『楔』 or 東北の別荘 夏ver.
「弓...。」
「ん?どうしたの、姉さん。
...もしかして、だけど、あれの苦行をやれっては言わないよね?」
「うグッ!?そ、そんなわけないでしょ、ねえ?」
「ふーん。じゃあ、こんなところでのんびりできないと思うけど?」
俺がちょうど優の家から出てきた頃、鈴と弓はフォール・オブ・レヴィアタンで会話していた。
...いや、正しく言えば鈴が多少自分の業務を擦り付けようとしているだけなのだが。
弓は多少鈴に対して冷たくなった。
元々が狂的に愛を謳っていた事を考えると、だが。
それに、弓自身も前のようになるのが怖くて今のような感じになったのではないか、そしてそれ以前に元々の弓はこんな感じじゃなかったのかという疑念がある。
...そうなると、俺はどうなるのか?
悩んではだめな気がする。
―――
「あああ...。」
「お疲れですか、鈴様」
「まあね」
《Wedge》。
VR世界の管理をダグラスが一任し―――そして、その管理が面倒臭いからという理由で鈴と共同で出資し作られた会社だ。
金的には社員一人一人が優秀な為少なく、またDestiny Planが人を集め、どんどんと金が溜まって行く為にこのように一人当たりの給料は増える。
そのように作られた、ちょっとした株式会社らしい。
なお、同じように株式会社の雪華社はDoomsday Knights事件によって株価が急激に低くなった―――が、最近のDestiny Planのおかげで株価は何故か回復しており、今はある程度は高いらしい。
それが氷華 斉太の起こしたことだというと、多少悲しいものがある。
「鈴様。菓子でございます」
「あ。ありがとうございますっ!」
「いえいえ。...本日も大変ですね、会長」
「う...。...やっぱり、私は会長なの?」
「ええ。お判りいただき光栄です」
鈴は軽く泣きかけた。
特にやることが無い為にこんなことをやっているのだが、鈴に取って言えば弓と一緒に居た方が楽しかった。
それでも賃金が発生している為に泣く泣く仕事をしているのだが―――そのせいでこのように疲れ果てているのだ。
それを甘えさせながら仕事をさせているこの女もすごいのだが―――俺にはその人物すらもまだ知らなかった。
―――
「わああぁぁ!ひっろーい!」
「...なんで私がこんなところにまた来なければならないのだ」
「...墓参りもあるでしょ。最近は碌に墓参りしてなかったし。こんなに沢山の人に来てくれれば母さんも喜ぶわよ」
「...そうか。今年は忙しくなりそうだ」
2041年、盆。
久しぶりに見たような広々とした(と言っても、盆地だが)土地に鈴は今までの苦労を晴らすようにはしゃいでいた。
一応どこかの会社にお世話になっているようだが、そこらへんは大丈夫らしい。
ダグラスも大丈夫と言っていたし、何より―――
「おお!これ木通って奴か?オイ斉太さんよお!これ喰っていいか?」
「おお。そういえば採り忘れていたな。最近までここで暮らしていたのに、忘れていた。
...そういえば、佑子が植えたものだったな」
―――本人がここにいるのだから、言う必要はなかったか。
不定休と言えども元旦ですら営業をするのに、珍しく休業日となっている<D's Cafe>の看板を見たものなら、店主が何かある、と踏むだろう。
実際、ダグラスの嫁さんも来ているわけだし。
 




