移動式トーチカ運転手兼重機関銃使いのダグラス
「オラオラア、道を開けろお!」
重機関銃の音と共にやってきたのはダグラスだ。
見た目は現実と全く変わらず、移動式の要塞(見た目に寄らずとても早く移動する。慣れていないと鳴り物酔いは確定)に乗りつつも重機関銃を撃っている姿はまさに狂戦士、と言ったところだ。
「弓、今日はお前が定期検査あるだろ?戻るぞ」
勿論のことながら弓は反対したが、最終的に鈴に促されるような形で鈴共々ログアウトした。
―――
「悪いな、旦那。
俺がアイツらの実質的な親だから、こうやって面倒を見なきゃなんねえんだ」
最近苦労が絶えないのか、若干元気のないその声に、俺は憤りを感じた。
「...なんでアイツらの親が…」
「もうアイツらの親はいない。全部、飛行機ハイジャックの所為だ。
...アイツらを責めないでやってくれ。あいつらも悪気があってああなったわけじゃねえんだ」
その言葉を残し、ダグラスもまた帰っていく。
恐らくは、精神崩壊状態にある現実の弓の経過観察を行うのだろう、と思えたのだが。
...こちらのような活発な動きを現実世界でも見せて欲しいものだが。
―――
「...似ている」
「何がだ?」
優が、弓が帰った後に発した言葉に俺は問う。
すると優は苦笑し、すぐに真顔になった。
この様な顔を見た事の無かった俺は、彼女に見せられた右手の醜い跡に、何かを感じた。
なんだ、と言えるようなものではないが、何故か知っているような感じがする。
「...あの子たちも大変なんだなあって思っただけ。
あ、これはただのやけどの跡よ」
多少苦しくも聞こえる優の言葉だが、今はそのくらいがちょうどいい。
...いや、よくないのかもしれないが。
―――
「......馬鹿な私」
優はログアウト後、自らを責めていた。
理由は一つだった。
自らが持っていた秘密を共有しようとしてしまったことだった。
...彼女は、小さな(と言っても、あまり小さくはなかったが)頃に母親を亡くしている。
その当時、彼女たちは幸せであり、氷華 斉太も今のような状態ではなく、普通の父親だった。
母親・佑子も健在であり、優は―――氷華一家は、幸せを満喫していた。
そんな夏の或る日、3人は別荘のような場所に身を置いていた。
東北にある盆地で、夏は暑く冬は寒いが、そんな不便なところと―――夏の夜に見ることのできる蛍の光、色鮮やかな光華を散らせる花火が好きだった。
ちょうど盆だったこともあり、母の方の家の墓参りに行って、帰り、息をついていた時だった。
突然、扉が割られ、そこからクマが入ってきた。
たまにクマが近くで見られることはあったのだが、まだ夏だ。
その為、彼女等はそれに対応できず―――。
その事によって、優は右腕の甲に傷を残し、彼女の母・佑子は命を落とし―――そして、父・斉太はそれから約半年、心を閉ざし続けた。
そんな或る日、久しぶりに彼は口を開いた。
『実は、私たちには息子がいた。ある家に預けたまま、君も知らずのうちに成長している』と。
優と斉太はそれからというもの変わった。
斉太は人が変わったように皮肉を言うようになり、優はそれに反発するかのように少しひねくれ、塩対応になった。
...そんなことなど、いま優といる者達は知らない。
恐らく、由紀でさえも。
そう思うたびに、彼女は心の奥底で感じていた。
近くに、自らを良く知る、いや知ってくれるものがいると。
彼女の少しだけおかしくなった心は、柚依に身を置いた。
そして、彼女は見つけてしまった。
自らの兄を―――。
だが、そのことを彼女自身は―――そして、当人ですらも気づいていない。
全ては、夏に始まった氷華一家に降りかかった災厄から―――そう、全ては一頭の熊から始まっていた。
そのクマが、狂龍に近しいものだったとは、この時は氷華 斉太と―――その当人である、グレンしか知らなかった。




