心を壊してもなお、紡ぐ思い
「...姉さんをいじめるなッ!」
ただその想いだけで敵プレイヤーを切り裂いていくのは、<Scull Alow>。
要は、弓だった。
俺達のせいで心が壊れた弓だが、鈴の関わることになるとこのように獅子奮迅の戦をする。
そして、鈴と共に―――いや、鈴を守る様にして生きているのだ。
それだけが、弓の生きる道だとでも言う様に。
―――
「大丈夫、弓?」
「...大丈夫だよ、姉さん。この肉体がいくら傷付いても現実では死なないから。
...僕だけ頼ってくれればいいんだよ」
「...弓」
弓は変わった。
いつか、俺が言った言葉だ。
―――だが、それは現実世界での話だ。
現実ではほとんど壊れてしまっている彼女が、VR世界に来ると活発になる。
それは、俺に―――俺達にはうれしい事だが、反面弓の現実での壊れ具合も俺達にとっては看過しがたい存在だ。
...それは、俺が由紀につかまっていた時に、ダグラスのみが気付いていた物だった。
「イア君、大丈夫ですか?」
一瞬何を聞かれたか分からなかったものの、ふと気づき俺は苦笑で返す。
すると、ムッとした様に頬を膨らませ、弓は言う。
「僕がそんなに変になりましたか?」
その仕草に、笑いをこらえきれずに噴き出したのは鈴だ。
「もう、姉さん。
...(可愛いんだからなあ)」
俺には弓の言葉が聞こえた。
弓に、そんな事を思う心があって、嬉しく思う。
―――
「...弓君がおかしくなってしまったか。
目標としては彼女の心を取り戻させるしかないが―――私の計画には大して支障がないな。
―――鈴君が死することが無ければ」
由紀のみが場所を知る小屋にて、氷華 斉太は今日も笑っていた。
が、その笑いは軽く憂いを帯びていた。
―――『鈴君が死することが無ければ』。
この一文が、鈴と呼ばれた威亜の恋人のような存在の命運を示唆していた、それに―――彼の計画に支障が出、彼が皆の前に出る羽目になったのだが、彼はまだそのことを知らない。
...いや、知っていたかもしれないが、彼は知ったとしても否定しただろう。
自ら生み出し、彼等の持った可能性―――それに大部分を賭けた彼の計画、『転生・狂皇』。
自らの行く末すら賭けた、その計画に彼らは否応なく引きずり込まれ、変わっていく『計画』の中、彼等は何を見るのだろうか。




