妖精の国の由紀+感傷の氷華 斉太
「わー!とってもきれーい!」
「喜んでもらえて何よりだ」
2041年、7月6日。
俺と由紀―――<Keyl Snow>は、二人で妖精の街並みを見ていた。
俺があの大滝を破壊―――もとい、攻略してしまった為に種族間の争いは無くなり、寧ろすべての場所が皆を和ませることのできる、平和な場へとなっていた。
勿論、モンスターが居なくなったわけではないが、それでも平和な場面が非常に多くなった。
一応、この世界のメインクエストをクリアしたからだろうか―――。
そう思うと、またあの時のようなハードな戦いが出来ないのだから、少し寂しく思う。
...だが。
「やっぱり、平和が一番だなあ...。」
と、その言葉が言えるような平和がこの世界にはあった。
―――
「威亜あぁぁ...。」
「大丈夫か?鈴」
「これのどこがだいじょうぶに見えるの?」
「...ま、そうだよな」
同じ日。
あの世界からログアウトすると平和な世界は一転、俗に塗れ問題が多くなった、VR世界に逃げたくなるように大変な現実世界が待っている。
...まあ、問題と言っても良くて二つなのだが。
弓は、多少改善された。
というより、すでにおかしかった灰と共にいると、通常状態に戻るのだ。
それは灰も同じで、いま二人は近くの公園、もしくは河川敷にいる事だろう。
...だが、鈴にとってはそれが問題だった。
今までの緊張感が一切なくなり、脱力し過ぎている。
結果、この様に常にくたびれている。
その状態に、第二回<Rebellion for Gun>、通称RfG、もしくは初代VR大会と言う、直訳の名称をいただいたものを開催せねばならず、参加人数も前回の比ではない。
そのために、多少オペレータ増員を行わねばならず、ちょっとした代行会社を立ち上げるに至った。
しかも、その金は彼らがプレイすることも多々ある、Destiny Planの通信料の一部なのだ。
彼等としてはどのような考えなのだろうとも思ったが、きっとまともじゃあない。
...まともにオペレータできるのか?
そこらへんはまあ、そっち側のお偉いさんがこなすのだろう。
......そんなお偉いさんの上にいるのが、脱力しきって俺に甘えている目の前の少女だと思うと笑えそうだが、そんなそぶりを見せれば―――
「...なんで笑いそうなの?」
「いや、何でも」
―――このように叱られてしまう。
気をつけなくてはならないなと思いつつも、俺はこんな日々に概ね満足していた。
―――
「...由紀が懐くほどに明るく、優の心が解かされるほど温かい、か。
...その中に、私も入りたいものだな」
氷華 斉太は、何処からそれを知ったのか、現在の彼らを知っていた。
そして、この様に感傷に浸っていたのだった。
もう直接見る事も叶わないだろう、威亜の顔。
それが時折彼に佑子と言う名の彼の妻を見出させた。
それでも、彼はそんな彼らに背を向けた。
...いつか、その温かさに触れることが出来ると信じて、彼は常に彼らの闇でい続けた。