斬り結び or 本戦の優勝者
「ほかには誰もいないわね...。う、動きたくないけど動くしないみたい...か。
...ふふっ」
草原の一角にて。
優は誰もいなくなったこの場所から移動しようと考えた。
そのために彼女はたプレイヤーの場所把握を行ったのだが―――。
「...あんのくそおやじ」
そこには、彼女がくそおやじとしか言わなくなった男、氷華 斉太の居場所しか書いていなかった。
それは俺が隠れていたから、いや鈴が俺の場所特定を行うのをさせないために俺の場所を把握させないための措置なのだが―――優にはそんな事が分る筈も無い。
その為、彼女は氷華 斉太、いやゲイルブロウの向かっている方向―――つまり、俺がいる廃都市群に向かって進むのだった。
―――
「...優辺りが私を狙ってくるか。だがいい。あの身の程知らずに差を知らしめるには―――」
「ああ、サヨナラくそおやじ」
「何ッ、優―――」
ゲイルブロウ 死因、<V>のグレネード。 順位:3位。
...みていれば、多少可哀想と言っていたかもしれない。
―――
近くに崩落音が聞こえる。
建物全体が軋むような音までする。
俺は急いで九七式対物狙撃銃をしまうと、そのビルを飛び出し、腰のジョイントから剣を抜く。
それと同時に銃が自動的に装備ウィンドウに収納されたが、俺はそんなのにかまっている暇はない。
だって、急がなければこの建物に潰されてしまうのだから。
―――
「やった...?」
優はその頃頭に?を飛ばしていた。
廃ビル崩壊の原因は、彼女の持っているRPG-7である。
旧ソ連に由来し、一部の人には認知されている対戦車用の砲弾は、今俺を倒すためにだけ使われていた。
だが、優はその程度では俺が死なないと判断し(実際死にかけたが死んでない)、廃ビル方面に向かった。
―――
「いつつ...。優、俺に容赦するとかないのかよ!?」
「無いわね。今は貴方は敵なのだから」
「そうかよ...。...なんでいんだよ!?」
「いるからいるの。ほかに言い残すことは?」
「ねえよ」「じゃ、死になさい」
そうして突然始まった斬り結び。
なぜこうなったか、それは五分前に遡る。
ロケランを打ち込んできた優。
そのせいで俺がいた廃ビルは崩れた。
それでゆっくーりゆっくーり降下していたため、今までの事象が薄いのだ。
そうして、特に何を言うでもない切り結び。
だが、心の中には勝てる、という思いがあった。
こうやって切り結ぶ、それだけでも優はきつそうにしている。
それも、俺が片方しか使っていないのに、だ。
恐らく狙撃の方が慣れているせいなのだろうが、多少動きが固い。
しかも、斬りつける方向が目で予想できてしまう。
そのために、俺はすぐに終わらせることにした。
「...なんで負けちゃったの?勝てると思ったのに...。」
「俺の方が強いってことだ。諦めろ」
「そうそう、優はまだまだ甘いんだよ。ボクみたいに―――」
「由紀は甘すぎたから私に負けたんでしょうがっ!」
「!?」
本戦終了後。
結果は俺が一位で、ほとんどのプレイヤーが俺にかけた為にもうけは無し―――どころか、俺の倍率だけ異常に引き下げられていたみたいで、寧ろ俺にかけた奴の金がジゴ単位(ギガと同じだが、昔の映画でギガワットをジゴワットと表示したものがあったため、そこから引用したのだろう)で減っていき、それが俺に還元されていく。
何と言う素晴らし―――いや、酷いシステムなのだ。
他の人が羨まし―――ゴホン ごみを見るような目でこちらを見ているではないか。
そのため、俺は鈴に直談判しようとしたのだが―――。
「ああ、君はまだ話が終わってないから、ボクたちと一緒に残ってもらうよ。それでいいでしょ、優?」
「...ソイツ男だけど」
「そんなの気にしなくていいよ。優がどうなるかがこの人にかかってるんだから。勿論あの黒くておっきな身長の人に言ってくれるよね?」
「!?...ああ、なるべくな」
「ほんとなのかしらねえ...。」
突然、優と共にいた少女に腕をホールドされ、引き戻される。
こうされたら、指もステータスを開けるまで動かせない。
叫ぶことも考えたのだが、生憎鈴―――ベルはダグラスと話していてそれどころではない。
...それに、弓の軽蔑と殺意の篭った目線が俺には痛い。
―――なぜ、弓が俺に殺意の目線を向けているのか?
それを知るのはもう少し先であり、逆に知らなくていい内容―――いや、言いたくないような内容だったために語るのはなあ...と思えたのだが。




