荒野の骸骨弓
「ここも出るかあ...。」
俺は、この都市を出ることにした。
この都市にいても、何も起こらなそうと思ったからだ。
―――
「ここ等辺なのかなあ、団長は...。」
「...ここだぞ、弓」
俺は更に北上し、荒野に向かった。
そこにいたのは、たむろしている弓だった。
恐らくはスカルアロウとかいう名前の奴なのだろう、その名前であの頃のような顔で荒野を歩き回っていた。
そのことで、俺はもう昔になってしまったときの事を思い出していた。
―――
「こんなに寒いのに、お前以外居ないとはな...。」
「仕方ないですよ、団長。トラップ解除は僕達ではできないみたいですし、このまま待ちましょう」
「悔しいなあ...。」
ⅬⅩⅡ層、ある場所にて。
俺達はその時、偽攻略塔に潜り、そのトラップに気付いた時には別世界に転移させられていた。
其の世界はと言えば―――。
―――
あの世界の終わり―――その方法がゾッとした。
あの世界は、閉じるときに蛇が嚙み付いてきて俺達のHPを全損させようとして―――焦ったような顔をした氷華 斉太がその蛇を全滅させたのだった。
もしかすると、あの時からヒントはあったのかもしれないが...今思えば、その時の俺は勘が悪かったのだと思える。
嘗て鈴に鈍感だと言われたのも、そのような経緯だったのかもしれない。
―――正しく言うと、その理解もあってはいなかったのだが。
「あ、団長!お久しぶりですね!」
手を振って近づいてくる弓。
一応剣に手を添えるも、なるべく歓迎しようと思った。
その時、弓は突然横っ飛びにとんだ。
何があったか、と確認する間もなくさっき弓がいたところに銃弾が飛んだ。
どうやら弓は弾丸が来るのを予想していたらしい。
流石は弓だと思いつつも、俺はその銃弾の飛んできた方向を見る。
そこには、黒ずくめの―――砂と気持ち程度の茶色い草しかないこの場所では異常に目立つものがあった。
俺は、その男と目を合わせてしまった。
その目には、恐怖と怒り、それに憎悪が混ざっていた。
そのような目を、一度だけ俺は見た事があった、
やはりあの世界にて、プレイヤーに対して追いはぎをしていた奴だった。
「...イア」
その黒ずくめの口がそう動いた時、俺の心臓は撃ち抜かれていた。
―――
「よし!これで、あのくそ野郎も地獄に...。」
そこまで黒ずくめ―――かつてはウィルと名乗っていた―――、こと豚とろは後ろから来た殺意に気付いた。
「てめっ―――」
それが、自らがこよなく愛しているもの、銃に塗れた世界で彼が最後に発した言葉だった。
―――
つい怒りすぎてしまった。
一瞬で撃ってきたやつの後ろに回っていたが、何故だろう。
そう思ったとき、《特殊能力:瞬時転移を入手しました》というアナウンスが流れた。
一瞬驚くような鈴の顔が見えた気がしたが、まあ...気のせいだろう。
「団長!今のは...。」
「ああ!?なんだよ、さっさとどっかに行かねえと斬るぞ!」
「は、はあ...。」
俺は機嫌が悪かった。
前イヴェンシアと戦った時のように、いや同じく。
勿論、あの男の銃弾によって心臓が貫かれる代わりに、髪を代償としたのだ。
またもや俺のこの世界でのトレードマークが消し飛んだ。
...いや、こんなに言う必要はないかもしれない。
すぐに回復するだろうし。
「いや、悪かった。つい八つ当たりしてしまったな」
「...そうですか。自分の見た目が変わるのっていやですしね」
「そうだよな。...ん?もしかして、妖精の領主の時の姿が嫌だったりしたのか?」
そういうと、弓はマシンガンのようにしゃべりだす。
「そうなんですよ!聞いてくださいよ、あの見た目で強いといろんなところから声かかって‼そのせいでほかのプレイヤーに妬まれるし!いいことないんですよホント!この見た目の方が絶対に何も起こりませんって!団長もこっちの方がいいですよね‼ねえ‼」
「...あ、ああ、そうだな。こっちの方が話しかけやすいし、ピリピリしたままいられるとみんなが困る」
「そうですよね。ありがとうございます。では」
「おい、待て!」
...結局弓もいなくなってしまった。
姉妹揃って同じ行動をとるとは、ある意味凄い。
〔いやあ、まさか妹様もいなくなるとはね。もう私としてはびっくり者だよ。順位:27位〕




