第一回《叛逆の銃骸》
「...大丈夫!?」
「え?俺は大丈夫だが...。
そうだ、あの野郎はどこに行った?」
「あの野郎?あなた以外に何もいなかったけど」
「は?いただろ、イヴェンシアって名乗った灰野郎」
「いなかったけど?頭でも打ったの?」
さっき空気に溶けて消えたイヴェンシアがそもそも優に見えていない。
そんな決定的な問題を無視しつつ、歩こうとして転ぶ。
そこには先ほど灰人間が落としていった対物狙撃銃、こと九七式対物狙撃銃、両手剣のように見える片手剣、こと《バスタード=スノウ》、後はグレアルドとかいうハンドガンだ。
「...これ、突然現れたけど、なに?」
優にはさっきまで見えていなかったようだ。
あの灰色野郎が見えないのなら仕方ないのか。あいつが出したものだしな。
―――
一連の騒動が終わり、レベルが上がった分の2000P近くを殆どAGIに回していると、謎の音が聞こえた。
ちょうど花火が爆発したような音だと思った。
次の瞬間、俺達は最初に出てきた場所―――ではなくそれに非常に似た何処かに転移していた。
「珍し、オープニング以外に此処に来れないって思ってたのに」
「どういう事なんだ?」
何故優が知っているのか思い聞くと、優はいつもの多少疲れたような顔ではなく、真顔になっていった。
「ここはね、基本隠蔽されている場所なの。ここに来れる事なんて、多分ないと思うんだけど」
―――
【初めまして、本日におきましては皆様どのようにお過ごしでしょうか。
要件といたしましては、本日より1週間後、バトルロワイヤルを開始いたしたく思いましたため、お伝えさせていただきました。
イベント申込期間、及び当イベント開催期間は、この<人馬宮>にて準備期間とさせていただきます。
あなた方に、射手の加護のあらんことを。Bell verio】
鈴の声を少し変えたような声が聞こえたと思うと、この人馬宮?の扉が開け放たれて、今までの荒廃の中にぽつんと立っていた街並みから一転、廃ビルが立ち並んだ街並みになった。
これは世界のリニューアルだと思ったが、良いだろう。
こんなにいい街並みになるのだから。
―――
「...ん?名前と住所の入力?なんでこんなにひどい設計にするのかしら」
横から、そんな優の言葉が聞こえた。
「ん?俺はそんなの出てこないぞ?」
「おかしいわね…。」
俺にはその表示が出ない理由。
それは一つしかないだろう。
―――これを作ったのが鈴で、俺の素性を知っているから。
音声認識があったのはそれが原因だろう。
―――
そこから約一週間がたった。
参加人数はこの世界にいる上位プレイヤー(月の通信料2980円をこの世界の稼ぎだけで払える奴)約500人を含めた720人だった。
この世界にいるのは暇人ばかりだけではないことを理解していたのだが、それでもこれだけ集まるのはひとえに鈴の手腕、ひいては氷華 斉太、そしてVR業界初の大会形式の物だったからだ。
予選に残った48人もの人でバトルロワイヤルをするのだが、鈴もこれだけ集まるのは考えていなかったのだろう。
―――
その俺の予想は正しかったようで。
「明日はいよいよ大会だね!沢山のプレイヤーの死体が見れるのが楽しみだよ!」
と、中々に恐ろしい事を言っていた。
その骸にならないように気を付けつつ挑もうと思った。




