あれから少し先の話
「やっほー、威亜‼」
「なんで由紀がここにいんだよ」
「まあ、私と一緒に暮らしていたからかしらね」
「そうだよ‼それにしても、こっちでも可愛いなあ...。ボク、ちょっとだけ嫉妬しちゃうかも」
「ハイハイ、ワーオレカワイイナー」
「な!?...私もっとかわいくならなきゃ」
あの優勝から3日ほどたって、優と由紀の家は無事...?とは言えないかもしれないが、彼女たちの家として戻った。
...多少の制約付きだが。
その制約とは、家の一部スペースをDestiny Planの管理用コンピュータの置き場とすることや、集まるときはダグラスの所や優たちの家を使う事、など。
...ほとんど制約とは言えないし、コンピュータ置き場と言っても離れたところにある小屋に殆どのコンピュータを設置している為、実質は集会場となるぐらいだが、それもあまり集まる機会などなく、むしろ二人が俺の家に来ることの方が多いのだ。
...制約の意味とは?
そうダグラスに言っても、特に意味はなさそうなものだが。
「...由紀って感情如何で一人称変わるんだな」
最近気づいた事を指摘すると、優と由紀はそれぞれ違った反応を示した。
「それって、ボクが無意識にやってるって言いたいの!?そんな事、私はしてないのに...。」
「ええ。由紀は前からこうなの。それに、今も変わってたし」
「え!?嘘、ちょっとショック」
どうやら由紀の一人称の変わるのは無意識だとわかったが、そんな事は些細なことに過ぎない。
俺には、最近困ったことが―――それも、優と由紀の所為で引き起こされたことが俺の胸を締め付けるからだ。
―――
「姉さあん...。ぼく、姉さんがいなくて寂しいよお...。」
「弓、私は此処だよ。...弓?」
ある場所の一角。
まるで盲いた者のようにそんな声を出す弓と、その対象である、弓には届かない光を―――弓の求めている光を放つ鈴の姿がそこにはあった。
弓は、あの世界で多少―――いや、決定的に壊れてしまった。
実際、彼女の目に届くものは弓自身にとってどうでもいいようなものだった。
彼女の想いはただ一つ―――姉さん(鈴)を、その瞳に移して、自らだけを愛してほしい。
そんな思いなど、いまの鈴には届かない。
何故なら―――弓は、もう壊れてしまったから。
―――もう、彼女...いや、彼女たちはその目に未来を見る事は無い。
そのはずだった。
『僕が姉さんを守るよ』
その想いも、弓には伝える手段などもう存在しない。
佐々木 弓は廃人と化した。
その心にもつ、見えざる姉への愛情のみを声に出して、その言葉が意味を持たないものとなっても、彼女は鈴への愛の言葉を紡ぎ続けた。




