優の心の底にある、いつかの面影
「ふう...。」
【勝者、Ia!Bブロック勝者は、Ia選手ですっ!】
沸き立つ観客。
その声を聴きながら、俺は(なんでこんな目に...。)と思っていた。
―――
「さすがだね、イア。いやあ、ボクじゃ勝てないかも」
「いや、俺が負けたのはお前が初めてなんだけどな...。」
「でもさあ、実質ボクが勝てたのってふいうちだったからで...。」
「それでも勝ったことには変わりねえだろ」
「でもさあ...」「良いんだよ。お前にしか負けてねえってのは逆に誇りのようなものだ。俺が最強って思われたら困るからな」
前回の戦いが終わった後、俺と由紀はそんな話をしていた。
それを聞いて俺に挑戦者が現れる様になり―――気付けば、今のようになっていた。
俺としては残念無念では済ませる事でもなく、あの後こってりと二人を叱った。
...100-0であっちが悪いのだ。
別に問題...無いだろう、うん。
―――
「さすが団長!また戦えますね!」
「さすがイア!予想を裏切らない!」
「イア...今度は私も負けないからね?」
俺に近しい3人の女子は同じような―――由紀を除いて俺を称賛、由紀はそれに加えて挑戦を見え隠れさせる。
まあ、由紀の事だ。次には俺も負けているだろう。
そう思ったのだが―――。
―――
「いやあ、全く強い事だ。だが、私にはあまり効かないようだな」
「........」
「ん?なんだね?」
「........」
「...何か言ってはどうだ」
俺には、その声が怒りを導いているように思えた。
俺は彼と剣を交えながら怒りと戦っていたのだが―――。
しかし、怒りの方が強かったみたいだ。
俺の剣は彼の盾を粉みじんに砕き、怒りの咆哮が俺の口から飛び出した。
「......まった、お前かあああぁぁァァァッッ‼‼」
―――
「ハア、ハア...。
あんのくそ爺、まだ居やがったか...。」
「爺とはひどいな、せめてくそおやじにしてくれたまえ」
「...出たあぁぁ!?」
「...人を死人のように...まあいいが。......あ」
彼―――氷華 斉太はそこで気付いた。
こちらを冷たい表情で見ている優がいることを。
「くそ親父...?」
「ま、待ちたまえ、わ、私はまだやり残したことがそうだ由紀君の依頼内容を叶えるこドガアイダア酷いではないか優イダダダダ、助けたまえイア、君も私とは無関係でもないのだああアアイダァァ!?」
「...悪いな、俺はお前を助けれない。優に許してほしくば自分で謝ることだな」
彼は俺を絶望しながら凝視し、少しづつ現実の肉体にも届いていって欲しい極め技で肉体と彼の心が少しづつ削られていくのを実感しながら、自らのやってきたことが優にどれだけの痛みを与えていたか気づいた。
...そして、優の心の底にはVR世界でこうするという多少の優しさが残っていることにも。
―――
「全く酷いものだ、威亜。私の肉体が現実に戻っても悲鳴を上げていたぞ」
「...なんで優の家にいんだよ」
「まあ、許してあげたの。それと兄さん、お茶いる?」
「ああ、くれ。...できればやけどしないくらいなのが」
「猫舌なの?―――まあいいけど」
優の家に遊びに行くと、そこには由紀の姿は珍しくなく、その代わりに氷華 斉太がいた。
そんな中でさらっと俺に苦言を呈するあたり、アイツらしい。
それに、こんな優の家庭的な姿を見るのが意外だが、似合っているとも思った。
...そんな中、俺は二人のこんな姿が馴染み過ぎて気づいていなかった。
優が俺の事を『兄さん』と呼んだことに―――。




