吹き付けた疾風
「では、私は去るよ。また会おうではないか、イア君」
「あ、ああ...。」
「さらばだ」
...名前通り疾風のような男だ。
だが、その疾風と言う物の語源はよくわからなかった。
何故疾風なのだろうか。
そんな心も、アイツには通用しないのだろう。
「...疾風の如く駆け抜けた日々だったからさ」
その背中から、そんな言葉が聞こえた。
今度こそ、奴は何処かに行った。
だが、きっとそのうち会えるだろう。
これはバトルロワイヤル。いつか戦う運命にあるのだから。
―――
俺は小さな灌木に潜ることをやめ、中心部―――中世的な街並みが広がると言う町に向かうことにした。
「...今回は誰にも会わなかったな」
さっきのように誰かに襲われる事もなく、安全な旅をすること30分。
約3㎞離れた中心地。
中世的な街並みが広がっていたのだが―――。
「...アイツ、皮肉言ったな」
―――そこには、破壊された中世的な街並みが広がっていた。
―――
なんでこうなっているのか。
ベルは悩んでいた。
本来なら、この様に発展したところすらも戦場になり得るのだ、と言う事を知らしめたかったのだが、転移するとそこはすでに破壊された街になっていたのだ。
その為、彼女は誰かの侵略によってシステムが狂ったのではないか、とも疑った。
彼女は近づく足音を聞いた。
彼女がここにいることを知っているものはいないと思うが、これだけ警戒していないプレイヤーなどこの世界に存在するとも思えない。
―――いや、一人だけいた。
「...そりゃないか」
「どうしたんだ、鈴?」
鈴=ベルは思った人の声が聞こえて心が飛び跳ねる思いだった。
―――
「い、イア!?なんでここにいるの!?」
「いやあ、そりゃいるだろ。と言うか、なんでこんなところにいんだよ」
「こっちの台詞だよ...。」
中央地にあった廃城に向かうと、その一部屋に鈴―――いや、ベルがいた。
見た目はやはりあのころと変わらず、だが多少、何だろう、弱っちく見えた。
「...弱っちそう」
俺の口からこぼれたその言葉に、ベルは嗤う。
その理由は一つしかないだろう、とおもった。
「...その見た目で言うの!?アハハ...」
「わ、笑うなよ...。こっちだって少し恥ずかしいんだよ」
「だってさあ...。ックク...。」
流石にここまで笑われると、俺も少し悔しい。
―――
「それで、だな。一応俺達は敵同士なんだ、戦うか?」
バトルロワイヤルと言う設定を思い出し、そう言ったとき、目の前にはベルはいなかった。
特に音もしなかったし、何があったんだろう、と思いプレイヤーウィンドウを見ると―――。
〔いやー、私としてはイアと戦うのはいやだから撤退するよ!可愛いベルは撤退するっ!順位:多分35位〕
この世界を作ったからこそだろう、可愛いや多分などと言った適当な言葉がベルの死亡エフェクトに書いていた。
※なお、ベルは自主的に退場したため灰色ではなく虹色になっていた。