処かで見たようなものだ。
それだけで、コイツのおかしなところは十分なのだが、マスクをつけていることでこいつのイメージは変人に固定される。
見ていると暑苦しくなる、それが俺の感想だ。
『俺に罪を擦り付けるより、斉太をいじめた方が良いだろ?あ、ブロッコリーいただ...』
「それが原因だって言ってんだよ!お前も斉太と一緒に買い物行って来い!」
『「何ッ!?」』
全然分かっていなかった様なヴァルに買い物メモ(何も入っていないので調味料も含む、金は斉太持ち)をたたきつけ、斉太と共に家から追い出す。
そして残り物の米と冷食で持ち込んでいたすっかり冷えたブロッコリーを温め直し、俺が作った昼食が出されたのは二人が帰ってきてわずか15分後だった。
―――
「...おいしい」
「ん?あまりものだけど、いい出来だと自分でも思ったんだよな。おいしいって言ってもらえてよかった」
「なんだか悔しいかも」
「何がだよ」
腹が減ったという鈴のご要望に応え、余ったブロッコリーと多少残っていた米、それにこれを見越して一つ余分に買ってもらっていた鮭を焼き、ちょっとした―――と言っても朝飯よりかは豪華―――間食を用意した。
美味しかったようだが、悔しさも露わにしていた鈴。
その悔しさが鈴の料理の下手さを基にするものだと知るのは、いつだったか。




