実質避暑地でも何でもない盆地の盆
「わー!」
「ちょっと、姉さん!?そっちは...。」
「...わああああ!?」
「...もう、言ったのに」
旧氷華家であり、今では別荘のようになっている東北の中でも特に大きな県の南部に位置するその家は、ほかの場に比べて多少高めに位置がある。
そのために、鈴が小さな畑を走ればその高台から落ちてしまう。
そもそも、鈴のどこにこのような元気さがあったのだろうか。
―――
「...広いな」
それが、その家を見て俺が最初に感じた感想だ。
どのような間の取り方をしているのか、いくらでも考えられる。
実際、部屋数は少ないまでも一つ一つが広かった。
右手側にある居間には皆が入れたし、左手側の部屋はさらに左にある家の中の仏壇の部屋と襖一枚でつながっている。
更に、寝室は三つ(ベッドが置いている部屋、和室(さっき説明した左手側の部屋)、和室2(最も右手側にある)ある為、寝る場所にも困らない。
それに、家の左側にはさっきのとは違う大き目な畑があった。
それがこの家の―――旧氷華家の間取りだ。
「...広いと思うかね?」
唐突に氷華 斉太がそんな事を聞くものだから、これには驚く。
この様な事にはこいつは無関心だと思っていたため、そうなってしまったのだ。
「...まあ、意外には広かったな。
だけど、なんで離れが封印されているんだ?」
そういうと、人の心などなさそうな目の前の狂人は、眉を顰める。
そして、その表情は次に憤りに、そして悲しみを隠したような、疲れた顔をした。
そして、目の前の男は言った。
「―――私の妻の肉体が永久保存されているのだよ」と。
―――
「...そうか」
俺はそれしか言えなかった。
だが、氷華 斉太は先程見せた表情が嘘のように笑顔で、それも気味が悪いほどの笑顔でいう。
「...君も見るか?」
―――
「おお...。」
そこにあったのは、一部服の素材が違かったが綺麗な状態の服で身を包んだ女の姿だった。
目は開かれておらず、肉体の損傷などどこにもなさそうだった。
『...斉太。ようやく私の肉体が無くなったことに諦めがついたの?』
「!?」
『...お客様?意外だわ...。斉太は他の人となれ合わないって言ってなかった?』
「...そういえば、君はこうやって知能と精神を残していたのだったな。
あと、コイツは私の客ではないぞ。もう忘れてしまったか?」
そんな女の姿を見ていると、何処からか女の声が聞こえるから驚きものだ。
しかも、氷華 斉太がそんな声の主と楽しく...?かは分からないが話し出すから俺は話についていけなくなる。
ただ、思ったことはその女の喋りが優のそれに似ていたことだ。
―――
『もしかして、だけど。
あの子だって言いたいの?』
「...あの子ってなんだよ」
俺に向けられて言われていない言葉だったが、ついつい噛み付いてしまう。
この言い方は、俺の存在を氷華 斉太に問いただそうとしていた。
だからだ。
その言葉に、ほっとしたようなため息が横から聞こえたが、気のせいだろうか。
『...この感じと言えば、昔の斉太を思い出すわね。
ほら、高校生の頃の...。』
「その話を言うなッ‼」
が、その後の声に、そのため息の主は焦ったように止めようとする。
それに口をつぐむあたり、この声の主は彼の妻―――氷華 佑子だろうか。
二人が―――というより、昔の斉太はまだ幸せに暮らしていたのだろうと思った。
―――
「...えーと、佑子さん?」
『何かしら、威亜』
「なれるの早えな」
『...すっかり斉太に毒されてるじゃない。こうならないように離したのに...』
そこまで言った電子音声(というのは名ばかりで、実際には優の声と何ら変わりないのだが)は、いけないことを言ってしまったかのように口を閉ざす。
だが、俺はその言葉を聞き逃さなかった。
こうならないように、離した?
つまり...。
「...まるで俺がお前らと一緒に居た、みたいな口ぶりだが、どうなんだよ?斉太」
―――
「...佑子。私に面倒ごとを押し付けないでくれよ」
『ゴメンゴメン。ついつい言ってしまったねえ』
「...そういえばこんな感じだったね、佑子は」
『...まあね。結局私は変われないから』
「悲しいなあ」
口調が軽くなり、寧ろ友と話すような感じになっていた。
これが、さっきと同じ人物とは思えなかった。
「さて、と」
そういいながらこちらに向き直り、彼は言う。
「聞いてしまったかな?威亜君」
その言葉には、俺に拒否をさせないための命令だった。
...そんな時に、俺の中の反骨精神が芽生えた。
いつも、コイツは俺に対してこんな感じだった。
俺に対して絶対的な命令を下すだけなのがコイツだ。
「...だからなんだよ」
続いた言葉は、予想通りの物だった。
「では、君もこちら側の人間だ」
と、俺をそちら側に引きずり込むその一言を。
―――
「ヤダね」
そう答えたものの、氷華 斉太は苦笑する。
それが分からなくて、俺はつい聞いてしまう。
「...なんでそんな顔のままなんだよ」
その後に、俺はその言葉を聞かなければよかったと思った。




